#876/1336 短編
★タイトル (USM ) 97/ 8/23 23:51 ( 67)
お題>ノックの音がした【合いの手・加筆版】 Vol
★内容
ノックの音がした。
洗面所で、石鹸と水を使って空しい努力を繰り広げていた悠歩は、惨澹とした面
持ちで玄関のドアを開けた。何かもう、何がどうなってもいいような気分だった。
自分のキャラを次々と持ち出してはその度に返り討ちに遭い、挙げ句の果てに連れ
て行ったキャラが全部武闘に寝返ってしまったのだから、無理もない。
玄関の扉を開けると、中肉中背で、だらしなく癖のついたやたら長い前髪を、目
に掛からないように左右に分けた眼鏡の青年と、高校生と20台前半くらいの2人
の女性が立っていた。二人とも、「飛びっきりの」という前置詞が相応しいほどの
可愛いコだ。青年が、軽く会釈をして、ニコニコと微笑んだ顔で悠歩に話し掛けた。
「はじめまして、Volです。いやぁ、この度はとんだ災難だったようですね、悠
歩さん。お見舞いと言っちゃ何ですが、今日は面白いものを持って来たんですよ」
そう言うとVolは、招かれもしないのにずかずかと部屋の中に上がり込んで来
た。悠歩も、仕方無いので後に付いて中に入る。
Volは居間に入ると、背中に背負っていた大きなバッグを床に下ろした。中か
ら、見るからに怪しげな武器の数々が姿を現す。
「これは重MATと言いましてね。陸上自衛隊の制式対地ミサイルです。しかもこ
れは特製でしてね。通常の徹甲仕様を、対人用の炸裂弾頭に変更してるんです。ラ
ンチャー付きで6発。お得ですよぉ〜。
そしてこれが、米軍の制式突撃銃にもなってるM16ライフル。セミオートで毎
分100発近い速射能力を持つスグレモノです。今なら弾100発をおまけに付け
ちゃいますよ」
専門用語の羅列に目を白黒させる悠歩。構わずにVolは続ける。
「防御が心配でしたら、この軽量装甲スーツ。この前行った武闘さん相手の実地試
験で、強度は保証付きです。衝撃吸収能力と簡易気密装備付きで、両肩のハードポ
イントにはミサイルランチャーや機関銃の取り付けも可能と、至れり尽せり。この
三点セットでいかがですか?」
「い……いやぁ、いいのかな〜、こんなにしてもらって。ほら、昔からうまい話に
は裏があるって言うでしょ? 何か企んでるんじゃないですか、Volさん?」
なぁ〜んとなく、嫌な予感がする悠歩。
「まぁ、それ相応のお代は頂きますけどね。MAT6発で18万、M16と弾100
発で28万、装甲スーツが50万、ランチャーはおまけとして、合わせて96万円
を頭金なしの8回払いでどうですか?」
提示された額に、思わず「うっ」となる悠歩。毎月の収入の8割と、これまで武
闘相手に味わって来た数々の屈辱を、頭の中で秤に掛ける。数秒の躊躇の後、秤は
左に傾いた。悠歩は、分割払いの領収書にサインした。
「それと、連れて行くキャラがいないとお困りでしたら、この優と梓を使ってやっ
て下さい。悠歩さんの指揮下に入るように言ってありますから。この二人なら、罷
り間違っても「武闘さんには」寝返りませんよ。そうそう、火器の取扱い方は付属
のマニュアルに詳しく書いてありますから」
Volの紹介に、二人がペコリと頭を下げる。
かくして、新たな味方を得て、悠歩の復讐劇が幕を開けた。
数日後。
「ん〜? 何じゃこりゃ。酔っぱらいかな?」
とある早朝、悠歩と同じ全身落書き姿となって駅前広場に素っ裸で倒れていた武
闘を、清掃のおっちゃんが発見した。
「くそぉ、誘惑に乗ってあんな契約するんじゃなかった。家賃も払えないじゃんか
よぉ〜」
同じころ悠歩は、さし当たっての当座の生活をどうしようかと、真剣に悩んでい
た。さらに、
「それに何なんだあの二人は〜っ! 確かに武闘さんには寝返らなかったけど、ウ
チの女の子を洗いざらい連れて行きよってからに〜っ!」
そして荒稼ぎをした筈のVolもまた、悩んで……と言うより困っていた。
「まいったなぁ、まさかこんな展開になるなんて。次の作品どうすりゃいいんだよ。
悠歩さんのとクロスオーバーするかぁ? いやいや、しかし……」
悩むVolの背後では、優と梓、それに武闘と一緒にいた6人の少女が、仲良く
談笑している。悠歩の襲撃に合わせて、武闘と一緒にいたところに2人がモーショ
ンを掛け、巧いこと引き離したのだ。そこまではよかった。だが。
「だぁ〜っ、一度に8人もの女の子の行動の面倒なんて見切れるか〜っ!」
……今回の騒動で一番得をしたのは、6人の女の子と一緒にどこかでいい目を見
た(……で、当然ながら行き着くところまで行った)であろう、優と梓だったのか
もしれない。
つーワケで、6人とも返品です Vol