AWC ちょっと恐い話 第四話  登季島


        
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★タイトル (LLD     )  95/ 2/10   1: 3  ( 63)
ちょっと恐い話 第四話  登季島
★内容
 時速六、七十キロほどで通り過ぎる夜の町並みに視線を
はわせながら、私は気があせっていた。いつもは心地よい
リズムにすら感じられるガタンゴトンという独特のレール
音が、きょうは私のいらいらを増幅した。時計を見ると、
もう八時半を回っている。待ち合わせの時間は、その八時
半だった。目的の駅まではあと二十分はかかるだろう・・
・。待ち合わせといっても、野郎どうしのものであり、気
心の知れた奴と営業に関する情報交換をするだけだったか
ら、普段ならそれほどは気にはしなかった。実際、奴とは
今までに何度も待ち合わせをしているが、だいたいどちら
かが十分以上遅れて来た。しかも最近は三度ほど続けて奴
の方が遅刻している。だから今回私が奴を待たせても、ど
うってことないはずだった。
 しかし、である。今回はつい勢いで、お互いに絶対時間
厳守を約束してしまっていたのである。十分以上遅れたら、
待つ方は帰ってよし、その場合は遅れた方が二度続けて夕
食をおごる、という約束がなされていたのだった。女性と
ならともかく、野郎との夕食で、七百円の定食が千四百円
になるわけだから、これは大いに痛かった。

 ようやく待ち望んだ駅のアナウンスがされて、私は都下
郊外のとある駅で降り、すぐに全速力で駆け出した。人目
などかまってはいられない。待ち合わせの場所は、階段を
降りてすぐのファーストフードの店だった。私はそこへ飛
び込むと、コーヒーを注文して一気に二階に駆け上がった。
あたりを見回すと、ブレザーの女子高校生だらけである。
塾の帰りのようだった。とっくに飲み食いは終わっていた
が、世間話に花を咲かせていた。三十男は一人だけいたが、
彼は私が探す相手ではなかった。友人はどうやら本当に帰
ってしまったようだった。時計はもう八時五十五分を指し
ている。約束の時間をすでに二十五分も過ぎている。そう
であっても仕方がなかった。
 やたらと明るい笑い声が聞こえる店内で、私はやや恥ず
かしさを感じながら、鞄から本を取り出してぱらぱらとめ
くり、コーヒーに息を吹きかけ、それからすすった。あい
つだって遅れているかもしれない、とにかくあと十五分ほ
ど待ってみようと考えた。
 本にはあまり身が入らなかった。私はしばしばきょろき
ょろとしたし、時計も幾度となくのぞいてみた。コーヒー
はすぐに飲み干したが、私はそれでもとにかくそこにとど
まった。

 九時を十五分ほど過ぎて、ようやく私は立ち上がった。
やむをえない、帰ろう、と思ったのだ。勢いよくコップを
ごみ箱に放り込むと、階段を二、三歩下っていった。その
時である。上の方からとんでもない声が聞こえてきた。
「テレクラじゃない、やっだあー」
「きゃあ、いやらしい」

 私はがっくりきた。おい、こら、えーかげんせいよ。三
十過ぎてファーストフードで野郎どうしで待ち合わせする
ことだってあるんだわい。


                       おわり



 ちょっと恐い話ばかりも何ですので、今回は笑い話を書
きました。十話の中で二、三編はそうしよう、と思ってい
ます。

                    登季島 吾郎




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