AWC ウラオモテノ「友人」ト「俺」ガユクノハ透明ナミチ    しのぶ


        
#1011/1336 短編
★タイトル (PTN     )  98/ 3/ 4  20: 5  (120)
ウラオモテノ「友人」ト「俺」ガユクノハ透明ナミチ    しのぶ
★内容
                          ・・
 河原という友人がいる。いや、いたんだ。今はいない、友人だった
「河原」は。
 親友だと思っていた。きっと河原もそう思ってた。
 昔は名前で呼んでいたけれど、今は・・・・・・

 まだお互い中坊でガキだったころ、あいつと自然に離れていくよう
になった。
  理由なんてない、なんとなく、そうなった。

 ある日、他の仲間と一緒に遊びにいった。もうそろそろ帰ろうかと
いう時間にまわりを見ると、仲間も「あいつ」もいなく、小さなゲー
センに俺ひとり立っていた。急いで外に出てみたが、仲間は300メ
ートルも先で歩いていたんだ。
「ったく、出るなら声をかけるぐらいしてくれればいいのに」
 俺はそう呟いて、仲間の背中を追いかけた。

 文化祭でフリーマーケットをやると決まったとき、店の名前の案が
出た。発案者は「あいつ」。店の名前は、俺の名前を使って少しシャ
レをいれたものだ。クラスは笑いで包まれたが、俺には笑えるはずも
ない。

 またある日学校に行くと、机にラクガキがひとつ。教室を見渡した
が、誰も気づいていないようだった。俺は、誰がやったかもわからな
いラクガキを無言で消した。

 昼食時間には牛乳のパックが机の中に、マンガを持ってくればいつ
のまにか無くなり、イスにガムがついてたり・・・・・・etc etc etc etc・・・・ 
 数えきれないほどの嫌がらせ、誰がやったのかもわからずに。違う、
誰がやったのかはうすうす気づいていた。俺は信じたくなかっただけ
だ。行動に移さなかったのはそのせい。
 もう一ヶ月も「あいつ」としゃべっていない・・・・・・

 そんな風に考えてたころ、休み時間に誰かが近づいてきた。他人を
からかうのが好きで、どこからか仕入れていきたウワサをもち歩く情
報通。よく世間で言う、暇なオバタリアンみたいな友人のひとりだ。
「おまえにちょっかいを出してるの、河原だぜ」
 言ってほしくなかった言葉。
 友人はトイレで「あいつ」がどんな風に俺のことをしゃべっていた
か説明していたが、そんな話、俺の耳には入らない。

 あからさまに「あいつ」が俺にイタズラをするようになった時には、
俺の心の中には憎しみしかなかった。 最初に味わった裏切られた気
持ちや、悲しみはなく、俺の心はいつ爆発してもおかしくない状態。
 実際、俺の机に何かをしている「あいつ」を見ても悲しくはなく、
爆発しそうな心を抑えるのがやっとで、「ガマンしろ、そのうちに飽
きるさ」と自分に言い聞かせていた。

 できるだけガマンしたはずだった、少なくとも人並みには。そのう
ち飽きると思っていた俺の心とは裏腹に、あいつの嫌がらせはエスカ
レートしていく・・・・・・

             何かが弾けた

 朝、教室に入ってくる「あいつ」が待遠しく、俺の心は小刻みに震
える。こんなに待遠しいのは子供のころのクリスマス以来で、こんな
に心が震えるのは受験以来。
 「あいつ」が教室に入ってきたとき、俺は無言でガクランを脱いで
机においた。
 きっと恋人が自分の部屋に来たときはこんな気持ちではないか?
 俺は後ろから「あいつ」を殴って、おどろいている「あいつ」の首
筋をつかみ、隣の空いているクラスに引きずり込んだ。
 ようやく事態をつかんだ「あいつ」は、必死で抵抗する。
 バカなやつ。どう考えても俺の方が強いのに。
 「あいつ」は、お世辞にもスポーツマンとも言えず、成績も下から
数えたほうが早い。人より勝っているのを見つけるのは実に困難で、
できた人間とは程遠い奴だった。
 そんな「あいつ」が、俺にちょっかいを出してきた。俺もほめられ
たもんじゃないが・・・・・・「あいつ」よりはマシだ!!
 誰もいない隣のクラスに「あいつ」をつれてきた俺は、足をかけて
転ばせて蹴りをいれる。顔に、腹に、足に、手に、次々と蹴りをいれ
る。
 やっと抵抗しても無駄だと感じたのか、「あいつ」は頭を両手でふ
せぐ感じで丸くなった。
 そのころには俺の周りに野次馬が駆け付けていた。俺はそんなこと
は気にしない。要はセンコーが気づくまでの4・5分の間「あいつ」
をめったうちにするだけだ。
 しかし、俺が圧倒的にいじめているようなそのケンカに、止めがは
いった。
 「赤木」という友人で、俺とも、「あいつ」とも友人だった。それ
でいて番長格のやつだったから、俺と殴り合いになっても勝てる見込
みはあまりない。
 頭でなく、体でそれがわかってたから、邪魔をした赤木には殴りか
からなかった。
 ただ、「こいつが何をしてきたかお前は知ってるのか!?」と叫ん
で、俺はその教室から出た。
 野次馬の興味は倒れた「あいつ」に移っていて、俺がそこから逃げ
出すには苦労はなかった。
 だんだん自分が何をしたかわかり始めた・・・・・・


 それから半年。
 後悔はない。「あいつ」とは別の友達もたくさんできた。今日も今
日で楽しい生活を送っている。
 なぜならあれ以来「あいつ」の嫌がらせが無くなったから。
 あのとき俺はガマンするつもりだった。だけれどガマンできなくて、
殴ってしまった。二人はもう話し合いなんかで解決する仲じゃなかっ
たから、無視する相手に話し合いはできない。手紙を渡してみても、
見せびらかして笑いのネタになるだけ。
 だけど、そんなのはイイワケだ。

・・・・・・他に解決する方法が思いつかなかったんだ・・・・・・

 今もそう。世の中には仕方が無いことが多いらしくて、今回のこと
もその一つだと思うようにしている。
 「あいつ」はバカだった。
 俺という嫌がらせをする相手の力量も見抜けずにちょっかいを出し
てきた。
 だからこうなる。赤木が止めなければもっとひどいことになってい
た。
 学校が、センコーが生徒を管理するから、「あいつ」のような人間
が出てくるんじゃないのか?
 これもあれもイイワケかもしれないけれど、たぶん、これで良かっ
たのかもしれない。
 結果的に、お互いが嫌いになった二人が別れただけだから。
 俺は今も「あいつ」が嫌いで、「あいつ」も俺が嫌い。

 なんだか悲しいことだけれども・・・・・・

                          しのぶ




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