#537/1336 短編
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妻への手紙
★内容
妻への手紙
突然あなた様にこの様な手紙を書く私の気持ちを察して下さい。
私、汁部 太一が日頃あなた様に抱いてる諸々の気持ちをこの手紙にしたため、
いや、この手紙にぶつけます。
あなた様は、その・・何と申しましょうか、大らかな性格と申しましょうか、大陸的
と申しましょうか、
いえいえ、それをとやかく申し上げるつもりはサラサラありません。
がしかし、これだけは申し上げなければなりません。
あなた様は大変な御酒好きと常々伺っております。それはそれで結構なことなんです
が・・・。
御酒にも、良い酒 悪い酒があると聞きます。あなた様は、外では随分と良い酒らし
いですね。
でも、何故でしょうか。玄関に一歩足を踏み入れたとたんに どうしたことでしょう
。
あなた様はその口一杯の吐瀉物をところかまわず撒き散らしましたね。
その様はまるで地獄絵の如く私の瞼に焼き付いて離れません。
あげくに私が大切にしておりますところの熱帯魚の水槽に御吐きになりましたね。
いえいえ、そんな些細な事は露ほどにも感じておりません。私が洗えば済むことです
。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、私が御止めになって頂きたいことは、そのあと
のあなた様の行動です。
ひとしきり御吐きになったあなた様は愛くるしいエンゼルフィッシュを都合2匹を御
酒の肴にしましたよね。
失礼いたしました。表現に不正確な点がございました。
確かに包丁でカットインしたのは私ですが、そこまでナイーブでセンシティブな私を
追いつめたのは、
あなた様のストイックでアグレッシブなまなざしです。
耳かきほどの愛情、いえ同情を下さい。愛しい魚を3枚におろし、ワサビまで添たじ
ゃないですか。
それともう一点、気になることがございます。
あなた様のその寛大な人間的魅力のなせる技とでも申しましょうか、情熱的肉厚のせ
いでしょうか。
交遊録の広さには私など到底及びもいたしません。
しかし、人間と言うものは、愚かな生き物でございます。
あなた様の人気を妬む者も現れ、私に根も葉もない陰言をリークしてくる始末。
私は、そんなくだらないデマなんて信じません。
信じませんが、御隣のご主人 川北 信夫氏、居酒屋「いか徳利」の店員氏との噂は
町内のお付き合いの関係上、非常に高度な問題と認識して頂きたのです。
また、長女 文子の担当教諭 相沢 政夫氏、長男 満夫の家庭教師 石井 進氏と
の噂も教育上
よろしくないと思われます。
さらに私 汁部 太一の実父 義一との噂も払拭して無実をはらそうではありません
か。
また、澱川公園にて長期滞在の氏名不詳氏、吹溜3丁目のコンビニエンスストアーの
店先にて
夜な夜なスケートボードと称する遊興器具にてパフォーマンスしている長髪茶髪氏と
その友人4名との
全くもっていわれのない流言も否定しなければなりません。
小さい傷も数多ければ、あなた様の美しいフォルムの輝きが損わないとも限りません
。
どうか、この願いの一つでも聞いていただければ、汁部 太一この上なく幸せでござ
います。
また、この手紙をご覧になった後、ご気分を損なってしまったようでしたら、
私は、浜松町のカプセルホテル「流れ人」に滞在しておりますので、ご一報くだされ
ば
すぐに参上いたします。
それでは、1996年があなた様にとって良い年でありますよう小さいな窓からお祈
りいたしております。
<追記>お宅様の玄関の鍵をいただきたいのですが・・・・。 あっ、ご無理でした
らいいんです。
結構ですから。気を使わないで下さい、夫婦なんですから。