AWC 「懐かしい日常」             えま改めKATAR


        
#1093/1336 短編
★タイトル (EDX     )  98/ 9/ 3  18:20  ( 43)
「懐かしい日常」             えま改めKATAR
★内容


 わたしの中には、それを仕舞う場所がなかった。
 仕方がないので、わたしは、それを背に纏うことにした。
 ぬめり、とした感触。
 裸の皮膚にしがみつき、もう決して離れることはないだろう、
 「それ」。
 ……「女」というもの。
 
 「心配しなくて大丈夫。もうじきそれは、あなたに溶け込んで
 ゆくから。」
 
 背に纏ったわたしと違い、かつて「それ」を丸飲みにしたオンナは、
 そう云った。

 「それ」が溶け込んだわたしを、
 昔の知人たちは、
 なんと呼ぶのだろう。
 「それ」の名で? 
 現在(いま)のわたしの名は、
 やがて消えてゆくのか……。
 
 今、わたしは「それ」に、
 浸食されようとしている。
 
 痛くも苦しくもなく、ただ、膚がほんの少し、
 ぬめりがあるだけで。
 わたしを「日常」へと誘(いざな)っている。
 
 今、わたしは「それ」に、
 浸食されようとしている。
 
 いつか「わたし」をぼんやりと、
 懐かしむ日が来るまで。
 

  

 
 







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