#591/1336 短編
★タイトル (GSC ) 96/ 6/10 22:59 ( 36)
交通事故の話 /オークフリー
★内容
最近、二人の全盲者が交通事故で亡くなった。
いずれも私の知合いではないが、何年か前にも全く同じような二つのケースがあり
、その時は私の身近な人だったので、両者を思い出し、比較しながら、この文章を
書いている。
事故の一つは、信号機のある横断歩道を渡っていて車にはねられたものであり、
今回のは私の同僚の友達で、昨日その同僚は東京まで葬儀に行ってきたと言う。
5年ほど前の事故は、私の後輩、正に同じ職場(盲学校)の教員であった。
二つの事故の共通点は、夜の10時過ぎに独りで酒を飲んで自宅に帰る途中、信号
を渡っていて自動車にはねられたという点である。
5年前の後輩の方は、生命だけは取り留めたものの、ほとんど廃人同様となり、
3年間の休職の後退職し、今もリハビリテーションの病院に入院している。聞く所に
よると、妻子と離別して、このまま一生涯病院暮しをするしかないようである。
もう一つの事故はプラットホームからの転落であり、折から走って来た電車に
はねられて死亡した。
先日亡くなったのは私の知らない人だが、彼はその朝、盲人マラソン大会に出かけ
る所だったというから、運動神経は発達していた人であろう。
そういえば、昨年もう一人のプラットホーム転落死が新聞に報じられたのを思い出
したが、こちらは全盲者のリーダーで、交通事故関係の専門家だったそうである。
その専門家と自他ともに認める人物が、ホームから転落したのであった。
5年ほど前の転落事故は、私の修行時代の兄弟子で、冷静沈着・慎重な人柄で、
プラットホームから落ちるようには見えない人物であった。
というような訳で、全盲者の交通事故も、反射神経がよいとか感が鋭いというのは
さほど当てにならないようだ。
私自身のことを省みると、今思ってもゾッとするようなことが何度もあって、こう
して生きていられるのが不思議なくらいである。
語れば長い物語になるので、ここでは省略するが、例えば、走っているバスの下に
入り込んだり、もうスピードで疾走して来た車に足の小指を踏まれたり、道路のまん
中でトラックに両側から挟み込まれたり…。
結局のところ、人の運命がどうなるかなどは人知で計り知れないということである。