AWC お題>ショータイム     つきかげ


        
#1039/1336 短編
★タイトル (BYB     )  98/ 5/ 7  21:45  (117)
お題>ショータイム     つきかげ
★内容

(さあ、ショータイムです。存分にお楽しみ下さい)

  え?何ですって?
  そう急がないでよ。どうせ暇なんでしょ。
  ねえ、何て言う名前だったけ。ジュリ?ふうん。
  これは何?水晶球?これで占うわけね。
  ねえ、水晶って霊力があるって本当?あっそう。
  判ったわよ、話を始めるわ。
  私の話じゃないの。友達の話。とても親しい友達。
  彼女はね、好きな人がいたの。
  とても、とても好きな人。
  本当に、好きだったのよ。
  本当に、とっても好きだったの。
  いいえ、愛しているといったほうがいいのかしら。
  愛していたの。とてもとても愛していたの。
  彼にはもちろん告白したわ。
  とても好きだって。
 愛しているって。
  でも、彼は相手にしてくれなかった。
  彼女のことを愛することはできないって彼はいったの。
  でもそんなのは関係なかった。
  だって、とても愛していたから。
  いつもそういっていたわ。
  あなたが愛してくれなくても関係ない。
  私はあなたを愛し続ける。私をあなたの犬とでも思ってくれればいいって。
  彼女はそういっていた。
  私はあなたの為ならなんでもできる。どんなことでもできるって。
  そうしたら彼がある日いったの。
  ひとつお願いがある。一夜を共に過ごして欲しいって。
  とても嬉しかった。愛に応えてくれたのでは無いと判っていたけれど、
  たとえ弄ばれるだけと判っていても、それでもよかった。
 それで充分だったの。
  彼は山奥のある山荘に来るようにいったわ。
  そこは人里離れた場所だったけど、とても大きなお城のような建物があったわ。
  まるで西欧のお伽噺にでてくるような立派なお城。
  彼はその建物のことをこう説明してくれた。もともとテーマパークのシンボル
  となるはずの建物だったけど、バブルの崩壊でテーマパークのプロジェクトは
  消え去って、この建物だけが残ったって。
  そこで執事のような人に案内されて彼のもとにいったわ。
  召使いのような人がいっぱいいて、彼は忙しそうに指示を出していた。
 そして、彼は、こういった。
(さあ、これからショーの支度を一緒にしよう)
  その後は目が眩むほど慌ただしい時間だったわ。
  何人もの女の人が来て、服を脱がすととても素敵なドレスを着せてくれたの。
  そう、お姫様が着るようなドレスよ。純白のとっても手触りがいい生地なの。
  ホイップされたクリームみたいに柔らかくて、月の光のように輝いてるの。
  その前にとても素敵な匂いのする香料に満たされたお風呂にも入った。
  とてもたくさんの花の中に浸されているような気持ちになったわ。
  そして何人もの女の人がメイクアップしてくれたの。
  綺麗に着飾って素敵にお化粧した自分の姿を見た時、まるで自分が大輪の花に
  なったような気がしたわ。
  素敵だった。何もかもが。とても楽しく晴れやかな気持ちになったの。
 全てがきらきらと輝いて見えた。
  夜になると、豪華なリムジンが何台もお城に来だしたの。
  着飾った紳士や淑女が、お城に入って来たわ。
  彼は言ったの。
(みんな、ショーを見に来たんだよ)
  そして、みんな大きなホールに集まりだした。
  無数の宝石が散りばめられたような豪華なシャンデリアの輝きの下で、
 見たこともないような料理が並んでいたわ。
  そこにいる人たちはみんなお洒落でセンスがよくて、美しく着飾っていて、
 なぜか仮面付けていたわ。
  そして彼にエスコートされてそのホールへ入っていった。
  スポットライトを浴びてみんなの注目を浴びたの。
  賛嘆の声がホールを包んだわ。
  お姫様のように白く美しいドレスを来てホールの真ん中まで導かれていった。
  そこには一段高くなった円形の舞台があった。
  そこに上がって自分が世界の中心に捧げられた花のように感じたの。
  そして、その時天井から鉄の檻が落ちてきた。
  鳥のように鉄の籠に閉じこめられた時、彼がこういうのが聞こえたわ。

(さあ、ショータイムです。存分にお楽しみ下さい)

  彼は一頭の犬を連れてきた。黒くて大きく獰猛な犬。
  彼はその犬を檻の中に解き放った。その黒い犬は私に噛みついた。
  その犬は私を食いちぎった。
  その犬は私の胸を食いちぎったの。
  その犬は私の足を食いちぎったの。
  その犬は私の腕を食いちぎったの。
  その犬は私のお尻を食いちぎったの。
  その犬は私のお腹を引き裂いて、内蔵を食いちぎったの。
  気が付くと、私はその光景を眺めていた。
  楽しげに、上品に、穏やかに笑いながら私が喰い殺されていくのを眺めている
  人たちと一緒に、私はその光景を眺めていたの。
  私は不思議に思った。
  黒い犬に殺されている彼女は誰?
  それを眺めている私は誰?
  きっと、彼女は私の友達なんだわ。とっても親しいお友達。
  私はそう思った。だって私は生きているんですもの。
  そう。
  そうね。
  あなたのいう通りだわ、ジュリ。
  私は死んだのね。
  では、今いる私は誰?
  え?
  鏡ですって。
  これを見るの?
  あら。これは彼だわ。
  鏡の中にいるのは私の愛している、そして私を殺した彼。
  これはどういうこと?
  え?
  ソウルイーター?
  判りやすく言ってね。私あたま悪いの。
  そう、彼が私の魂を取り込んで自分の一部にしたの。
  じゃあ、私は彼の一部になれたのね。
  よかった。
  とても嬉しいわ。
  だって私、とても彼を愛しているんですもの。
  私が彼の一部になれたなんて、こんな素敵なことは無いわ。
  だって、とても愛しているんですもの。
  とても。
  とても。
  愛している。
  とても。
  とっても。





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