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★タイトル (EGD ) 93/ 5/11 16: 8 (179)
双子みたい 3 菅野歩地
★内容
ひとりぼっち(1)
八月五日。旅行に行く日。三日前、半年振り
に帰ってきた父、和夫は、五年前から大阪の本
社に、単身赴任中である。
結局美奈は、百合子の説得も聞かず、一人で
留守番をすることになった。当然、和夫は残念
がっている。
朝、美奈は外が騒がしく、目が覚めた。目を
開けると、姉の心配そうな顔が見えた。
「あ、おねえちゃん」
美奈は、目を擦りながらいった。「おはよう」
「お早う、美奈」
百合子は、ベットに腰掛け美奈の寝顔を見てい
た。「本当に大丈夫なの?私なら、美奈と一緒
に留守番してていいのよ」
その言葉を聞き、美奈は「そうして、一緒に
留守番をして」と、言いたかったが
「おねえちゃん、しつこいよ。大丈夫だって
言ってるでしょう」
と、気持ちとは反対なことを言ってしまう。
「そうか・・・」
百合子は、寂しそうな目でいった。「もう言っ
ても無駄ね、わかった・・・」
そう言うと、一階へ降りていった。美奈も急
いで着替えて、外に出た。
朝だというのに日差しが強く、肌が痛かった。
「おはよう、美奈」
と父は、車を洗いながらいった。
「おはよう、おとうさん」
和夫は、久し振りの我が家で嬉しいらしく、
昨日も植木の手入れや、趣味の日用大工で作っ
た車庫に手を加えていた。
「美奈、一人でいる間、気をつけるんだぞ」
「わかってる、もう美奈大人だもん」
美奈は、少し胸を張っていった。
「大人だって」
父は笑いながら「中学二年は、まだ子供だよ」
といった。
「ふん」
美奈は、バケツに入っていた水を父に手でかけ
て、家に入った。
「冷たい!!」
という父の悲鳴が、嬉しそうに聞こえた。
みんなが乗った車は家を出発し、美香の家に
寄ってから、まず津軽に行く。そして、次の日
カ−フェリ−に乗って、北海道へいく。
本当は、美奈が提案したもので、一番楽しみ
にしていたのは本人だった。
「甘えん坊のくせに強情なんだから」
百合子は、父の所に行っていった。
「そうだな・・・俺似かな」
和夫は、笑いながらいう。そんな、呑気な性格
の父を見て、「まったく!!」と心のなかで呟
いた。
「いってらっしゃ−い」
美奈は、手を振る。車は、あっというまに林の
中に消えた。
「学校は、十時からだから九時まで寝よう」
誰もいないのに、美奈は他の誰かに言うように
呟いた。
玄関に入り、鍵を掛けた。一階の部屋中全て
の鍵を掛けてまわる。静まり返った部屋は、旅
館の一室のように、冷たく感じた。
美奈は、一人教室の中にいる。結局、自分だ
けが補習を受けている。
(なんで、わたしだけなの・・・)
机に頬杖つき、プリントとにらめっこ。辞書
を見ていいといわれても、全然わからない。他
の皆は、さぼって来ていない。
(さぼるなんて、ずるい!)
美奈は、何度も帰ろうかと思ったが、さぼる
勇気もなく、途方にくれていた。
うとうとしはじめたとき、ドアが開いた。
「あの、並木先輩。先生が呼んでますよ」と
言ったのは、一つ年下の知らない生徒だった。
「あ、そう・・・」
何だろう、催促かな・・・。「ありがとうね」
美奈は、全然出来ていないプリントを持って
教室をでた。何故だか、その子も着いてくる。
「名前、なんていうの」
美奈は、微笑みながらいう。
「あ、矢島園子です」
照れながら、そういった。「百合子さんですか
?」
「ううん、百合子は姉で、わたしは美奈の方
よ」
美奈は、笑いながらいった。
「あ、ごめんなさい」
園子は、本当に反省しているかのように、丁寧
に頭を下げていった。
「いいのいいの、でもそんなに似てる?」
「ええ、そっくりです。私、一人っ子ですか
ら、何だかいいなあって思っているんです」
「ふうん、そうなんだ」
美奈は少し考え込んだ。(もし、おねえちゃん
がいなかったら、わたしってどうなっているん
だろう・・・)
「ありがとう」
美奈は、微笑みながらいった。
「先生、まだ終わりません」
机の椅子に座っている先生に、美奈はいった。
「並木、今日旅行だったんだって」
高橋は、冴えない顔でいう。
「はい、そうですけど」
「そうですけどって、なあ並木どうして言っ
てくれなかったんだ」
「だって、わたしが悪いんですから」
高橋は困ったなと言う感じで、煙草に火をつ
ける。
「先生、煙草は体にわるいですよ」
と、美奈はいった。
「あの、先生もういいですか」
話の間があいたとき、園子はいった。
「ああ、じゃあまた明日な」
高橋はそういって、教室のドアまで送った。
(寂しそうだったな・・・)
美奈は、帰っていく園子の後ろ姿にそう感じ
た。
「並木、おまえももういいぞ」
「でもまだ・・・」
美奈は、プリントを見せながらいった。
「帰っていいよ」
高橋は、プリントを受け取っていう。
「じゃあ、また明日来ますので」
美奈はそういって、職員室を出ようとした。
「並木」
高橋は、帰っていく美奈を呼び止めた。「悪か
ったな」
「いいえ」
そういって、首を横に振った。
(なんにしようかな・・・)
美奈は、さっきからス−パ−で悩んでいた。
「あれ、美奈ちゃん」
後ろから、聞き慣れた女性の声がきこえてきた。
「あ、和枝さん」
高橋先生のお嫁さんである。美奈が小学生の頃、
ピアノを習っていた。
「こんにちは、先生を迎えに来たんですか」
美奈は、笑いながらいった。「なあんちゃって」
去年、高橋先生と結婚したのだが、美奈は「
なんで、あんなのと結婚するの」といって信じ
られなかった。
「もう、美奈ちゃんたら・・・」
和枝は、照れて顔を真っ赤にしていた。
二人は、自転車で家に向かっていた。高橋先
生の家とは、目と鼻の先である。
「それじゃあ、一人で留守番なんだ」
びっくりした顔で和枝はいった。「まったく、
困った人ね・・・」
「いえ、わたしがいけないんです」
美奈は、訂正した。
「心配だな・・・」
「大丈夫です。わたし、もう大人ですから」
今度は、和枝に心配をかけないようにいう。
「そうね、もう大人よね」
そういって、和枝は微笑んだ。
(さすが和枝さん。わたしのこと、よく分か
ってる)
美奈は、嬉しい気持ちになった。
自転車は、大きな橋を渡っていた。白い大き
な雲が、群れをなって浮かんでいた。
「それじゃあ」
美奈は、小川に掛かる小さな橋を渡ろうとした。
「まって」
和枝が、いった。「ごはんまだでしょ、一緒に
食べよう」
美奈はブレ−キをかけて
「いいんですか」
といった。
(やったあ!!)
「うん、そうして。わたしも、一人だと淋し
いから」
和枝は、笑いながらいった。