AWC 「世界の終わり」弐話「ヴァーサス」垣井


        
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★タイトル (JHM     )  97/ 4/16   1: 5  (125)
「世界の終わり」弐話「ヴァーサス」垣井
★内容
「ママ、早くおやつ買いにいこうよ」あつしは母の歳枝の服の袖を、可愛らし
い小さな腕でグイッと引っ張った。歳枝は台所に設置してあるTVのすぐ前で
、長女の咲と共に緊張した面持ちで、真っ青な顔でモニターを凝視していた。
「ママ、どうしたの?」
「・・・・・・」
「ねぇ、ママァ、早くいかないとお店屋さん閉まっちゃうよ。明日の動物園、
ボクだけおやつが無かったら、皆に笑われちゃうよ。ねぇ、ママ」
 歳枝は幾度も尋ねてくるあつしの柔らかい手を掴み、両手でゆっくりと握り
締めると微弱な声で言った。「あっくん。ママ、今、忙しいのよ。良い子だか
らそっちの部屋でおとなしくしててね。おやつは後で買いにいくから、ね?」
「ホントだよ。必ずだよ。必ずだよ」
「必ず。必ずいくわ。だからあっくんはおとなしくあっちのお部屋にいってて
ね」そう言うと力なく笑った。
「で、でも・・・・・もうお店が・」
「あつし! 後でおやつは買いにいくっていってるでしょ! あつしの我儘!
」8歳の咲がおさげ髪を揺らしながら、キンキンと響く声で怒鳴った。
「あっくん。ママの言うこと聞いてね」歳枝は、柔和な母の口調で優しくあつ
しに言った。あつしにはその表情がやけに哀しげに見えた。
「・・・・・・うん。わかったよ」そう言うと奥の部屋に渋渋、入っていった。
 歳枝と咲の見守る中、画面には又、夕方の再放送ドラマをバックに、字幕ス
ーパーが入ってきた。歳枝は自分の口の中が、緊張でからからと乾いているの
を感じた。立ち上がり、テレビの前に身を乗り出した。
 −新しい情報が入りました。アメリカによる核投下地は益々広がり、北朝鮮
のピョルダン周辺に、MIRV化(多目標弾道)ミサイル投下を確認。南アフ
リカ共和国付近にも、幾つかの弾道核ミサイルが投下されたという情報が、衛
生カメラから確認されました。各地の犠牲者、被爆者の数はまだ正確には分か
っていません。
 アメリカの自国への核攻撃への報復行為としてか、北朝鮮側がヨンビョン周
辺の核施設から、核弾道ミサイルとみられる物体を2発、アメリカに向けて発
射したという情報も入っています。この2発のミサイルはノドン1号、労働2
号ではないかという軍核専門家の見解です。
 現在、北朝鮮のチュチェ思想塔の周りで、パレードが行なわれているようで
す。北朝鮮はIAEAによる核関連施設の基察を一部、拒否するなどして核保
持への疑惑は強まっていましたが、これで実証的となりました。フランス政府
も核実験を幾度となく繰り返した成果を、現すという見方も出来るため、おそ
らく、アメリカへの報復処置を核攻撃により取ると考えられています。
 まだ、日本への核攻撃は確認されておりません。
 専門家によると友好国の日本には、攻撃はしてこないのではないかという意
見が出ています。国民は安心して引き続き待機せよ。という、政府の見解です
。次の情報が入り次第、お伝えします−
 歳枝はその字幕が出ている間、恐怖で体中から血の気が引いていくのを感じ
ていた。目の前で起こっていることが信じられなかった。
 字幕が消えてからも歳枝は、体がブルブル震えていた。咲は意味は分からな
いまでも、母の今まで見たこともないような怯えように、事の重大さをうっす
らと感じていた。
 政府はこの放送で、隠していた事があった。世界各国の事を客観的に報告し
、自国は安心という国民の感情を高めることを予想したこの放送は全て、真実
である。しかし、既に、日本各地には0.003メガトン級のミニットマン型
の核ミサイルが投下された事が、実は確認されていた。
 世界各地に投下されたものの影響で即死したものは、政府の正確な概要によ
ると、最低でも世界で2億人以上。
 この計算は熱線や爆風、放射線のせいでの即死者のみで、後発的な放射線障
害による死傷者は含まれていない。
「ママ、どうしたの。大丈夫?」咲は歳枝の肩を小刻みに揺すった。
「・・・・・・だ、大丈夫よ。咲、ママは大丈夫、ママは・・・・・・」
 向こうの部屋からしびれを切らしたあつしが不服そうに現われた。「ママ、
動物園のおやつ買わないと先生に怒られちゃうよ。早く、早く」
「あつし、黙ってなさいよ! 明日の動物園なんて・・・・・・」
「咲、やめなさい」
「明日の動物園なんて行けなくなるかもしれないのよ!」そう叫ぶと、咲はし
ゃっくりをすると、嗚咽するように泣きだした。歳枝も咲が泣きだしたのに呼
応するように感極まって、涙が溢れだした。
「ママ、泣かないでよ。ママが泣くとボクまで悲しくなっちゃうよ」あつしも
立ったままポロポロと涙を零し始めた。
 その時だった。、突然、窓がぴかっと光ったかと思うと、全てが真っ白く包
まれた。あつしは窓の方を振り返ろうとした瞬間、ゴゴゴゴゴゴゥゥという唸
るような轟音と共に強烈に白い、核の光の中に包みこまれた。歳枝は、その光
が、スポットライトのようだと思った。
 あつしの顔は輪郭の影を映し出した。をク、は凄、く綺麗な光、に入、っ、
。て、いったんだ。ボクは綺麗な光に囲まれた、ママもお姉ちゃんも一緒に気
持ちいい光に入っていったんだ。あっくん、ほら、きりんさんがいるわ。黄色
くて可愛いわね。ほんとだ。ねぇ、ママ、絵本でみたのと同じだ。首がボクの
何倍も長いよ。あつし、ほら、綺麗な鳥もみえるわ。ほら、おいでよ。あつし
、置いてくわよ! お姉ちゃん待ってよ。ボクを置いてかないでよ。あつし、
そんなに走ると転ぶわよ。待ってよ。お姉ちゃん。待ってよ。お姉ちゃんは足
が早いなぁ。アアアア、目が眩んでみえないよ。ママ。
 「又、ひとつ落とされたか。一体あの国は何を考えているのだ。START
Uはどうなったんだ。これから戦争を始めようというのか? 核による被害と
オーバーキル性(過剰殺戮)は、理解しているはずだろうが。儂には信じられ
ん」
「ハイ、何でも人為的に核を始動させないように、永久凍結の意味でコンピュ
ーターに、完備させていたという軍備システムがありまして」
「それがどうした?」
「それが何ものかにハッキングされてしまい、暴走を始めてしまい、米国さえ
も手が付けられないそうなんです」
「これは米国の見解です」
「核機関が、暴走してしまったのを言い訳してるだけではないのかね」  
「そうかもしれません」
「一発で何人死んだんだろう」
 世界中の歯車は狂い始めた。
 世界各地に大型の水爆、原爆はばらまかれ、死の灰が吹き荒れた。放射能汚
染の影響で大気は悲鳴をあげた。
 世界が軍縮の方向性を打ち出したくてもそれは建前で、米国は核最高保有国
だからこそ、世界の実験を握り、世界の中心から下がったフランスは核を欲し
がった。核を持っているという事だけで武力の誇示が出来るし、政治的にも影
響が強かった。
 核解体の動きがある昨今でもアメリカには最低でも、3000発のミサイル
が残っているのである。
「相手に劣らない核攻撃力の保持が、相手の軍事的行動を抑える、最後の決め
手になる」その論理に動かされていた冷戦時の米ソ。原爆の何百倍の爆発力の
水爆が出来た事も、人類には悲劇だった。
 この全面核戦争20分後の世界の人口は、大幅に減った。爆風、熱線、放射
線、核融合で即死しただけでも19億人。核兵器の殺傷能力は驚異的であり、
投下後に舞落ちる「死の灰(核分裂生成物)」が又、凄まじかった。
 その犠牲者は米国議会技術評価局が予想していた被害予想を、遥かに越えて
いた。
 こうして過剰殺戮の波は吹き荒れた。世界各地に真っ黒に焦げた、人の形を
していない死体が、瓦礫の間に放り出されていた。ニューヨークの自由の女神
は、熱線でドロドロに溶けて朽ち果てていた。その足元には肌の白い黒いもな
い、肉の塊が横たわっていた。
 爆心地にはクレーターが出現した。その場所はかつてマクドナルド、フライ
ドチキン等のフランチャイズ店がひしめき、大型ビルが聳えていた。
 もう、既にこの時点で世界は終わっていたのだ。世界中を次々と放射能が襲
うのである。しかし、まだ、核汚染もたいした事はなく、小型のものしかなぜ
か投下されていない国があった。
 日本である。その答えは簡単だった。アメリカの核兵器を操っている張本人
がいるのである。そして、そのものは徹と同じ街にいた。












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