AWC 「恋い煩い」              珈琲


        
#596/1336 短編
★タイトル (RTG     )  96/ 7/ 7  16:24  ( 15)
「恋い煩い」              珈琲
★内容


「……また、ね」
 いつもの、少し困ったような顔で涼子がさよならを言ったのは、五月も終わりそ
うな日の、花曇りの午後だった。
 あゆみ去る彼女と、ただ、うつむくだけの自分がいて、それは本当にありふれた
街角の風景に見えただろう。
 行き交う車が、街の喧噪が、何処か遠く聞こえて、心に、ぽっかりと穴が開いて
しまったようだった……痛みもないのに。
 彼女は、もう戻っては来ない。
 それは確信に近く、何故そう思ったのか忘れてしまったが、頬を濡らしたものだ
けは覚えている。
 降り始めた雨は微かな夏の匂いを含み、そして、僕を優しく包んでいた。

                                   終




前のメッセージ 次のメッセージ 
「短編」一覧 珎瑕の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE