AWC あつい日           パキラ


        
#624/1336 短編
★タイトル (NHN     )  96/ 8/ 2  18:52  ( 40)
あつい日           パキラ
★内容
もうすぐ始まる。女子の800mが。心臓が高鳴ってくる。その鼓動が大きく
聞こえてくる。朝ごはんを食べれない程には緊張はしていなかったが、それで
もスタート位置に向かう足がぎこちなかった。これから始まる、また苦しい思
いをしないといけないんだなあ。と思いながら出番を待つ。県内でいくつかに
わかれた学区中の1つにある学校が集まった小さな大会ではあるが、一応それ
を1つの目標として練習をしているわけである。
夏とはいえ、暖めた身体が冷えないように上に着ていたトレーニングウエアを
脱ぐ。下はランニングシャツとパンツだ。ゼッケンもとめてある。気合いを入
れるために足をばちばちとたたく音があちこちから聞こえる。Mと名前を呼ば
れ、ばしっ。痛いっ。背中に激しい振動を感じる。と同時にがんばってね。と
声がした。うん。ありがと。別にいじめでもなんでもない。激励である。でも
これは結構きくのだ。見えないが、きっと背中には巨大なもみじ型がしっかり
とついているにちがいない。
こちらでーす。16人の選手が召集され、トラックに並ぶよう案内される。
  これより、女子の800m走を行います...アナウンスが告げた。
心臓の鼓動がどんどん早くなる。手の感覚もなくなってくる。1周は300m
なので、2周と3分の2走るわけである。苦しいんだな。これが。でも今日は
これ1本だけなのだ。でもどうしよう。何が?何でもない。けど、なんでこん
なにどきどきするんだ。
  位置について...  
      ばくばくばくばく(心臓の音)
  用〜意  
      ばくばくばくばく
  パーン  ピストルの音が響く。
途端に頭は真っ白になる。前に出なければ。とっさに顧問の教師に言われた言
葉が浮かぶ。
前を走る選手のスパイクの針が目に入って恐い。周りでわーという声が聞こえ
る。一人一人の応援の声は消され、わーとしか聞こえない。200m走ってゴ
ールラインだ。あと2周。あと2周。あ、一人抜かれた。息も苦しい。2度短
く吸い込んで2度短くはく。苦しい。ともすれば息が乱れそうになりまた乱れ
たりもするのを必死でこらえる。呼吸が乱れると余計に苦しくなる。(これは
本当でしょうか?)またゴールライン。あと1周。あと1周。手が冷たい。肩
が重い。苦しい。もう嫌だ。こんなの。このカーブを曲がると終わりだ。前に
追いつくんだ。もう少し。もう少し...よしっ。...終わった...
ゴールではストップウォッチを片手に持って待ってくれていた。お疲れさん。
記録のびたね。
ありがとう。足ががくがくする。何故かお尻のあたりも痛い。もうこれ以上は
走れない。でも立ち止まるにはまだ回復していない。ゆっくり歩く。呼吸は自
由に解放され、手や足が暖かくなり血の気が戻ってくるのを感じた。
                            おわり




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