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ベツレヘム777 第11話 リーベルG
★内容
「そのナザレ計画……どうでもいいんだけど、ナザレって何?聞き慣れない単
語だけど。そういえばベツレヘムもそうね」
サオリはカーティスとジャーランを交互に見やったが、どちらも口を開こう
としなかった。
「ま、ジン・バーソロミューが付けたんでしょうから、きっとそっち関係の固
有名詞か何かよね。何の話だっけ……そうそう、そのナザレ計画が具体的にど
んな計画なのかまではわからないの?」
「わからないの」
「今はまだわからないの?」サオリは底意地の悪い笑みを浮かべた。「それと
も、これからもわからないの?」
「今はまだ、の方よ。なにしろ見たこともないOSのシェルを切り開く必要が
あるんだから。これからも、の方になるのは一番底に到達してからよ。その可
能性は充分にあるけど」
「どういうこと?」
「OSにはナザレ計画遂行シークエンスが組み込まれているから、それを追い
かけることはできる。でも、同時に仕様書を組み込んでおく必要はないから、
何が目的なのかはわからないかもしれない」
「言いたいことがよくわからないんだけど」
「そんなことより」カーティスが口を挟んだ。「このステーションの施設のブ
ラウズはできないのか?」
「そういうサービスは用意されていないみたいね」
「でも、君なら分かるんだろ?」
「推測はできると思うけど。何が知りたいの?」
「通信設備だ。<ジブラルタル>に救援を要請しなければ」
「ああ、それならあるわよ」
「何が?」
「通信設備一式よ。軌道ステーションの標準からすれば、驚くほど少ないけど
ね。高出力パルスレーザー信号送受信施設が一組。独立電源方式、Vis97
レベル暗号セット対応、チャネルオートセンシング、S圧縮バーストモード」
「素晴らしい。どこにあるんだ?」
「使えないわよ」ジャーランは冷たく答えた。「インターフェイスは用意され
てないもの」
「何だって?」カーティスはジャーランの顔を穴が開くほど見つめた。「つま
り、通信設備はあっても、人間が操作するターミナルはないって言うのか?」
「そうよ」
「何のための通信設備なのよ、それ」サオリが呆れた口調で言った。
「知らないけど、ナザレ計画に必要なんじゃないかしら?」
「使えないわね、ったく」サオリは罵りながらカーティスを見た。「救援を求
めるのは後回しよ。とにかくサニルを助け出さないと。助けを呼ぶのはあいつ
にやらせましょう」
「なるほど」カーティスはうなずいた。「グレイヴィル市長の叱責が怖いんで
すな」
「べべ別に怖かないわよ。うるさいわね。あんたは黙ってソウルズを殺してれ
ばいいの。考えるのはあたしがやるから、武器でも選んでなさい」
カーティスはニヤリと笑うと、対人兵器群の方に向き直った。サオリはその
背中に向かって舌を出すと、ジャーランに訊いた。
「サニルがいそうな場所を割り出せる?」
「そういうサービスは用意されてないみたいね」
「あんた、それしか言えないの?用意されてなかったら用意したらどうなのよ」
「そうね」ジャーランはHMDを装着しなおした。「やってみるわ」
しばらくの間、サオリは苛々しながら待たされることになった。サオリには
多くの嫌いなものがあったが、誰かに待たされること、というのはリストの先
頭近くに位置している。特に、他にやることが何もないときはなおさらだった。
自分が遅れるのは2時間でも3時間でも平気なくせに、デートのときなど、約
束の時間を1秒過ぎた途端に、さっさと帰り始めるのが常である。
「お嬢さん」見かねたカーティスが声をかけた。「熊みたいにうろうろしてい
ないで、ドアの外でも見張っていて下さい」
「へえ、熊なんて見たことあるの?」サオリは憎まれ口を叩いたものの、やる
ことができて救われたように、顔を明るくしてドアに向かった。「武器はくれ
ないの?」
「何を撃つつもりですか?」カーティスは顔を上げようともしなかった。「た
だ外を見ていてくれればいいんです」
「ちぇっ!」サオリはドアにもたれて、淡いライトで照らされている通路に目
をやった。
その途端、あの音楽が流れ始めた。サオリは文字通り飛び上がった。
「ま、また始まったわ!」
カーティスが両手にスタッカートを握って、ドアに駆け寄った。丁寧とはい
えない手つきでサオリの身体を引き戻すと、通路に首を出す。
すぐにサオリは、カーティスの舌打ちの音を耳にした。
「また来ましたよ。ソウルズたちです。左の通路から進んで来ます。大群です
よ、こりゃ」
サオリはひょいと通路をのぞいてぞっとした。あの生物たちが整然と3列に
並んで通路を進んでくる。長い通路は、すぐに人あらざる生物たちで埋まった。
「やっぱりここに来るのかしら?」
「他にはないでしょう。お嬢さん、一体、何をやったんですか」
「あたしが何をしたってのよ。あたしが呼んだわけじゃないわよ」
「それは残念ですな」カーティスはスタッカートを構えた。「お嬢さんが呼ん
だのなら、追い返す方法も知っているでしょうに」
「そうだ!ジャーラン!通路を隔壁で遮断できないの?ステーションの規定通
りなら、12メートル間隔で気密シャッターが設置されているはずよ!」
「そういうサービスは……」ジャーランは言いかけた。
「ああ、もう、わかったわかった!」
「あいつら」カーティスが呟いた。「学習するということがないんですかね。
どうして素手で向かってくるんでしょう?」
「ソウルズが何を考えてるかなんて、あたしにわかるわけないでしょ。頭の中
で祈ってりゃ神が守ってくれて弾丸も跳ね返すと信じてても不思議じゃないわ
ね」
カーティスは列の先頭が、20メートルまで接近するのを待ってトリガーを
絞った。
30分後、カーティスの足元には撃ち尽くしたマガジンが数個、バレルクー
ラー機構の限界まで連射した2挺のスタッカートとともに転がっていた。
通路の20メートルより先には、無数の肉片と化したソウルズたちの死体が
積み重なっている。通路は塗料でもぶちまけたように毒々しい赤に染まってい
る。
「これはもう戦闘なんてものじゃないですよ」カーティスは嫌悪と疲労を同時
に声に滲ませた。「ただの虐殺です」
とはいえ、より穏やかな方法でのコミュニケーションを模索する気に、カー
ティスがなれなかったのも事実である。それに、敵の正体がホーリーソウルズ
に関係がある、と知ったことは、卑怯とか非人道的などの感情を消し去ってい
た。
通路を埋め尽くしたソウルズたちが全滅すると同時に、音楽はまたしてもピ
タリと止んでいた。
「どうなっているんだ」
「誰かがどこかで見ているか……」サオリがつぶやいた。「そういう仕掛けに
なっているのかもね」
「は?」
「どこかに、少なくともあいつらよりはまともに物を考えられる人間がいて、
音楽の演奏をコントロールしているか、ソウルズたちのヴァイタルサインが全
部消えると同時に、止まるようになっているのか、ってことよ」
「だとしたら、そいつは大バカものです。あれじゃ、わざわざ殺させによこし
たようなものだ」
「そりゃ、ソウルズだもん。ばかに決まってるじゃない」サオリはそう決めつ
けるとジャーランの方を向いた。「そっちはどう?何かわかった?」
「何か来るわ」
「え?」
サオリはドアの方を見た。カーティスはジャーランの言葉を耳にすると、新
しいスタッカートを持ち上げた。だが、ジャーランは静かに首を振って、二人
の誤解を正した。
「そうじゃない。システムブランチを探ってたら、DSTコントロールに行き
当たったの。このステーションの軌道に、200クラスのシャトルが接近して
いるわ。管制システムとのフォーマット交換は拒否しているけど、針路は確定
している。間違いなくここに来るわ。推定到着時刻は180秒後」
つづく