AWC お題>雨>■   永山


        
#674/1336 短編
★タイトル (AZA     )  96/10/25  22: 8  ( 69)
お題>雨>■   永山
★内容
「君の名前は?」
「村■司郎です」
「え? 何だって?」
「村■です」
「聞こえないな。はっきり言ってくれないかね」
「村■、です!」
「大声で言えばいいってものじゃない。一言一言、はっきりと言いなさい」
「む、ら、さ、め、ですっ!」
「おお、やっと分かったよ。村■君か」
「え? 違いますよ。村■です」
「だから、村■だろう?」
「……村さめ……です。村さめにしておきましょう」
「じゃあ、村さめ君。君、我が社に知り合いがいるそうだね」
「はい。■野さんです」
「ん? さめ野? そんな奴はおらんなあ」
「いえ、さめ野ではなく、■野さんです」
「同じ■じゃないか。違うのかね」
「同じ文字ですが、読み方が違っていまして……先ほどの私の名前のやり方に
倣えば、あま野となります」
「あ、なーんだ。あま野か。天野じゃなくて、あま野の方だね? うん、彼は
なかなか見所がある。君も、彼のようなたまならばいいんだがねえ」
「ご期待に添えるように、努力します」
「で? 何やら新しいアイディアを持って来たそうだが、どんなんだね? 簡
単にでいいから言ってみなさい」
「はい。−−家庭用降■量予測機とでも申しましょうか」
「なに予測機だって?」
「降■量です。これを一戸単位で限定的・局地的に予測し、例えば行楽のとき、
役立てて」
「待て待て。はっきり聞こえん。降■量? 降あま量ということかね? そん
な言葉、わしは知らん」
「あ、降あま量ではございません」
「では、降さめ量か」
「降さめ量でもありません。今度のこれは、降う量です」
「ああ! なるほどな、それなら意味が通じる。うんうん……いや、説明はい
らんよ。だいたい分かる。だが……梅■のときはどうなるね。必要ないだろ」
「梅■? あ、今度は梅ゆですか」
「他に何がある?」
「梅肉とか梅酒とか……ああ、梅毒なんてのもありますね」
「ばかばかしい。話の流れから言って、梅■と言えば梅ゆに決まっておる」
「……梅ゆのときは、使う意味はほとんどないでしょうね。その代わり、梅ゆ
なのに行楽に出かける人も、あまりいません。逆に、いつ梅ゆが明けるかとい
う点で予測に使えます」
「理屈だな。−−お、雲行きが怪しいな」
「本当ですね。これは■になりますよ」
「今、君、何と言ったね?」
「え? ■ですけど」
「そ、それはどういう意味だ? それを言うからには、それなりの覚悟はでき
てるんだろうな!」
「覚悟? そう言われましても、何のことだかさっぱり……」
「だからだな。これまでの■は、まあ、ぎりぎりではあったが許容範囲にあっ
た。しかしだ。さっき君が言った■は、どう言い逃れしようとも、■だぞ。仮
名に直したとしても、許されるものではない」
「ええ? そうなんですか? 僕、てっきり、仮名にすれば許されるかと思っ
てました……」
「何と言うことだ。残念だが、君は採用できん」
「そ、そんなあ」
「問答無用。さっさと帰りたまえ」
「……分かりました。でも、傘がいります。来たときは降ってなかったので、
持って来ていないのです」
「このビルに傘なんかある訳ないだろう。何しろ……」
「言い淀んでますね。僕が代わりに言いましょうか」
「……頼む」
「このビルを含む空間内では■が降らないんだから、傘の必要もない。……こ
んなところですか」
「そうだ。君はどうやら、その……降る世界にも行けるんだな」
「はあ。結局、住む世界が違うと言うことですね。−−あ、本格的に降り始め
ましたよ、■」

−−終わり (■は、文字化けではありません ^_^)




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