#5028/7701 連載
★タイトル (FJM ) 97/ 4/11 18:41 (116)
ベツレヘム777 第6話 リーベルG
★内容
「ジャーランは大丈夫よ」サオリが歩いてきながら言い、ついで死体に目を落
として顔をしかめた。「なによ、これ。ほんとに人間なの?」
「わかりません」
「DNAフェイルかしらねえ」持ち前の好奇心を刺激されたらしく、サオリは
顔を近づけた。「でも、それにしちゃあ、しっかり動いてたし。ここの人口の
700人って、こいつらのことかしら?」
「おそらくそうでしょうね。人かどうかは知りませんが」カーティスは思い出
して、握っていたままのハンドガンをしまった。「それに単純なDNAフェイ
ラーではないようです」
「どうして、そんなことがわかるのよ」
カーティスは死体から読みとったことをざっと説明した。生殖器のくだりで
はためらいの口調になったが、サオリは顔を赤らめすらしなかった。
「つまり、こいつらはとっても気の毒な生活を送ってるってことね」
「はあ?」
「快楽モードに切り替えるってことができないってこと」
「……ええ、まあ、そうです。その他、下半身にも発達した筋肉が形成されて
います。あの敏捷な動きもうなずけますね、これなら」
「確かに足は速そうね」
「これは推測でしかないですが、こいつらはおそらく人為的に生み出されたん
でしょう。不要なものを一切排除した形で」
「そうか。こいつらは子供を産んで育てるってことをしないわけね。だから、
何にもないんだ。そのために必要なものが」
「ええ」
「単なる消耗品か。でも……」サオリの瞳に怒りが走った。「どうして、襲い
かかってきたのよ!それにサニルはどうなったの!」
「これから探しに行きます」カーティスの表情は暗かった。「必ず見つけ出し
ます」
ジャーランの意識が戻るのを待ち(正確にはサオリが穏便とは言えない手段
でその過程を早めた)、三人はプラットフォームから出た。シール・ドアの外
は左右に伸びる、幅3メートルの通路だった。
「どっちに行くの?」ジャーランが訊いた。
「そうね」サオリは右と左を見た後、左側を向いた。「こっちね。行くわよ」
カーティスとジャーランは顔を見合わせた後、黙って後に続いた。サオリが
左を選んだことに直感以外の根拠があるとは思えなかったが、どのみち二人も
正しい答えを知っているわけではない。ならば、サオリの好きにさせておくの
が賢明である。
通路は何度も折れ曲がっていた。途中にいくつか、開いたままのドアがあっ
たが、空の備品倉庫かレストルームの類だった。
「変ねえ」ジャーランがつぶやいた。「どうして、どこにも何の表示もないの
かしら。データターミナルもないし、ここに住んでる人たちは迷ったらどうす
るのかしら」
「あんな、おかしな奴らに迷うような知恵があるもんですか」
「いや、少なくとも奴らの行動は統制が取れてましたよ」
「だったらどっかで操ってる奴がいるのよ」
次の角を曲がったとたん、サオリは立ち止まった。
「パーソナルエリアみたいね」
通路の左右には、等間隔に並んだドアが続いていた。さすがにドアは閉ざさ
れており、アイ・パターンとヴァイタル・サインによるパーソナル識別シール
装置が設置されている。
「どうします?」
カーティスが訊いたときには、サオリは手近のドアの前に立っていた。シー
ル装置を試すが、ロックが解除されるはずもない。一瞬、ドアを蹴りつけるよ
うに右足を上げたが、さすがに同じ過ちを繰り返す愚を自覚したのか、そのま
ま下ろした。
「開けてちょうだい」サオリは静かな声で命じた。
カーティスがハンドガンのグリップを握ったとき、ジャーランが進み出た。
「あたしがやる。弾丸を大事にしないとね。なにしろ、敵はあと772人も残
ってるんだから」
言いながらドアに近づく。手首にいつも装着している7toHと呼ばれる装置
から、ファイバーケーブルをのばすと、アイ・パターンセンサーのメンテナン
スホールに突っ込む。アクセスを確認すると、バタフライパッドを開いて、フ
ィードバックされる情報を処理し始めた。
「このセキュリティパターンも見たことないわ」ジャーランはリードアウトを
読みながら言った。「へえ、すごい。三重のランダムループ識別だ。やっぱり
30年前。今じゃ、こんなの使ってない。おっと攻性トラップ。コアントロー
ウィルスでインターセプト。オッケー、ロック解除信号送信」
シール装置のパネルにグリーンのラインが走った。ジャーランは素早くケー
ブルを引き抜くと、後ろに下がった。同時にカーティスが二人を守るように前
に進み出る。
ドアが開いた。途端に三人は凍りついた。
細長い室内には、家具調度の類は全くおかれていなかった。そのかわりに、
小型カプセルが4つ並んでいた。ケースは透明で淡い燐光を放つブルーの液体
が満たされている。
その中に浮かんでいるのは、あの奇妙な敵性生物だった。
さすがのサオリも、しばしの間怒りを忘れてカプセルの中身を見つめていた。
カーティスは一番手前の生物の額に照準を合わせた。が、躊躇った挙げ句に
手を下ろした。
「出ましょう」囁くようにサオリたちに言う。「そっと下がって」
「ちょっと待ってよ」カーティスの配慮など気にも止めずに、サオリは大声で
怒鳴った。「こいつらをこのままにしとくっての?」
ジャーランが思わず首をすくめた。カプセルの中の敵性生物たちの目は、ど
れも固く閉ざされていたが、サオリの声は死者さえも甦らせかねないほど室内
に響きわたったからだ。わざわざ寝た子を起こすような真似をする必要はない
のに、と思わずにはいられない。
「何ができるっていうんです?私たちのやることは、サニル君を探し出すこと
でしょう。こいつらを殺したって何の手がかりも得られませんよ」
「殺すなんて言ってないでしょ!カーティス、あんた、あたしのことを何だと
思ってるの?血に飢えた復讐の女神か何かだとでも?」
「じゃあ、どうするんですか?」
「叩き起こして尋問するに決まってるじゃない」
「起こした途端に飛びかかってきますよ」
「手や足の一本でも撃ち抜けばいいじゃない。だいたい、さっきのやつだって
どうしてそうしなかったのよ」
「あんな状況で選んで撃ってる余裕などありますか」
「へえ、そんなこともできないの。一級射手だってきいたけど、たいしたこと
ないのね」
まじめに腹を立てる気にもなれなかったが、それでも相当むっとしたカーテ
ィスは何と言い返してやろうかと思案した。しかし、うまい言葉を探している
うちにばかばかしくなってきたので、口の中で意味のない音声を唱えたにとど
まった。
サオリはそんなカーティスを見て、馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、カプセ
ルの中に浮いている生物を憎悪と嫌悪をこめて睨みつけた。右手が固く握りし
められている。
何の前触れもなく、生物の両目がカッと開いた。
「わ!」
敵性生物の視線が、サオリのそれとぶつかり合い、さすがのサオリもたじろ
いで一歩下がった。
次の瞬間、滑らかなカプセルの表面の頂点から、まっすぐ垂直に亀裂が走っ
た。息を呑む間もなく真横に亀裂が走る。
カーティスが反射的にハンドガンを抜くと同時に、カプセルが破裂するよう
に開き、敵意をむき出しにした生物がサオリに飛びかかった。
つづく