AWC 当座ブッチャイマス         平山成藤2.0.2


        
#881/1336 短編
★タイトル (UJC     )  97/ 8/28   1:24  (158)
当座ブッチャイマス         平山成藤2.0.2
★内容

『当座ブッチャイマスをタダ今上演しております』

 この看板があの劇場前に立った。
「おおっ、また新しい看板が立ったぞ!」
 不屈の会社員Aが喜々としてBを呼び寄せた。
「この劇場、まだつぶれてなかったんですか?」
 迷惑そうにBが反応した。
「また新しい劇になった。分かるな?」
「−−−行くんですか?」
 Bはできるだけイヤそうな顔をしてAを見返した。
「人にはそれぞれ与えられた役割があるんだ。あきらめろ」
「ブッチャイマスなんて書いてあるから、入るなりきっと殴られますよ」
 とBは意見したが、
「そのときはそのときだ」
と言ってAは相手にしなかった。
 Aはまよわず劇場の中に入ってゆき、Bは仕方なくその後をついていった。
 中に入るといきなり、ヤボったい少年が現れてきた。
 そのヤボ少年はじろじろと二人をなめるように見回していたが、
「−−−分かってないな」
と突然訳分からないことをつぶやくや、どこかへ行ってしまった。
 なんなんだ?と思っている二人に後ろから、
「こちらから話しかけないとダメだ!」
と叫ぶ男の声がしてきた。
 二人は後ろを振り返ったが、街の喧噪にまぎれて誰か分からなかった。
「いきなり、誰だか分からないガキに話しかけないとダメっていうことですかね?」
 BがAにきいた。
「どうせ、自分は神の使いだとでもカン違いしてるタダのガキだろう。
 無視だ。無視していくぞ」
 Aは言い放ったが、そのとき
『ホント、分かってないわ。無視して大丈夫ね。むし、むし』
という影の声がどこからか聞こえてきた。
 Bは心配になってAの服を引っ張った。
「やっぱり、話しかけないと劇も観られないんじゃないですか?」
「だが、なんて話しかければいいんだ?」
 Aは問うたが、誰も答える者はいなかった。
 劇場の中は相変わらず暗闇の中であり、らせん階段が下に伸びているだけだった。
 暗闇の中には誰かいるようにも思われたが、近づいてみると誰もいなかった。だ
が人の気配は感じられる。なにか話し声のようなものも聞こえていたのだ。
 が、待ってみても誰か人が現れてくることはなかった。仕方なくらせん階段を降
りることにすると、また、どこまで進んでもらせん階段という状態が続きだした。
また終わりのないらせん階段かと思ったとき、不意に下から誰かが昇ってくるのが
みえた。カップルのようだ。
 Aはそのカップルに話しかけてみることにした。
「この下で劇をやってるのか?」
 話しかけられたカップルは迷惑そうで、男のほうが
「それじゃ駄目だな。敬語を使え」
とだけ言い捨ててそのまま上へ昇っていってしまった。女は困ったようにニヤつい
ていたが、なにか助け舟を出すというようなことはなかった。しかしひと周りは下
のガキにデカい口を叩かれたAとBの心境は複雑である。
「話しかけ方が悪かったんですかね」
 BがAにきいた。
「いや。自分たちが優位に立とうとするタダのハッタリだろう」
 とAは言い切った。すると遠く上から、
『−−げ、話しかけられたよ。どうする?』
『とこかく無視して逃げ切るの。むし、むし』
という、先ほどとは違う弱気なカップルのボヤキが響いてきた。
「なるほど」
 Bは納得した。
 それにしてもヒソヒソ話までよく聞こえるオカシな場所ではある。
 またしばらくらせん階段を降りていくと、下からまた誰か昇ってくるのがみえた。
ケバい化粧のオバサン三人組である。いつまでも尽きることのない会話をぺちゃく
ちゃと続けていた。
「ここは話し方がやわらかいお前がいけ」
 AがBに命令した。
 Bは了解してオバサンに歩み寄り、話しかけようとした。が、しかし
「ここ、あついわねー。むしむしするわ」
「まったく、むしむししてるわねー。これで大丈夫だと思ってるのかしら?」
「ホントに汗ばっかりでてるわ。恥ずかしい」
などとオバサンは自分たちの話題にばかり夢中で、Bの話しかけに気付きもしなかっ
た。
 そのままオバサンたちは上へと昇っていってしまう。
「また無視されちゃいましたよ」
 Bは弱気になってAに泣きついたが、Aもオバサンの迫力に負けて見過ごしてし
まっていた。
 どこからか、
『やべ。やっぱり話しかけてくるよ』
『とにかく、分かってないで押し通す』
『そう。やっぱりムシね』
『むし、むし』
という影の声が聞こえた。
 どうやら、こちらから話しかけようとすると、話しかけられない雰囲気をつくっ
て逃げようとしているようだ。客商売にあるまじき行為である。
「仕方ない。とりあえず下まで降りてみよう」
 AがBに言い、二人はひたすららせん階段を下へおりることにした。
 しかしどこまで行ってもらせん階段である。たまに下から人が現れることがあっ
たが、二人の顔を見るなり、逃げるようにすぐさま暗闇に消えていってしまった。
完全に無視しようとしている。
 だが、
『おい。無視すんなぁー』
『やっぱり分かってない。捨てね』
『また無視しやがった』
『これ、今日中にチャイして』
『分かった。明日までに出す』
『ばいばーい!』
などという声だけは、誰かに会うたびにどこからか聞こえていた。完全に人をおちょ
くっている。
 ついに会社員Aはキレた。
 手持ちのカバンからいきなりトカレフを取り出すや、近づいてきた誰かを唐突に
撃ち倒してしまったのである。
「わ、いきなりなんてことを」
 Bはおどろいて撃たれた人間のほうに駆け寄ったが、それはあのヤボ少年であっ
た。しかしAは悪びれた風もなく
「これで逃げも隠れもできまい」
と言い捨てると、ヤボ少年の前にしゃがみ込んだ。
「どこでそんなもの手に入れたんですか?」
 BはAに聞いたが、Aは少年のほうを見つめていた。
「この下で劇をやっているのか?」
 Aは質問した。
「助けてくれえ〜」
 撃たれたヤボ少年は先程とはうって変わって弱気である。
「この下で劇をやっているのか?」
 と、Aは同じ質問を繰り返した。
「−−分かった。パンフやるよ。パンフ。やるから助けてくれ」
 ヤボ少年はそう言って、血まみれのパンフレットを差しだした。
「パンフなんかどうでもいいんだ。この下に劇場はあるのか?」
 Bが少年に問いただしたが、すると
「知らねえよ。パンフだけで十分だろ?助けてくれ」
という心外な回答が返ってきた。
「この下に劇場があるかどうかも知らないであんなデカい口たたいてたのか、お前
?」
 Aは驚いたが、少年は
「分かってたら、こんなトコにいねぇーよ!」
と負けずに言い返してきた。話にならない。
「なにも分かってねえのにここに入ったお前らが悪いんだよ!
 ここはパンフレットをもらうための場所。劇場は別。看板立ってる所に劇場があ
るなんかと思うなあ!」
 少年の言うことは奇弁めいてて、言うことが訳分からなかった。
「看板立ってるところで劇やってるのが普通だろう。まだ劇の準備が終わってない
のか?」
 とAが問うと、少年は突然に無視を決め込んで何も言わなくなってしまった。が
しかし、どこからともなく変な声だけは聞こえてきた。
『また分からないこと言った!』
『劇場で劇やってるなんて思ってるところがシロウトよね』
『あんたにはチケットあげない』
『むし、むし』
 やっぱり話になっていない。
 ついに会社員Bまでキレてしまった。
「−−実はわたしも、いいものを持ってるんですよ」
 Bはそう言うと、カバンからいきなりパイナップル爆弾を取り出してみせた。
「最近、なぜか安く手にはいるんですよ」
 そう言いながら、安全ピンを抜いてAに渡した。
 Aは黙って爆弾を受け取ると、迷うことなくそれを少年の口へ押し込んだ。
「帰ろう」とA。
「今日はとんだムダ足だった」
 二人はそのまま、らせん階段を後にすることにした。
 暗闇にほのかな爆音がとどろいたが、奈落の底の出来事なので誰も咎める者はい
なかった。
 こんな終わり方をしていいのだろう?と作者まで心配になってきてしまったが、
よく考えてみれば誰が劇場主かも定かでなかったのでどうすることもできなかった。
というわけで、おしまい。

                        《当座ブッチャイマス・終》

 −−教訓−−
 タイプ43。ファイルが見つかってない。フォルダが見つかっていない。編集権が
ない。目的がない。
ュ




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