AWC 【いちゃもん突撃隊】その6   ワクロー3


        
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★タイトル (AKM     )  93/ 5/28   3:19  ( 60)
【いちゃもん突撃隊】その6   ワクロー3
★内容



 『どうでしたか』
 僕は緊張して店長の言葉を待った。

 店長は無言である冊子を開いて、僕の方へ視線もよこさないまま
事務的に言った。

 『身分証明書か保険証お持ちですか』
 『は?』

 『ご本人であると言うことを証明できれば、なんでもよろしいん
ですが』
 『会社の身分証明書ではだめですか』

 『それで結構です』

 定期入れに入れている社員証を見せた。

 『では、ここへご住所と連絡先を書いて署名してください』
 『はあ』

 言われるままに署名した。署名が終わったところで、店長は、僕
が購入したダニエルバレンボイム=シカゴ交響楽団=ソプラノ=ジェ
シーノーマンのCDをカウンターの上に置いた。おお、永遠のお別
れのときが来たのだ。

 今となっては短い間、悪夢のひとときを共にしたとはいえなつか
しいアメリカの人々よ。もう2度と手にすることはないだろう。未
来えいごう。

 店長は電卓ですばやく計算した。そうして結論を伝えた。

 『買取価格は当店の規定により400円になりますが、よろしい
ですか』
 『はい。かまいません』

 2000円で買ったCDを一晩聴きかじっただけで1600円だ
ったというわけか。1600円分はアメリカ人とのお別れの手切れ
金だ。

 『どうも』

 僕は店長にあいさつをして店を出た。店を出るときに輸入盤コー
ナーにLIVE RECORDING  SERGIU CELIBIDACHE  と書かれたパッケー
ジが目に入った。古い録音の復刻CDかな。あした買いにこよう。
交響曲5番と8番のカップリングだ。彼の指揮ならどちらも90分
級の長さとなっているに違いない。

 怨敵ブラームスの曲までついでに付いているのがやや気に入らな
いが、彼の録音ならば、たとえどんな傷があろうとも、いつくしん
で聴いてしまうことを思いだし、アメリカ人に対するときと、自分
はどうしてこんなにも違うのだろうか、もっと大人にならなければ
いけないな。そう思うのでした。


          (以上完結)






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