AWC 当座むしむし教           平山成藤2.0.2


        
#894/1336 短編
★タイトル (UJC     )  97/ 9/ 9   3:15  (161)
当座むしむし教           平山成藤2.0.2
★内容

『当座むしむし教をタダ今上演いたしております』

 という看板があの劇場の前に立った。
「むしむし教?」と会社員B。
「またあの、陰で『むしむし』言ってるだけの奴らが出てくるんじゃないでしょ
うね?」
 とボヤキながら、会社員Bは会社員Aのほうを見た。
「いつまでもムシムシ続けてたら話が始まらんだろう」
 会社員Aはそう言うと、劇場の中へ入っていった。
 今回はめずらしく、劇場の入り口にチケット売り場があった。
「やっとシナリオが上がったのかな?」
 Aが窓口に立つと、受付のおばさんは
「違うけど1枚、むしむしねん」
と、なんやら訳分からないことを口走った。
「は?」
 Aが問いただすと、
「むしむし」
という返答がかえってきた。
「まさかもうここでむしむし教の劇が始まってるとか....」
 Bは言ったが、受付のおばさんからは何の言葉もなかった。
「チケット2枚いくらだ?」
 Aは聞いたが、返答は日本語に聞こえなかった。
『ちがっとー1枚むしむしね』
 とぐらいにしか聞こえてこない。
 そのとき急に雑踏から
「分かってないな」
という声が飛び込んできた。あわてて振り返ってみたが、それは誰の声ともつ
かないものであった。
 こうして二人はまた入り口で悩まされることになったが、思い出したように
Bが口を開いた。
「分かった。これは暗号なんですよ。『むしむし』だからチケット1枚6464円
ですよ。きっと」
「おおー」Aは感嘆の声をもらした。
 そこでAが7千円を受付に差し出してみると、なんと代わりにチケットが1
枚返ってきた。が、おつりは返してこない。
「おつりは?」
 とAは言ってみたが、受付からは
「むしむし」
という返答だった。
 おつりを猫ババしようというつもりなのか?がめつい奴らである。
 だが文句を言おうにも、受付は防弾ガラスのような分厚いガラスに守られて
おり、しかも手を通すぐらいしかできない穴の向こう側にいた。どうすること
もできず、仕方なくBも7千円を払ってチケットを買うことにした。
「高い」
 AもBもぼやいたが、受付はまったくの無視だった。むしむし。
 ちなみに7千円もするチケットには
『当座むしむし教をタダ今上演いたしております 大人』
としか書いてなく、値段も内容もまったく分からなかった。
 劇場は奈落に落ちるようならせん階段の果てにあった。
 またリニューアルされたのか、看板がネオンで派手に飾り立てられていた。
誰も見ていないところでネオンをキラキラさせて、何を狙っているのか、まる
でキャバレーのようである。
 入り口の扉は開かれており、中では観客らしきカップルとかが歩いている。
受付にはモギリの店員も2人みられた。
 二人は受付のテーブルの前にきて、自分のチケットを差し出した。
 が、店員はそのチケットを手にしようとしなかった。
 しばらく二人は店員と睨みあった。
 先に口を開いたのは男の店員のほうである。
「分かってないな」とその店員。
「失語症みたいね。一回」
 と別の店員も口を開いた。
「なんなんだ?」
 Aは怒ったが、店員は無視していた。むしむしモードである。
「チケットならあります」
 Bはそう言いながらチケットを差し出したが、店員はそれを受け取らなかっ
た。
「こっちは言語障害だな。日本語になってない」
 と男の店員は意味不明なことをいった。
「一回」
 別の店員が付け加えた。
「じゃ、なんて言えばいいんです?」
 Bも怒って店員に訊き返すと、
「躁病になってるよ。攻撃衝動が抑えられないのか?一回」
と店員は無下に言い捨ててきた。
「きっと幼児期における人格障害が原因ね。あと一回」
 こっちの店員も言うことが訳分からない。
「おい。ここは劇場だろう?なに精神分析してんだ?
 チケットもあるんだ。通してくれ」
 Aは文句をつけたが、店員は無視していた。ここではそんなクレームは通用
しなかったのだ。
 劇場の中では観客が
「がんばって。がんばって」
と二人を声援し続けていた。しかし「かんばって。がんばって」と言うばかり
で、二人を本気で応援する気があるのか定かでなかった。助け舟をだすような
ことはまるでない。
「なにかちゃんと言えないと駄目みたいですよ。失語症とか言語障害とか言っ
てるし」
 Bは当惑しながらAの顔をみたが、見られても困ってしまうのはAのほうで
あった。なんて言えばいいのか全く分からない。
「やっぱり何も言えない。完全な失語症だな。一回」
 店員はAのほうをみながら語った。
「きっと幼児期における性的虐待が原因ね。あと一回」
 こちらの店員はもうすっかり精神科医である。
「あんたらベトナム症候群か?」
 Bは怒ったが、店員にはこの日本語は理解されなかった。
「また言語障害引き起こしてるよ」
 と、ののしられただけである。
「ここにチケットがある!ここを通してくれ!」
 Aは絶叫してチケットを店員に差し出してみたが、
「それじゃダメだな」
と店員に言われてしまった。
「表で7千円もだして買ったんだ。このチケットで通してください!!!」
 Aはさらに頼むように絶叫したが、
「なに怒ってんの?」
と別の店員にスカされただけであった。
「だめですよ、怒っちゃ。精神異常者と間違えられちゃいますよ」
 BはAを制止して入れ替わると、満面に笑顔をたたえながら店員の前に立っ
た。
「これチケット、表で買ってきました。ここ通してくれると嬉しいなあ」
 Bはつぶらな瞳を作りながら、うるうると店員を見つめた。
 が、店員は無視していた。
 そこでBはもう一度、今度は前よりかわいい口調で
「ここを通してくれるとウレシイんだけどなあ〜〜☆」
と踊りを加えながら語りかけてみたが、逆効果だった。
「ついに狂ったよ」と店員。
「さっき怒ってたのに、すぐに笑って踊りだした...。完全な精神分裂ね」
「言語障害のうえに躁病でしかも精神分裂病。ダメだな」
「隔離して検査する必要がありそうね」
 店員たちが口々にそう言うや、さっきまで応援していた観客たちが次々と会
社員二人に襲いかかってきて、Bを取り押さえるや劇場の奥へ引っ張って行き
だした。
「おい。何をするんだ?」
 AはBを助けようとしたが、店員に止められてしまった。
 突然、奥から黒服が大挙して現れてきた。
「おっと、中に入ったな。入場料払ってもらおうか。全部で162億円ポッキリ」
 コワイ黒服のお兄さんたちは、いきなりそう言い放った。
「国家予算じゃないか!払えるかっ!!」
 Aは怒鳴ったが、黒服は聞き耳を持たなかった。
 知らぬ間にAは黒服たちに取り囲まれてしまい、その間にBは劇場の奥へ連
れ去られてしまった。
「もうチケットは買ってるぞ。ほら。なんでまた金払わなくちゃならないんだ!」
 Aは怒鳴って買ったチケットを黒服に見せつけたが、
「なんだ、こりゃ」
黒服はそう言って、Aのチケットを奪い取ると、それをやぶって捨てた。
「これはここが大人料金だというのを教えるただの紙切れだ。ショバ代にもな
りゃしねえ」
「サギだ!」
 Aは悪態をついたが、すると黒服の1人がドスを取り出してAの前でチラつ
かせた。やってることが完全にヤクザになっている。
「ただの劇にショバ代まで取るのか?ふざけるな!!」
 Aはさらに怒鳴ったが、すると今度は黒服全員がドスを抜いてきた。
 Aはひるまずに懐からピストルを取り出した。
 が、黒服たちはまったく動じない。
「撃てよ。1人は殺れるが、次はお前だ。串刺しにしてやる」
 黒服のボスは余裕でそう言い放った。
「ショバ代162億なら、最初からそう言いやがれ!」
「言ったら商売にならんだろう?」
 ボスは負けずに言い返してケラケラと笑った。
「心配するな。お連れさんのショバ代までは取らんよ。精神わずらってる人間
から金は取れんからな。それが公共の福祉っていうもんだ」
 ボスの冗談に黒服たちはニタニタと笑ったが、Aにはなんの気休めにもなら
なかった。どうすることもできず、黒服との睨みあいがロビーでいつまでも続
いた。

                       《当座むしむし教・終》

−−教訓−−
タイプ2。番地エラー。
タイプ3。イリーガル命令エラー。
ニ




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