AWC 掲示板(BBS)最高傑作集58


        
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★タイトル (KCF     )  93/ 5/29  12:33  (191)
掲示板(BBS)最高傑作集58
★内容

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ベルトを肩に掛けるズボンの悲劇  [4/24]
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 先日、私は新潟にスキーに行ってきました。普通、私はスキーには車で行くの
ですが、今回は私の所属するボランティアグループが企画したスキーツアーに参
加したので、行き帰りとも新幹線を利用しました。
 出発の数日前に、参加者数は20名くらいと聞いていたので、「にぎやかな旅
行になりそうだな。」と私はこのスキーツアーを数週間前から非常に楽しみにし
ていました。

 出発当日、私は集合場所である上野駅の一階新幹線乗り場に、集合時間の10
分前に着きました。ところがそこには誰もいなかったのです。「じきに来るだろ
う。」とその時は気にもしなかったのですが、集合時間を10分過ぎても誰も現
れませんでした。私は「変だな。」と思い、スキーツアーの案内書を穴が開くほ
ど見たのですが、集合時間、集合場所とも間違いありませんでした。
 やがて私たちのグループが乗るべき新幹線の発車時間が近づいてきたので、私
はしかたなく一人で新幹線ホームに入り、案内書に書かれたとおりの新幹線に飛
び乗りました。
  その日は土曜日とあって、私の乗った新幹線はスキー客で超満員でした。私は
指定席券を買っていなかったし、発車寸前に新幹線に乗り込んだため、当然のこ
とながら席を確保することができず、ドアからちょっと入った通路でずーと立っ
ていなければなりませんでした。しかし、上野から乗換駅の越後湯沢まではたっ
たの1時間ちょっとで着くため、さほど苦痛には感じませんでした。それよりも、
スキーツアーに参加したのに、一人で新幹線に乗っているので、私は少しばかし
不安になりました。
 新幹線が越後湯沢駅に着くと、私はすぐにスキーツアーの案内書に書かれた通
りの各駅停車に乗り換えました。その列車は2両編成で短いため、私は先頭から
最後部まで車内を歩き回り、仲間が乗っていないか確かめてみました。しかし、
やはり誰もいませんでした。
 やがて私の乗った各駅停車は、スキーツアーの案内書に書かれた通りの時間に
目的地の駅に到着しました。そこのスキー場は石打や越後湯沢といった大きなス
キー場と比べてかなり小さいため、そこで下車した客はそれほどたくさんはいま
せんでした。
 駅前には私たちのグループが泊まる旅館のバスが止まってました。私は案内書
に書かれた通りそのバスに乗り込みました。すぐにバスの運転手が私に声を掛け
てきました。
「あんた、東京から来た団体さんか?」
「えーと。そうだと思います。」
「何だ、その『そうだと思います』っていうのは?」
「一応私は団体ツアーに申し込んで来たのですが、上野駅の待ち合わせ場所には
私以外誰も来なかったのです。ですから仕方なく私1人で来たのです。」
「おい、おい、そりゃーねーぜ。20人も来るって聞いたからわざわざこんなで
っかいバスをチャーターして駅まで迎えに来たんだ。あんた、私をおちょくって
いるのか?」
 どうして私が運転手をおちょくっていることになるのでしょうか。東京では絶
対に通じない理論です。私は納得がいかないので運転手に言い返してやりました。
「俺にそんなこと言われたって困るよ。来なかった奴に言ってくれ!」
「とうとう開き直りやがったな!」
  めちゃくちゃな話の展開です。私は時間通りに来たのであって、他の人が遅れ
たのです。悪いのは私ではなく、他の人達です。この運転手は私にも連帯責任が
あるとでも思っているのでしょうか。
 私は完全に頭にきたので返事をせずに無視しました。すると、運転手は、筋の
通らない文句を次々と垂れてきました。
「東京から来た連中は、みんないつもこうなんだ!」
 何だかよく分かりません。
「東京が日本の首都だからといって、いきがるなよ!」
  私は黙って言わしておきました。
「だから東京の人間は腋臭(わきが)が臭いんだ!」
  私は右腕を上げ、わきの下に鼻を近づけました。

  やがてバスの運転手は文句を言うのに疲れたのか、怒鳴るのをやめ、バスを発
車させました。途中、運転手は相変わらず訳の分からないことをぶつぶつ言って
いました。
 15分ほどでバスは旅館に到着しました。私は自分でドアを開け、すぐにバス
を降りました。私が旅館の中へ入ろうとすると、バスの運転手が、
「逃げるのか、卑怯者!」と怒鳴ったのですが、もちろん私は無視しました。
 旅館のドアを開けると、受付には親切そうな若い女性が座っていました。彼女
はニコッとほほえみ、私に話しかけてきました。
「いらっしゃいませ。東京からのお客さんですね?」
 私は右腕を上げ、わきの下に鼻を近づけました。
「どうかなさいましたか?」
 私がわきの下の匂いを嗅いでいるのを見て彼女は疑問に思ったようです。
「いや、何でもありません。でも、どうしてあなたは私が東京から来たのが分か
ったのですか?」
「だって、今日は東京からの団体さんだけですもの。」
「あ、そうかー。」と言いながら私は思わず右手で頭をかいてしまったのですが、
わきの下の匂いを嗅ぐために右腕はすでに上げていたので、頭をかくためにわざ
わざ右腕を上げる必要はありませんでした。
 受付の女性は私のこの無駄のない右腕の動きに気付いてくれず、その代わり、
痛い質問を浴びせてきました。
「団体さんと聞いていたのですが、お1人ですか?」
「ええ。私もよく分からないのです。」
「と言いますと?」
「実は、私はツアーで来たのです。ですが、ツアーの案内書に書かれた集合場所
に来たのは私一人だったのです。そこで仕方なく一人で来たのです。」
「そうだったのですか。今朝、この旅館に数人の方から遅れるという電話があり
ました。ですから、他のみなさんもおそらく遅れていらっしゃるのでしょう。」
  先ほどの運転手と違い、受付の女性は本当に親切な人でホッとしました。

 一緒に来るはずの連中はみんな、ボランティアの仕事はまじめに行うのですが、
遊びに行くときなどは非常にルーズな人達です。ですから、今回のスキーツアー
に、全員が時間通りに来るとは、私も思っていませんでした。しかしそれにして
も、私一人しか時間通りに来なかったとは。本当に情けない思いがしました。

 いつ来るんだか分からない連中を宿で待っても仕方がないので、私はすぐスキ
ーをしに行くことにしました。受付の女性に案内された部屋に入ると私は早速着
替えを始めることにしました。
 私は毎年何度もスキーに行くわけではないので、スキーやウェアは持っていま
せん。そこで普通は、旅館でレンタルスキーやレンタルウェアを借ります。しか
し、今回のスキーツアーには、友人からウェアを含めたスキー用具一式を全部借
りて来ていました。
 私はバッグから、すべて借り物である手袋、ウェア、ズボンを取り出しました。
そして、着ていた洋服とズボンを脱ぎ、まず最初に、スキーズボンをはくことに
しました。友人から借りたスキーズボンというのは、腰の周りにベルトを締める
のではなく、ベルトを肩に掛けるタイプのものでした。私はこのようなタイプの
ズボンは、スキーズボンに限らず、はいたことがなかったので、最初はベルトを
どのように肩に掛けるのかよく分かりませんでした。しかし、それほど複雑なも
のではないので、自分一人ですぐにきちんとベルトを肩に掛けることができまし
た。そして、スキーウェアを着て、手袋をはめ、部屋を出ました。
 私は、受付で貴重品を預かってもらうために、先ほどの女性のところへ行きま
した。しかし、受付には彼女はいませんでした。私はあたりを見回し彼女を探し
たのですが、見つかりません。そこで、「すみませーん。」と何度も叫んでみた
のですが、彼女は現れる気配すらありませんでした。
 そうこうしているうちに、私は急に便意をもよおし始めたので、受付の隣にあ
ったトイレに入りました。そのトイレはかなり広々としており、便器が6つもあ
りました。ちなみに、便器は6つともすべて和式でした。
 私は早速、奥から2番目のボックスに入り、ドアを閉め、カギを掛けました。
そして、私は便器をまたぎ、手袋とウェアを脱いでドアのフックに掛け、ズボン
のベルトを肩から外してズボンを下げ、続いてパンツを下ろし、和式便器の上に
いつもの姿勢でしゃがみました。
 みなさんの中には、自宅のトイレ、外出先のトイレ、そして旅先のトイレによ
り、用を足す時の姿勢にバリエーションを持たせて楽しんでいる人がかなりいら
っしゃるかと思われます。実を言うと、私も以前はそうでした。かつて私は、旅
に出たときは反対向き、あるいは横向きにしゃがんだり、便器の上で足を交差さ
せるというウルトラC的姿勢を取ることにより、様々な体位のバリエーションを
楽しんでいたものでした。しかし、忘れもしない去年の8月24日、京都のホテ
ルのトイレで、落下地点の目測を大幅に誤り、場外に大きくはみ出してしまうと
いう失態を演じて以来、私は旅先でもオーソドックスな姿勢を取ることにしてい
ます。
  話はそれましたが、とにかく私はその旅館のトイレでは普通の姿勢で用を足し
たのです。ところが、私は、いつもとは少しばかし違うことに気付きました。お
尻の穴から出てから便器に落ちるまでの落下時間が若干ではありますが、長く感
じたのです。最初、私は東京と新潟では引力に差があるのではないかと思いまし
た。しかしよく考えると、落下する距離は人により多少異なりますが、せいぜい
30センチほどですので、たとえ引力に多少の違いがあってもあまり落下時間に
は影響を与えないはずです。
 「変だなあ。」と思った私は、落下物がたどったであろう軌跡(お尻の穴から
便器まで)を右手で追ってみました。すると、私の右手は途中でズボンのベルト
に触れたのです。「あれ?」と思い、すぐに右手を見ると、指には「茶色のジャ
ム」がべっとりとついていました。すぐに私は、その「茶色のジャム」が何であ
るか分かったのですが、そうあってほしくないという願いから、一応念のため匂
いを嗅いでみて、本当にそうなのか確認してみました。
 本当にそうでした。私はベルトを肩に掛けるタイプのズボンに慣れていなかっ
たため、腰の下にベルトがあったにもかかわらず用を足してしまったのです。
 すぐに私はトイレットペーパーを左手で引き出し、右手及びベルトについた
「茶色のジャム」を拭き取りにかかりました。
 友人から借りたスキーズボンのベルトは、幸いなことに黒であったため、すぐ
に見た目はきれいになりました。しかし、ベルトの匂いを嗅ぐと、やはり「茶色
のジャム」の匂いがするのです。
 仕方がないので、私はトイレを出て洗面台に行き、水道の水をベルトの「患部」
に流し、手でゴシゴシと揉み洗いしました。10分ほど揉み洗いを続け、「もう
大丈夫だろう。」と思ったところで、再びベルトの匂いを嗅いだのですが、やっ
ぱり「茶色のジャム」の匂いがするのです。
 私はダッシュで部屋に戻り、ベルトの「患部」に、今度はラベンダーの香りの
するスプレー式オーデコロンを向け、ボタンを強く押し続けました。やがて20
分もすると、オーデコロンの瓶の中身がなくなったらしく、ボタンを押しても霧
状の液体は出てこなくなりました。私は「もうこれで大丈夫だろう。」と思い、
ベルトの匂いを嗅いだところ、ラベンダーと「茶色のジャム」がブレンドされた
匂いがしました。
 「どうしてなんだ!」
 私は完全に頭にきてしまったのか、机の上に置いてあったライターを手に取り、
ベルトの「患部」に火を放ってしまいました。すぐにベルトは、化学繊維特有の
匂いを発して燃え、「患部」は「黒い灰」へとその姿を変えたのです。そのまま
ほおっておくと、火がズボンに燃え移りそうになったので、私はすぐにズボンを
床にたたきつけて火を消しました。結局、ズボンは焼けませんでしたが、ベルト
は見るも無惨な姿になってしまいました。
 私は思わず、
「どうだ! ざまあ見ろ!」と勝ち誇った声で叫んでしまいました。そして私は、
自信満々の表情を顔に浮かべながら、ベルトの「黒い灰」の部分に鼻を近づけ匂
いを嗅いだのです。「黒い灰」は化学繊維が燃えた時の匂いと「茶色のジャム」
の匂いがしました。
  「ウォー!」
 私はついに発狂してしまったのか、ベルトの部分が「黒い灰」になったスキー
ズボンを持って部屋を飛び出し、談話室に乱入し、その部屋の中央にあった暖炉
にスキーズボンを投げ込んでしまいました。友人のスキーズボンはすぐに火が点
き、暖炉からは非常に大きな炎が上がりました。しばらくすると、ズボンは燃え
尽き、暖炉の炎は再び小さくなりました。これを見た私は感無量となり、目から
は涙が頬を伝わってとめどもなく流れ落ちてきました。
 もうこれで何も確かめる必要はなかったのですが、どこかに一抹の不安があっ
たのか、私は外に出て、旅館の屋根に上りました。そして、暖炉の真上にある煙
突から上がる煙に顔を突っ込み、匂いを嗅いでみました。「煙」と「茶色のジャ
ム」の匂いがしました。
 私は、数年前に大手百貨店の社長が、取締役会で突然解任されたときに発した
名言「なぜだ!」を、スキー場の旅館の屋根の上でなぜこんなに言わなければな
らないと思えるほど言い続けたのです。


(「掲示板(BBS)最高傑作集59」に続く)





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