AWC 当座メリー苦しめマス!        平山成藤2.0.3


        
#965/1336 短編
★タイトル (UJC     )  97/12/25  22:52  (105)
当座メリー苦しめマス!        平山成藤2.0.3
★内容

『当座メリー苦しめマスをタダ今上演いたしております』
 この看板があの劇場に立った。

「あ、また看板が変わった」と会社員B。
「メリー苦しめマス?」
 と会社員A。
「はっきりと『苦しめマス』と言い切ってるところが非常にヤバそうだ
な」
「突然メリーちゃんとかいう奴が現れてきて、いきなり客を苦しめマス
んじゃないですか?イヤですよ、そんなの」
「いや。それなら面白いぞ。きっと」
「いやですよ」と会社員B。
 その反抗的な態度がAには気に入らなくなった。
「貴様、それでも軍人か!」
 Aはそう言うや、Bを無理やり引っ張っていった。

 劇場の下へおりると、突然、奥からサンタの格好をしたボディコン娘
たちが大挙して現れてきた。
「メリーちゃん1号で〜す。」
「メリーちゃん2号で〜す。」
「メリーちゃん3号で〜す。」
      c
 とめどもなく現れてくるメリーちゃんたちは、どれも「わたしメリー
ちゃんよぉ〜」とか言い寄りながら、いきなり会社員AとBを抱きしめ
てきた。なんなんだ、と思いつつも、なぜだか嬉しくならずにはいられ
ないAとBである。
 が、二人に抱きついてくるメリーちゃんたちはいつまでも尽きること
がなかった。あっという間に二人は大量のメリーちゃんに取り囲まれて
しまった。しかも全員が抱きついてくる。
「メリーちゃん18号で〜す。」
「メリーちゃん19号で〜す。」
      c
 その余りの量の多さにしまいには、
「く、苦しい〜〜」
と音を上げずにはいられなくなってしまった。いきなりメリーちゃんに
苦しめられた。
 音を上げた会社員二人にメリーちゃんたちは満足して解放した。が、
メリーちゃんの苦しめマスはこの程度では終わらなかった。

 その日の劇場はクラブかキャバレーのようであった。
 居並ぶ黒服たちは派手なハッピを着て、客案内かウェイターのような
ことをしている。
 しかしいきなりのボディコン抱きつき攻撃に気分がよくならないはず
のない会社員AとBは、そのままロビーの椅子になだれ込むように連れ
ていかれると、
「酒は無料サービスとなっておりますので、どうぞご自由にお飲みくだ
さい」
という妙に低姿勢な黒服に酒をだくだくと注がれ、つい次々と酒を飲み
干していってしまっていた。高価なウイスキーがタダ飲みできるのであ
る。これは飲まない手はない。
 なぜかおつまみはタダでなかったのだが、酒におつまみは必要と、次
々とおつまみを注文していってしまった。二人の財布のヒモはだんだん
とゆるんでいった。
「マッチ売りの少女やりまーす!マッチ一本ビラ一枚!」
 と、メリーちゃんのどれかがテーブルをお立ち台にして立ち上がって
も、景気よく万札を奮発してマッチを買い、スカートから垣間見えるチ
ラリズムを堪能した。マッチの炎でスカートの中が見えるはずもないの
だが、そこはクラブ活動の醍醐味である。
「じゃあ次は、ポッキー!」
「今度はナインハーフ!」
「つづいて、ゴーストごっこ!」
 遊ぶごとに飛ぶように万札が消えていったが、今はボーナスをもらっ
たばかりでもあって、会社員AとBに迷いはなかった。
「メリー苦しめマース!」
「家計も苦しめマース!」
 と訳の分からないことを叫んで、次々と万札をバラまくように使って
いったのである。
 二人はここで吐くほど飲み食いしてしまったが、それもメリーちゃん
たちの「メリーちゃんも苦しめマース!」の一言で気分がよくなってし
まった。二人を取り囲むメリーちゃんたちの笑い顔はどんどんと妖しく
喜々となっていたのだが、二人はというと、それに釣られてさらに笑い
顔が絶えなくなっただけだった。

 そのまま二人は心行くまで楽しんだ後、代金を払って劇場を後にした。
遊びすぎて、ボーナスをすべて使い果たしてしまっていた。
「...はは、遊びすぎましたね」
 すっかりできあがった会社員Bが言った。
「もう来月までガマンだ。ここのチケットを買う金もなくなった」
 と会社員A。
「でも、ここ劇場でしたよね?」
「劇場に名を借りたキャバレーじゃないか」
 しかし入り口には『本日の上演は終了しました』という立て看板が立
てられたりしていた。
「−−劇やってたか?」
「知りませんよ。メリーちゃんしか見てませんでしたから」
「また劇を見逃しちまったのかな?ひょっとして。よく考えてみたら今
日の俺たち、ロビーまでじゃないか?」
「まさか。あんなキャバレーまがいのことするくらいなら、素直に演劇
やってたほうが楽ですよ」
「−−だよな」
 Aはその言葉に納得してしまったが、しかし劇場前のメリーちゃんた
ちは、今日も観客に劇を観させずに帰らせることに成功したと高らかに
勝利宣言を行っていたりした。あれだけ金を奪えば、次の給料日まで奴
らがこの劇場にやってくることもないと思われた。見事な防衛成功であ
る。
 こうしてまた、二人はこの劇に終わりが用意されていないとは気付く
こともなく、劇場を後にしていったのであった。

                  (当座メリー苦しめマス・終)

−−教訓−−
 タイプ16。フローてぃんぐ・ポイント・エラった





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