AWC ちょっと恐い話 第六話  登季島


        
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★タイトル (LLD     )  95/ 2/18  20:48  ( 59)
ちょっと恐い話 第六話  登季島
★内容
 私がその女を見たのは、これで二度目だった。ひと月ほ
ど前、確かにその女は私の住む大型団地を大きな紙を広げ
ながら歩いていた。下には固そうなプラスティックの板が
しいてあり、上の金具が紙をきつく押さえていた。女は団
地のベランダを上から下までなめるようにのぞきながら、
時折紙に何かを書き込んでいる。私は当然その女に不審の
目を向けた。確か前に同じような光景をテレビで見たこと
がある。洗濯物の干してある状況、明かりがつく時間など
から、そこに住む住民の構成や性格までも推測して、その
情報を売る連中がいるらしいのだ。
 その時私は
「何をやっているんですか」
 と詰問したが、女は
「公共の調査です。この団地は公団ですから、どういうふ
うに使われているか、国としては調べる必要があるのです」
 と平然と言い返した。私は他に用事もあったので、
「よく言うよ」
 と捨てぜりふを残してそこを立ち去ったが、何となくそ
の日は一日気分が悪かった。

 それから一か月、私はまたその時の女を見たのである。
場所は友人の住む都下郊外の大型団地で、時間はすでに夜
の七時を回っていた。暗い街灯の下ですれ違ったとはいえ、
あの独特のあくの強い顔を、私の目は確かにとらえていた。
 向こうは私に気づいていないようだった。というより、
覚えていないに違いない。私はしばらくした後振り返り、
女をつけてみることにした。

 女は早足でどんどん人里離れた方へ向かっていく。丘の
方へと向かっていく。そこはまだ開発の手が入っていない
ところで、恐ろしいまでの暗さだった。私は女を見失わな
いように懸命に後をつけたが、女は木をかき分け、落ち葉
を踏んで、奥へ奥へと入っていく。
 やがて女は立ち止まり、前のめりにじゃがみこんで、頭
を地面と並行にした。つまり、下を見つめていたのだが、
私はやがてそこがどうやら穴になっていることに気がつい
た。しばらくすると、女は堰をきったように、一気に何か
を叫びだした。はじめはよく聞き取れなかったが、だんだ
んその内容がわかってきた。何とそれは・・・団地住民の
・・・人にはあまり知られたくない・・・プライバシーの
数々ではないか・・・女は次から次へとしゃべっている。

 私は現代版の「王様の耳はロバの耳」か、と苦笑すると、
そこをそっと立ち去ることにした。帰り道、何かがおかし
い、とは思ったが、あの女に前ほどの憎しみは、なぜかも
う感じていなかった。


                       おわり


 本日より一か月間の間、引っ越し前後のゴタゴタのため、
休載します。なお、実は引っ越しに便乗して、案が出ない
のをごまかした、という説もあります(^^;)。それに
しても・・・案は突然出なくなる!?


              登季島 吾郎





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