AWC せっかく踊ったので


        
#3920/7701 連載
★タイトル (LLD     )  94/12/29  11:35  ( 79)
せっかく踊ったので
★内容

 せっかく踊ったので、以下、プロローグだけをアップ
します。

                  プロローグ

 教育一族といわれる人々がいる。教育一族とは、その
一族郎党の多くが、教育関係の公職に就き、人事を握り、
予算を左右して、その地方の有力者として権勢をふるっ
ているもののことを指す。
 教育一族とは、無論全部とはいわないが、たいがいが
大変な見栄っぱりである。世間から尊敬されるような形
で権力を手中におさめていないと気が済まない。そして
その強い権力欲と同時に、そこに属する男性の場合は、
極めて性欲も方も盛んな場合が多い。自分を美化して女
性に近づいていく手口は、まさに他の追随を許さない。
 その一方で、金銭欲に関しては驚くほど淡白である。
それは金にまつわるイメージの悪さを彼らが敬遠してい
るからだ。したがって、政治家と違い、彼らが金にまつ
わる話で窮地に追いつめられるということはない。
 もしかすると政治家も、金より権力といったタイプで
あるのかもしれない。ただ、教育一族と政治家が違うと
ころは、その権力の維持に政治家は金がかかり、教育一
族は全く金がかからないという点にある。
 かつて、一人のフリーライターが、教育一族の権力構
造についてメスを入れようと、果敢に取材活動を行った
ことがある。しかし、この男は半年後ノイローゼ状態と
なり、さらに半年後には自ら命を断った。
 彼は保守を中心とする権力側との戦いには十分に慣れ
ており、その反骨精神には定評があった。しかし、教育
一族が動かしたのは、それだけではなかったのである。
その力は、いわゆる反権力の権力、すなわち組合や市民
団体といったところにも行き届いていた。保守権力とは
果敢にペンで戦ってきた彼も、反権力の権力に追いつめ
られると、あまりにももろかった。
 近所の人は、何度か激しく絶叫するこの男の声を聞い
ている。それはこの世の声とは思えない、まさに断末魔
のような叫び声だったそうである。

 一方、学生時代、オットセイとよく呼ばれた男がいる。
友人がアパートに行くと、寝ころんでいることが多く、
その体型と合わせてそう名づけられた。その男も教育一
族に追いつめられた一人である。ただ、彼が追いつめら
れた原因は、自殺したフリーライターとは全く異なる。
教育一族の仮面をはぎ、その実態を明らかにしよう、な
どという社会正義じみたことをやろうとしたわけではな
い。もともと彼はそれほど勇気のある男ではない。
 大学四年の時、彼は公立学校教員の採用試験を受けた。
八月に一次試験合格の報を受け取り、その三週間後に二
次試験を受けることになった。二次試験は、面接及び論
文、実技である。その時、教育学部の友人が彼のアパー
トを訪れて言った。
「おい、みんな頼んでいるそうだけど、おまえまだだろ、
どうする?」
 頼む、とはもちろん採用試験のことをよろしくと頼む、
という意味である。頼まれる相手は政治家であり、校長
であり、教育委員だった。
 彼は頼むことにした。実家に電話し
「何かつてない?」
 と言った。罪悪感など微塵も感じられない、明るい口
調である。実家は、全く政治家とは無縁だったが、知り
合いは大勢いた。つては回り回って、県立高校の校長の
もとへ行くこととなった。
「熱意をもって、全力で教育にあたります」
 歯が浮く、とまではいわないまでも、いわゆるきれい
なごとを並べ立て、その校長の前で丁寧に頭を下げた。
 無事二次も通り、男は事実上翌四月からの教員生活が
決定的となった。大いにはしゃぐ彼に、その後の悲劇は、
もちろん予想できていない。
 四月からの勤務場所一帯には、強力な教育一族がおり、
しかもその御曹司と同期になることなど無論彼に予想で
きるわけがない。
 そして、彼が頼みに行った校長が、その教育一族のバ
ックアップで地位を上っていったことなどもちろん彼が
知るよしもない。



      登季島 吾郎




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