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古事記 上巻 伊邪那岐命・伊邪那美命 一、オノゴロ島(2)
★内容
「せっかく行ってくれるのだから、これを持っていきなさい」
といってクニノトコタチノカミは玉できれいに飾られた矛を取り出しました。
「どうもありがとうございます、兄上」
イザナキノカミがそれを受け取ります。
「いってらっしゃーい」
スヒヂニノカミがさっきまでの喧嘩のことなどすっかり忘れた様子で軽く手
を振ります。もっとも頬はまだ赤かったりするのですが。
「行こうか」
イザナミノカミに合図をし、地上に向かって縄梯子をかけて下へ降りていき
ました。
さて、いよいよ下界が近づくにつれ、ある疑問がイザナキノカミに浮かんで
きました。
どうやってその上に降り立つのか。
下界はまだどろどろとした状態で、とても立てる状態ではありません。
梯子を降りる手を止めイザナキノカミが対策を考えていると、続いて降りて
きたイザナミノカミが、
「どうしたんです? 早く降りてくださいな」
イザナキノカミが上にいるイザナミノカミにその疑問をいうと、
「兄上からもらった矛は使えないのですか?」
「そういえば、これの使い方を聞くのを忘れていたよ」
イザナキノカミが苦笑しながら言います。
「そういえば私も兄上からこれをもらったんですよね。中はまだ見ていないん
ですけど」
といってイザナミノカミは片手で梯子を持ちながら、背中にからっておいた
竹の束を取り出しました。どうやら竹簡のようです。
「どれ、みせてごらん」
イザナキノカミがイザナミノカミから器用に竹簡を受け取ります。
「よっと、みにくいな。えーなになに? 「矛はかき混ぜる為にあるものなり」?
どういうことだ? これは」
イザナキノカミはそう言うと竹簡を投げ棄てました。
「さあ? こんなところで考えるよりも、とりあえずぎりぎりまで降りてみま
しょうよ」
イザナミノカミが下に提案します。
「そうだな。考えていてもしようがないか」
イザナキノカミは再び下へ向かって降りていきます。
2柱の神はとうとう梯子が切れるところまでたどり着きました。
すぐ下はどろどろとした地面が手を伸ばせば届くようなところにあります。
「うーん、どうしようか」
またイザナキノカミが考え込みます。
「さっき書いていた通りに矛を使って下をかき混ぜてみたらどうです? それ
から考えてもいいでしょう?」
とイザナミノカミ。腕がそろそろ限界のようで、ぷるぷると震えています。
「やってみるか。どうか、私達が立てますように」
そういってイザナキノカミは地面を矛でかき混ぜはじめました。
ところが一向に何も起こりません。何回も何回もかき混ぜても全く変りがあ
りません。「なんなんだ? この矛は」
そういうとイザナキノカミは矛を上に引き上げました。
すると引き上げたときの地面の滴で、みるみるうちに固い地面が出来上がり
ました。
「なるほど、こういうことか。それならそうと詳しく説明してくれたらいいの
に」
イザナキノカミが梯子にかけていた手を離し、出来上がったばかりの地面に
足をつけました。そのとき、
「きゃっ」
女性の声がしたかと思うとイザニキノカミはどすんと衝撃を感じ、そのまま
できたてほやほやの地面と熱いキスをする羽目になったのでございます。
原因は……いわずともわかると思います。
こうして一番始めに出来上がった固い地面、海原に浮かぶ島を淤能碁呂(オ
ノゴロ)島と呼んでおります。