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Long Nighit(2) うちだ
★内容
聡は運転席に戻った。
「ね、のぞみちゃん。悪いけど、車のバッテリーがあがっちゃったみたいなん
だ。俺、その辺りの家で電話かバッテリー液を補充してもらいに行くから・・・
・のぞみちゃんどうする?車で待っててもいいけど」
「えー、私も行くよ」
のぞみも車を降り、二人は山道をほとほとと歩いていった。月が出ていた。
「車、あのままでいいかな」
「夜中だし、表示も出したし。結構寄せてあるから大丈夫だよ。」
二人は身を寄せて三十分ほど歩いた。
「寒いね」のぞみが身震いした。「やっぱり長袖着て来てよかったね」
「うん。夏なのにな」
「山だからねー」
それからまた沈黙。聡が“そろそろ車に戻ったほうが安全かも”と思った頃、
のぞみが横を向いて大きな声を出した。
「なんだぁ。見て見て、あんなとこに、家だよ」
のぞみの指さす方向、立ち並ぶ木もやの中にぽつりと建物があった。
「明かり、ついてないね」のぞみが不安そうに言う。
「うん。でも、ま、とりあえず見てこうよ」
二人はその建物に向かった。
道なき道を通り、ようやく二人はそこにたどり着いた。その家は二棟からな
る、わりとモダンな造りの古びた二階建てだった。木造らしく重厚で、雨に濡
れて湿っている。近くで見ると細い鉄柵の華奢なその門戸は、片方の蝶番の部
分が外れており、二人は難無くその中へ入ることができた。聡は建物を見上げ
て言った。「誰も住んでなさそうだな。ここも別荘じゃないのかな。」
「えー苦労して来たのにぃー」のぞみはジーンズのひざに手をついてぐったり
と身をかがめた。「靴もベタベタ。キモチワルイー」
聡がまあまあとなだめにかかる。
「でももう三時だから。居たって誰も起きてないんじゃないの、フツー」
「どうせ私たちはフツーじゃないですよう」
口を尖らすのぞみを横目に見ながら、聡はドアを叩きながら大きな声を出した。
「夜分遅くすみません。誰かいませんかー」
樹木に声が吸い込まれて小さく反響していく。急にのぞみが言った。
「やめよう、迷惑だよっ。他に行こうよ。私、歩くから。ねっ」
「でも暗いし危ないよ。他にアテもないし、ここに来る間に足も濡れちゃった
し、外についてる水道だけでも借りたいじゃん。居なくてもともと、とりあえ
ず」聡の言葉にふて腐れたように、のぞみは下を向いた。聡はやれやれとタメ
イキをつくと裏口に回った。
聡は手当たりしだいに窓や戸に手をかけた。どれもきつく閉まっていたが、最
後に勝手口の小さなドアがキイと軋んで開いた。壁を手探りしてスウィッチを
つけると、小さな明りが灯った。聡はのぞみのところに戻った。
「ラッキー、ラッキー」
聡はのぞみの手を引いて勝手口へ行った。「ほら、開いちゃったんだ、電気も
ついた。誰もいないみたいだし、とりあえず世話になろう」
珍しくきつい目をしてのぞみが言った。「私、入りたくない」
「んなことゆったって、ここに居るわけにもいかないだろ。連絡だってしたい
し・・・・大丈夫だって。誰かいたら、俺が説明するから」
「・・・・」
聡はためいきをついた。「んじゃ、ここで待ってな。俺が聞いてくる。誰かい
たらバッテリー分けてもらうか、とりあえず電話借りて伊藤んちの別荘に連絡
つけてみる」難しい顔をしたままののぞみをそこに残し、聡は屋敷に上がった。
「あのーどなたかみえませんかー? 僕ら道に迷っちゃったんですけどぉー」
しばらくして聡が戻ってきた。「やっぱり誰も住んでないよ。のぞみちゃん
もそんなトコに立ってないで上がったほうがいいよ」
聡はまた中に入っていった。しぶしぶとのぞみもその後に続いて濡れた靴を脱
ぎ、中に入った。
「やだなー。何かキモチワルイよ、ここ。今悲鳴が聞こえなかった?」
「そりゃ気のせいだろ?」ぐるりと見回し、聡はつぶやいた。「でも俺、なー
んかこの建物に見覚えあるんだよなあ」
のぞみがちらりと聡を見て言った。
「あれみたい。ほら、スーファミの“弟切草”。・・・聡くん、知らない?」
「知らない。うちファミコンの類いってないから」
「“弟切草”って、小説みたいになってるからゲームとはちょっと違うの。そ
の話で主人公と奈美って女の子が道に迷ってこーゆー怪しい洋館に入っちゃう
わけ。で、度重なる怪奇な出来事の末、実はそのヒロインの奈美はそこで双子
として生まれたコで、その出生の秘密をその洋館で思い出してくってな話。ど
の選択肢を選ぶかによって話が変わるんだけど、基本は今言ったみたいな話」
「ふーん」と聡。
「だから、その奈美のセリフみたいだなーって・・・長い話になってゴメン」
二人は笑った。聡が言った。「それハッピーエンド?」
「だからあ、プレイヤー次第だよ」とのぞみ。
ンから上がった。戸棚には一通りの食器類が入っていたが、冷
蔵庫は電気が切ってあり、開けるとカビのにおいが鼻をついた。食べられそう
なものは入っていなかった。どこもうっすらとだがホコリを被っている。
「やっぱり別荘みたいね。電話はないかなあ」
「探そうか」聡は居間に入っていった。低いテーブルとソファに大きなステレ
オのセット。どれもうっすらとだがホコリを被っている。聡はステレオを見る。
カセットテープやCDの聴けない、ラジオとレコードのみの古いタイプのステ
レオだった。ONにすると電源は入ったが、壊れているようでラジオは入らな
かった。聡が一通り見た後、のぞみが聡のいる居間にやってきた。青い顔をし
て立っている。
「何だよ、何かあった?」
「・・・・ちょっと見てくれる?」
のぞみは二階の奥の部屋に聡の手を引いていった。階段を上がり、聡が先になっ
てドアを開けた。
「何だこりゃ」
聡は思わず声をあげた。がらんとした室内に教壇のような大きな机と転がった
椅子。何より異様だったのは右手にある黒板だった。色とりどりのチョークで
幾何学模様が画き散らしてある。思い詰めたような目をしてのぞみが聡の横顔
を見ているのに気付くと、聡はドアを閉めた。
「気持ち悪いな。でも子供の消し忘れだよ」
「見覚えない?」
「ないよ。何で?」
「え」のぞみは笑った。「さっき聡くんが建物に見覚えあるって言ったじゃな
い。何か思い出すかなーと」
「そういえば」聡は難しい顔をして呟いた。「そういえば、僕はここで生まれ
育って、この部屋で外人のセンセーから双子の兄のヒトシと勉強を教わってい
たんだった、ああああっ」
「・・・・嘘でしょ」頭を抱えて苦悩する聡に、のぞみの淡々とした声。
「あたりまえだろ」すまし顔で聡が答えた。
つづく