#4221/7701 連載
★タイトル (AZA ) 95/ 5/28 9:34 (200)
うちの文芸部でやってること 3−9 永山
★内容
地獄の底までファンタジー!−−「五英雄伝」−−
原案:由良真沙輝 作:島津義家
はじめに
この小説は、由良真沙輝君の考えた原案に基づき、島津義家が小説化したも
のです。題して、「人はどこまで『コテコテ』に(あるいは『ベタ』になれる
か?」(こう書くと由良君は怒るかもしれないが)。従って「つまらない」と
言うのは勝手ですが、「ありがちだ」とは言わないように。分かってやってい
ることだから。また、来たるべき「ファンタジー系の小説」の執筆のための、
練習兼アク抜きという意味合いもあります。
とにかく、本文中には、ロールプレイングゲーム的ファンタジー小説にとっ
ては頭痛がするほど、コテコテなネタに満ち溢れています。とはいえ筆者は性
格がねじれているので、何とかこの手の小説の最大公約数の話では終わらない
形にしようと、あれこれ画策しています。が、なにぶん筋金入りの素人のやっ
ていることなので、本人は独創的だと思っていても、実は使い古されたネタ、
という可能性も充分にあります。
なお、巻末には由良君の原案を掲載してあります。筆者が由良君から与えら
れた情報は、基本的にここに記載したもので全てです。原案を見れば分かると
思いますが、少々複雑で、それをそのまま再現すると文章量が多くなり過ぎる
ので、勝手ながらこちらで手直しを加えて簡略化しています。興味のある人は、
原案と本作の相違点を探してみるのもいいでしょう。
<主な登場人物>
・クリバック
主人公。背後霊のようにまとわりつく「魔剣」の正体を知るために旅をして
いる魔剣士。闇曜石の剣を使う。
・スウェルド
竜の血を飲み、空を飛ぶ力を得た竜騎士。その称号にふさわしい実力をつけ
るため、「魔道の島」グリミーカ島に行く決心をする。槍の使い手。
・クレスタ
タングルーム王国第二王子の地位を捨てた、ランディール帝国聖騎士団団長。
レブノスの後見人でもある。真面目な性格。
・レブノス
魔道士の家系に生まれたランディール帝国の前帝の隠し子。魔道より剣の道
に興味を覚え、魔道騎士となるべくクレスタの従騎士となる。
・コトリン
「天」の属性を持つグリミーカの魔道士。九十年前から時間と空間を飛び越
えてやって来た。
・ホーカム
ランディール帝国の勇猛果敢な皇子。
・エタンダール
ランディール帝国の宰相であると同時に、「地」の属性を持つグリミーカ生
まれの魔道士。魔道の均衡を守るため、「金の魔神」の復活を企む。
色の表記
赤→炎色 黄→陽色 白→雲色 黒→闇色 銀→月色
その他、「風色」は若草色を指す。
天の五方 地の五方
火 月 金
↑ \ / 単位
風←天→水 地 1 レード = 1.74メートル
↓ / \ 1クレード = 1.74センチ
土 陽 星 1ヘレード = 1.74キロメートル
プロローグ
そこは、リムリースと呼ばれていた。リムリースとはそこに住む人々にとっ
ては大地、大陸を示す単語であったが、それはまた、世界やこの世といった意
味と同義でもあった。
聖暦五四五年。
タングルーム王国北部。「不毛の大地」という意味を持つトゥアーザ山の麓。
王国の平和を賭けた決戦は終わりを告げようとしていた。金の魔神の暴走を
食い止めるべく集まった五人の勇者達。彼等はそれぞれ、水、風、火、土、そ
して天。いわゆる「正の五方」の魔神の守護を受けていた。そうでなければ、
「負の五方」の一つであり、その魔力の源である金の魔神に対抗出来る訳がな
かった。
金の魔神は今や、勇者達の執拗な攻撃によって魔力を失いかけていた。だが、
それでもなお、存在そのものを消滅させるのは、人である勇者達には困難であ
った。勇者達は皆傷付き、とどめを刺せそうになかった。
「倒せないのであれば、金の魔神の本体と魂を切り離し、封印するのみ」
土の勇者はそう言って、両手に持った闇色の剣を金の魔神の方に向けた。
「我が剣の呪縛によって、魂を永遠にこの剣に封印する!」
土の勇者は剣を逆手に持ちかえ、渾身の力を込めて金の魔神の顔面に投げ付
けた。
深々と剣が突き刺さる。金の魔神は表現しがたい凄まじい絶叫を上げた。そ
して、動きが止まると、土のようになった身体がボロボロと崩れ始めた。
「……終わったのか?」
火の勇者が土の勇者に聞く。
「さあな。ただ封印しただけだからな。本体を大地に、魂をあの剣の中に」
土の勇者は、金の魔神のなれの果てである土塊にうずもれるようになってい
る剣に視線を送った。
「いつ甦るか分からないということですか」
風の勇者がいまいましげに呟く。
「で、あの剣はどうするんだ? ここに放り出して置く訳にもいくまい」
水の勇者が尋ねた。
「ああ、そうだな……。俺は、あの剣はグリミーカに返そうと思う。あそこは、
金の魔神にとっちゃ、故郷みたいなもんだからな」
「なるほど。それがいいだろう」
天の勇者がそう言った後、全員の間を沈黙が支配した。
「これで、お別れですね」
やがて、風の勇者がぽつりと言った。他の四人がうなずく。
「ああ。もう会うこともないだろうが、みんな元気でな」
「では、さらばだ」
「皆さん、お元気で」
五人の勇者は、それぞれの帰る場所へと旅立っていった。彼等のうち、ある
者は王位を継ぎ、ある者は国を再興し、ある者は小さな土地をもらい、静かに
暮らした。全員が、いずれ訪れるかもしれない金の魔神の復活を気にかけなが
ら。
だが、彼等は重大な錯誤を犯したことに気付いていなかった。金の魔神がグ
リミーカ魔道王国を支える八つの力の根源であったことを。それを封印された
グリミーカ魔道王国では魔力の均衡が失われ、次第にその力が暴走を始めたこ
とを。
そう。勇者達の勝利は必ずしも世界の安定につながるものではなかったのだ。
むしろ、新たな火種を撒き散らしただけに終わったのである。
1・宰相、皇帝に背き出奔す
聖暦六四五年。
ランディール帝国首都・ディンキオ。
その街は、南側に大きく湾が口を開いた格好になっている平野に作られてお
り、その地形的優位性から、古くから人の集まる場所として栄えていた。
その中心に築かれた王宮の大広間では、皇帝・ハインドと宰相・エタンダー
ルが激論を交わしていた。優秀な後継ぎとして期待がかけられている皇子・ホ
ーカムの姿はここにはない。少々勇まし過ぎる性格を持つ彼は、今日も軍事演
習の指揮を執っている。
「ならぬ、ならぬぞ! こともあろうに金の魔神を復活させようなどと」
王座のハインドが腹に響く声を出す。
「我ら、魔道の者は皆、魔力が乱れている現状を憂えております。その根源は、
金の魔神が封印され、八つからなる魔力の均衡が崩れたためなのです」
片膝をついたエタンダールがハインドとは対照的に静かに言う。彼は宰相で
あると同時に国内の魔道士達にとっての最高指導者とでも呼ぶべき立場にあり、
その主だった者をこの場に引き連れて来ていた。
「だからと言って、金の魔神を復活させようものなら、百年前の悲劇を繰り返
すだけだ! 金の魔神を抑える術がある訳でもあるまいに!」
ハインドが立ち上がる。それに呼応し、彼の両脇を固める若き騎士達が腰の
剣に手をかける。彼等の所属する聖騎士団の団長もまたここにはいない。彼も
また、ホーカムと共に軍事演習に参加している。エタンダールは、帝国内にお
いて並び称される剣の達人が共にいないときを狙って、ハインドの元を訪れて
いたのだった。
騎士達が戦うそぶりを見せたのに呼応し、エタンダールの背後に控えていた
宮廷魔道士達も戦いの構えを取る。両者の間に険悪な空気が流れた。
だが、エタンダールは魔道士達を制止し、ハインドに向き直った。
「どうしても、我等が考えを認めてはくれませぬか」
「無論だ」
「では、仕方ありますまい。お許しを得られないのなら、実力をもって!」
次の瞬間、エタンダールがハインドの方に両手を突き出した。すると、部屋
の空気がハインドの方に激しく流れ出した。
「何をする!」
ハインドは王座ごと後ろの壁に叩き付けられた。護衛の騎士達も同様で、全
く反撃できない。
「この国に仕えて九十年。このような形で信頼を失うのは、我々としても本意
ではありませぬ。しかしながら、誰かがやらねばならぬのです。魔力を失えば、
我等の存在する意味がなくなるのです」
エタンダールが静かな口調で言った。その口調は、激しい風が一瞬の真空を
作り、ハインドと騎士達の身体を痛めつけている目の前の光景とは余りにも懸
け離れていた。
「では、諸君。行こう、封印の地へ」
苦しみ悶えるハインド達をその場に残したまま、エタンダールは魔道士達を
引き連れて大広間を去っていった。
2・魔剣士、竜騎士を友に得る
タングルーム王国中部の街。
故郷を旅立って三ヶ月。剣士・クリバック=ゾール=ザンヴィアースはこの
街に入ってすぐ、周囲の視線が自分に集中しているのを感じていた。
(全く、参るよな……)
クリバックは内心で溜め息をついた。彼には視線が集まる理由が分かってい
た。
その理由は彼の闇色の髪でも、闇色の皮鎧でも、闇色の肩当てでもなかった。
腰に下げる、陽気を帯びた闇曜石の剣でもなかった。
全ての根源は、彼の後方、約五十クレードのところに闇色の妖気を発散しな
がら背後霊のように浮かぶ、抜き身の剣だった。
時代が時代だけに、どんな変な奴がいてもおかしくはなかったが、宙に浮く
剣を御供に旅をする剣士というのは、さすがに珍しかった。目立つのは決して
嫌いではないクリバックにしても、こんな形で注目が集まっても嬉しくはなか
った。
何故そんな剣が彼にまとわりついているのか? それはクリバックにも分か
らなかった。半年ほど前のある日、旅の途中に気が付くと剣が背後に浮かんで
いたのだ、としか言いようがない。
その気になれば柄を握り、振り回すことの出来るれっきとした剣なのだが、
どうしても振り払えない。もしかするとやばい呪いにかかってしまってのでは
ないか、とクリバックは考えていた。
今や、この剣の正体を知ることが旅の目的となっていた。今日、彼がこの街
に訪れた一番の目的は、この怪しげな剣を武器屋に見せ、どうにかしてもらう
ことだった。そのために、恥を忍んでわざわざやってきたのだ。
目的の武器屋は、比較的大きなこの街のほぼ中心にあった。ここの武器屋の
主人の鑑定眼には定評があり、何らかの回答を与えてくれるはずだとクリバッ
クは考えていた。
「邪魔するよ」
武器屋に入ると、先客がいた。光色の髪で月色の鎧を身に着けており、見た
ところ歳はクリバックよりも若そうだった。その少年は手にした月水晶の槍に
ついて、色々と主人に話しかけていた。どうやら値段をまけろと言っているら
しい。
「早くしてくれないか。こっちはちょっと深刻な用事があるんだ」
しばらくおとなしく待っていたクリバックだが、たまりかねて声をかけた。
「ああ、どうも。この槍の威力がこの主人の言うほどのものなのかどうか、ち
ょっと信用出来なくてね」
少年が振り返り、クリバックの後ろに浮く剣に目を留めた。
「随分珍しい剣だな」
「ほっとけ。俺は迷惑してるんだ。ここの主人に早く何とかしてもらいたいん
だ」
3−10に続く