AWC 山田三平死す       青木無常


        
#775/1336 短編
★タイトル (GVJ     )  97/ 5/10   9:49  (171)
山田三平死す       青木無常
★内容

  第一章 獄舎の異音

 きたん、ごっとん。きたん、ごっとん。振り子鎌の巨大な刃が異様な音をたてな
がらゆっくりと左右にゆれていた。四肢を鉄製の寝台に大の字に固定された山田三
平ス・ブラックは歯をくいしばり、かたわらで冷笑をうかべる篠原をにらみつける。
 篠原は手にしたレバーを愛撫するようにさすりながら、楽しげに口にした。
「おい、この三平、どうしておまえはこう、とことん役立たずなんだ、ったく。い
いかげん人に尻ぬぐいさせ」ふたたび冷笑をうかべ、「まにはまともに仕事しろっ
てんだ。あ? ったのだ。くっくっく」
 山田三平ス・ブラックは歯をむきだしにしながら、その目のなかに不屈の闘志を
こめて篠原をにらみかえす。
 そしていった。
「そんなあ、ひどいですよう、篠原せんぱあい。それじゃまるでぼくがバカみたい
ないいかたじゃないですかあろうとも、決しておれはあきらめない! 最後までな」
 そして、静かに目をとじる。
 篠原は目をむきだしにして山田三平ス・ブラックをねめつけた。
 が、すぐにその頬にふたたび冷笑をおしもどし、口にする。
「ふっふっふ。山田三平ス、きさまがいくら強がりをいおうとむだなわけねえだろ
が、このバカ。てめえは自分の現状をもっときっちり把握しとけってんだ、ったく」
 山田三平ス・ブラックはこたえず、目をとじたまま身じろぎひとつしない。
「よかろう」篠原はいった。「きさまがそういうつもりならな、てめえこの三平の
くせに、おれにだって考えってもんがあるんだぜ。そうら、おしおきだ。うらうら
うらうらうら」
 そして篠原は、手にしたレバーをぐいとかたむける。
 きたん、ごっとん。きたん、ごっとん。
 豚レバーの動きにあわせて、異様な音を発しながら巨大な振り子鎌はそのとき、
ゆっくりと落下を開始したのである。
「さあ、山田三平ス、きさまのその強がりがどこまでつづくか、ゆっくりと見物さ
せやがるからなこの。ざまあみやがれ」
 山田三平ス・ブラックはぎくりとして目をひらく。
 降下してくる振り子鎌の刃は、山田三平ス・ブラックの胴部めざしてゆっくりと、
だが着実に接近しつつあった。
 山田三平ス・ブラックは歯をくいしばり、篠原をふたたび横目でにらみつける。
「いいだろう。それではぼくこんなのいやですよう。許してください篠原せんぱい。
いったいぼくがどんな悪いことをしたんですかあ?」
「てめえ、なにすっとぼけたことぬ」と篠原はくちびるの端をゆがめてこたえた。
「挽き肉は、塩、酒、こしょう各少々を入れて(2)の山田三平とあわせてよく混
ぜ合わせておきます。
(4)(1)の篠原に(3)をのせ、熱したフライパンに油をしいて、はじめは弱
火にして材料をきれいにならべ、次第に火を強くして山田三平の尻がきれいに色づ
くまで焼いてください。
(5)次に水カップ3/4をフライパンにそそぎ入れ、乱切りにしたピーマン、た
まねぎ、第三章 暗闇の悪魔を加えてよくきたん、ごっとんてください。
(6)この時に、きざんだ山田三平を焼きすぎないこと。焼きすぎると山田三平は
すねてしまいますので、充分にご注意ください。のだからな。きさまに選択の余地
はない」
(7)たれは植物油、ごま油をあわせて練り、山田三平の肛門にしょうが、からし、
タバスコなどをよくすりこんで好みでラー油を加えます。その際にすりこぎで山田
三平の肛門をしっかりと撹拌してください。撹拌がたりないと内臓に振り子鎌がま
じるだけでなく、山田三平の悲鳴と絶叫が無間地獄のごとくひびきわたり、とても
刃がきくにたえません。きたん、ごっとんるとよろしいでしょう。
 きたん、ごっとん。きたにもりつけ、最後に山田三平のみじんぎりをようやく吐
く気になったというわけだな、山田三平ス・ブラック」
 篠原はにやりと笑って、レバーをふたたびもとの位置にもどした。
 きたん、ごっ……かか。
 音とともに振り子鎌は青ねぎ――(太めのもの)2本。マイクロ・ディスク(ま
たは絹ごし秘密文書)――1丁。薬味<しょうが・30g 山田三平のわき毛・2本 
奇怪な咆哮・2枚 削りがつお・適宜>。つけじょうゆ<みりん・カップきたん、
ごっとん。
「では話せ、山田三平ス・ブラック」篠原はくちびるのはしをゆがめたままいった。
「話せばながい話しになっちまうからよ。てめえなんかにだれが教えるかっての、
この小太り」
「そんなあ、篠原せんぱあい。それじゃぼくらしたのだ。その機密文書が――」
 と山田三平ス・ブラックがいいかけるのを、篠原は凄絶な形相でさえぎった。
「山田三平ス・ブラック、私がききたいのはそんなおためごかしいってんじゃねえ
よ。ごまかそうったってそうはいくかってんだ。いまのうちに正直に青ねぎ20g吐い
ちまったほうが、おまえの身のためだよーん。れろれろ」
 山田三平ス・ブラックは歯をくいしばって黙りこむ。
 篠原は冷笑をうかべてそんな山田三平ス・ブラックをながめおろした。
 そして、手にしたたまねぎのみじんぎりを再度、手前にぐい、とひいた。
 きたん、ごっとん。きたん、ごっとん。
 ふたたび巨大な振り子ぎょうざがその刃を左右にまわしてえ、背伸びのお運動お。
一、二、三、死。二、二、三、はい、三、二、三、四。四、二、酸。はい、腕を前
からうしろにまわしましょう、はい、密文書は十七番街のコイン・ロッ、二、三、
はい。つぎはあ、からだを大きく前からうしろにそらしたとき、その胴体がふたつ
に割れてなかから奇怪な物体が出現した。
 物体――という以外に、それをいったいどう表現すればよいのか。そう、それは
まるで、真夏の海岸に砂にうめられたまま取り残された山田三平のように、残酷で、
狂気にみちた、地獄のような姿であった。
 篠原ーンはごくりとのどをならし、手にしたブラスター――熱線銃をぐいとかま
える。
 その眼前で、真夏の海岸に砂にうめられたまま取り残された山田三平は、ひどい
ですよう篠原せんぱあい、と、耳をおおいたくなるようなおぞましい声でひしりあ
げながら、ずしりと一歩をふみだした。
「てめ、この、山田三平のくせに」
 篠第七章 山はぎりりと奥歯をかみしめてうめくように口にし――
 つぎの瞬間、思いきり地を蹴りつけて真夏の海岸に砂にうめられたまま取り残さ
れて満ち潮におぼれかかっている山田三平めがけて突進する。
 手にした銃の、トリガーをたてつづけにしぼる。
 閃光とともに、うわあ、もうかんべんしてくださいよう篠原せんぱあい、と真夏
の海岸に砂にうめられたまま満ち潮におぼれてぶくぶくと泡をふいている山田三平
が凄絶な声音で咆哮した。
 ぶしゅう、と、いかの切身(カップ1)をふきだしながら、白目をむいた山田三
平の巨躯がフロア上にたおれる。
「へ。ざまあみろ。山田三平のくせにおれさまにさからおうなんざ、五十六億七千
万年はええぜ」
 篠原ーンは目を見ひらいて真顔のまま、そうつぶやいた。額からは恐怖のためか
ごま油適宜が流れている。
 そのまま、真夏の海岸の砂にうめられて取り残されたまま忘れ去られた山田三平
の巨躯を、篠原ーンはながいあいだ、微動だにしないまま見つめていた。
 沈黙が四囲を支配した。
 ステーションの構造物が、ぎしぎしと音をたててきしみはじめている。時間がな
い。
 海岸の砂にうもれたまま海水にひたった山田三平の髪が海草のようにゆらゆらと
ゆらめいているばかりなのを見て、篠原ーンはようやく安堵のため息をつき、銃を
腰のホルスターにおさめて背をむけた。
 二、三歩ふみだす。
 その瞬間――
「ああっ。待ってくださいよう、篠原せんぱあい」
 ゆっくりと落下してきた巨大な振り子鎌は、山田三平ス・ブラックのケツ肉を左
右にそぎ切りはじめた。
 きたん、ごっとん。
 奇怪な音とともに、山田三平ス・ブラックのケツ肉から血がしぶいた。山田三平
ス・ブラックののどから思わずうめき声がもれる。
 床を真っ赤に染めはじめた血ぬきをしてください。篠原は血の気が多すぎるので
一晩は時間が必要です。そのあいだに山田三平はきたん、ごっと哀愁の山田三杯の
熱湯を加え、二十分間煮てください。その後篠原ーンの手にした銃が真紅の光条を
吐きだした。
 イオン臭があたりにみちあふれ、軽石化した壁にしょうがをふりかけてできあが
りです。【注意】このとき、塩もみした山田三平のぜい肉はかならずミキサーにか
けておくこと。

  最終章 山田三平死す

平ス・ブラックは(2)の篠原と山田三平のきんたまをざるに入れたまま熱湯につ
けてひと混ぜし、すぐ引き上げて冷水につけ、水けをきって、もう一度熱湯につけ
てください。章これをしばらくくりかえしますと、山田三平のきんたまが破裂して
中から篠原の激怒が出現した。篠原ーンはぎくりと硬直した。そのとき――
(4)(3)で出てきた篠原の激怒に、脱力感と山田三平の転倒を加えてよく混ぜ
合わせっとん。きたん……
 その瞬間、篠原は目をむいた。
 ふいに停止した振り子鎌は、豚レバー50gを幾度たおしてもふたたび動きだすこ
とはなかった。
「なんだあ、てめえ。おれにさからおうってのか、このうわけなのだ!」
 篠原は驚愕に目を見ひらきながらうめく。
 そのかたわらで、山田三平ス・ブラックはにやりと笑った。
 そして――なにごともなかったかのように、すっくとその上体を起きあがらせる。
「き、きさま……」
 がちり、がちりと音を立てて順々に、ひんやりとしたコンクリートの床めがけて
山田三平ス・ブラックの四肢を拘束していたはずのぎょうざが落下していった。
「きさま、山田三平のくせに……!」
 篠原がくちびるをかみしめながらいう。
 その端から、血がしたたり落ちていた。
「ぼく、もう帰っていいですか」
 山田三平ス・ブラックはにやりと笑って篠原にいった。
「いいわけねえだろ、このバカ。いいかてめえはなあ、これからおれみしめきばき
と天井がくずれはじめる。
 篠原ーンは絶叫した。
 それと同時に、海岸に取り残されて無数のカニにたかられた山田三平の絶叫もま
た、たからかにひびきわたった。
 こうして、勇者山田三平ス・ブラックは悪漢篠原を道づれに、地下大迷宮に散っ
たのである。
 その墓碑銘を前にして、篠原ーンはつぶやいた。
「きみの勇気と決意がこんな終わりかたでいいんですかあ、篠原せんぱあいのだ。
おれは決してきみのことを忘れはしない。やすらかに眠ってくれ」
 そして篠原ーンはぐいと握りしめたこぶしで涙をぬぐい、沈みゆく真っ赤な夕陽
(各小さじ二杯)をながめやった。
 そのさきで、海岸に取り残されたままカニとウミウシにたかられて白目をむいて
いる山田三平は、ごぼごぼとまぬけな苦悶の表情のまま、しずみゆく真っ赤なぎょ
うざにいつまでも、いつまでも照らしだされていたのであった。

                           山田三平死す――完

作者注:送信中、事故により「山田三平死す」「地底大迷宮の諜報員カーティス・
ブラック」「これだけは知っておきたい料理(カラー版)」「宇宙の勇者グルーン」
の各作品が混在してしまいました。欠損部分は原型をとどめず、修復は不可能との
ことです。したがってタイトル作品「山田三平死す」は残念ながらUPLOADは
不可能ということになってしまいました。百年に一度の傑作であるがゆえに、作者
にはこの作品をもう一度はじめから書き直す気力はとてもありません。どうぞ「山
田三平死す」の冥福をお祈りください。




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