#546/1336 短編
★タイトル (AZA ) 96/ 1/31 14:57 ( 75)
お題>青い薔薇>青い薔薇殺人事件 永山
★内容
「ん〜、イマイスミ君」
「何すか、フルバタさん」
「君ぃ、これどう思う?」
「これって……ああ、被害者が描きかけの絵に絵の具を付着させたことですね」
「そう。見たまえ、見事な絵だぁ。素人とは思えないよ。水彩画なのに、油絵
のようなタッチが出ている。未完成だけどこんな立派な薔薇の絵に、どうして
青い絵の具をしぼり出し、塗りつけたんだろうねえ」
「犯人を示そうとしたんじゃないすか、やっぱ」
「だったら、誰が犯人だと思うの、君は? もうできてるんでしょ、被害者と
交遊があった人のリスト」
「は、はい。とりあえずですね、青原が本命でしょう。薔薇に青い絵の具なん
だから、青薔薇……青原と似てますよ、読み方」
「リストの中に、他に青が付く名前の人は?」
「え? ちょ、ちょっと待ってください……。あ、いません」
「ゼロ? 青原だけが青が付く?」
「そうです。簡単な事件でしたね。犯人は青原。これで決まりですよ」
「それじゃあね、青い絵の具を持っただけで充分じゃないの」
「は?」
「だから、青と付く名前の関係者が青原一人なら、青い絵の具を手に取るだけ
で充分でしょうが。死にかかっているのに、わざわざ絵の具を取り、キャップ
を外し、中身をしぼり出し、絵をめがけて投げつけなくったっていいじゃない」
「……きっと、きっちりした性格だったんですよ、被害者は。青い薔薇で青原
としたかったんです」
「ん〜、納得できないなあ。イマイスミ君、名前に『ばら』あるいは『はら』
と付く関係者はいるかい?」
「それはですね……あ、いますね。原田って」
「それからぁ、そう、『え』とか『かいが』と付く人は?」
「え、ですか? ……います。江口と遠藤。かいがってのはいませんよ」
「女の人の下の名前でいないの? えみことかえりとか」
「あ、一人いました。エミリっていうのが。片仮名です」
「ふん。他には……『キャンバス』さんとか『ローズ』さんとかはいない?」
「外国人の知り合いはいなかったみたいです」
「うーん。薔薇を強調すると『ばらだ』で原田。絵にぐちゃっと絵の具をぶつ
けて『えぐちゃ』、だから江口。絵にどーんとぶつけて『えどーん』、だから
『遠藤』。どれもぱっとしないなあ」
「何、遊んでんすか、フルバタさん」
「遊んでるんじゃないよぉ。ただねえ、納得できないんだ。さっきも言ったけ
ど、青原が犯人なら、青い絵の具を手に取るだけでいいじゃないか。考えなさ
い、君も」
「は、はぁ……。青い薔薇、ブルーローズですか」
「ん? ブルーローズ。そうだ、英語でブルーローズと言えば、ありえないこ
とを意味するんだっけ。イマイスミ君、リストを貸しなさい」
「はい」
「『ありえない』……ほら、有家さんてのがいる。んふふふ、下の名前もいい
ねえ。内太郎だって。『ない』と『うち』という音の違いはあるけれど、『あ
りえない』になる」
「そんな、こじつけじみた……」
「それを言い出したら何もできませんよ、イマイスミ君。青薔薇を青原とする
のだって、こじつけには違いないのだから。分かってる?」
「そんなもんすかね」
「さあ、他に可能性を考えるんだ。……ん? あはは、今まで気付かなかった。
棘がないんだねえ、この薔薇」
「本当ですか? あ、本当だ」
「これから描くというんじゃなくて、最初から描いてないんだ。つまり、これ
は薔薇に似ているが薔薇でないということだ。となると……『青薔薇』『ばら
だ』『ありえない』の線は消える。薔薇じゃないんだから」
「死ぬ間際ですよ。そんな、自分が描いた薔薇が本物かどうかなんて、意識し
ないんじゃないすか」
「なるほど。人間とはそういう者だろう。君もたまにはいいことを言うね」
「あ、ありがとうございます」
「しかし、だ……犯人は分からないままだねえ」
「そうですね……」
「フルバタさん、例の青い薔薇殺人事件の犯人が緊急逮捕されました」
「それはよかった。僕の推測が当たっていたんだね?」
「その通りです。犯人は夜道を早足で帰宅しようとしていたところを逮捕され
ました。背中に、青の絵の具が着いていまして」
「被害者は犯人が現場を出入りしたことを示すため、犯人の身体か衣服に、絵
の具を着けてやろうと考えた。そこで手近にあった青の絵の具をしぼり出して、
部屋を出ていく犯人の背中めがけて投げつけた訳だ。描きかけの絵に青の絵の
具が付着していたのは、狙いが狂っただけだった。うん、実に完璧な推理だ。
当たってよかった。これで僕の名前に傷が付かなくてすむ。ほんと、よかった。
そう思うだろう、イマイスミ君?」
−−終