#515/1336 短編
★タイトル (ALN ) 95/10/ 1 20:30 (140)
罪罰 聖 紫
★内容
殺人が総て犯罪だと思うのは愚かな思い上がりだと思う日々。
せめて人間だけは、殺人と云う忌まわしい行為に手を染めない様に等と考えるの
は、幼稚な社会の縮図に過ぎない… 自己防衛の為のモラルなど糞食らえと思う
常日頃。 殺したいほど憎んで殺人を犯した人間が1人其処に居たとする。 殺
したいほど憎んだが、殺人にまでは及ばなかった人間が1人其処に居たとする。
憎しみも怨みもなく殺戮を繰り返す社会の中で…
殺人を犯した人間も、殺人に至らなかった人間も罪は同じだ。 同じように殺
したいと思ったのだ。 殺さなかった人間は、殺人が罪になると思ったから殺さ
なかったに過ぎない… 彼は、偽善の罪も犯した。 ふたつの罪を犯して平気で
生き延びる獣は善良な市民であり、間違いなくこれからも罪を重ねて行くのだ。
己の本能を偽ることなくひとつの罪に生涯を閉ざされた生き物は世間では犯罪者
だ。 彼は二度と同じ罪を重ねることなど有りはしない。 世の中は深くものを
考えるのが億劫な時には便利が良いが、真実を知りたいときにはめんどくさいも
のだ。
軍人も人の子だ、朝夕にはアーメンと十字を切り、日曜日には礼拝堂へ通う。
殺戮マシーンの戦闘機に乗って居るのはパイロットだが、戦闘機は指先に過ぎず
パイロットは神経の一部に過ぎない。 頭脳は本部のディスプレイの前に群がる
上官の上官の上官の… 大統領か… ふふふ、、、、 女子供に銃が向けられないよ
うな、いかれた神経に用はない。 取り替えるか…、ふん。 始末せねばなるま
い。 犯す必要がある時に犯せない屑はいかれた神経と同じもので、犯す必要の
ない時に犯す神経といかれた神経のパイロットは同じ気管に過ぎない。 必要が
在れば善で、必要がなければ悪。 これがひとつの社会で、善良な市民の集う世
の中だ。
世の中には、天に唾を吐く… 等と云う言葉が良く似合う。
唾をはいて己の顔に垂れ落ちる様なことはしない方がよい、しない方がよいから
確実に唾が垂れ掛かる方向をめがける事を利口に知っている。 楽しみに待って
いた運動会の朝、雨が降っていた。 怨めしそうに空を見上げては見たが、其れ
で終わりだ。 予報官はほっと胸をなで下ろす。 雨だと言い切っておいて良か
ったと… 世の中なんてそんなものだ。 必然性は善で逆は悪になりかねない。
なりかねないだけで、善でも悪でもない。
彼にとって、運動会は心待ちにしていた楽しい行事のひとつであったが、別の彼
にとっての運動会は一年の中で最も嫌な行事のひとつだった。 彼は昨夜予報官
が、明日は雨だと云った瞬間からうきうきして、夜も眠れなかったのだから…。
きっと、此の朝… 曇り空で、雨ななど、一滴も降ってこなかったら… 運動
会を心待ちにしていた彼は、予報官の事など僅かにも心の片隅で怨むことなく、
有頂天で喜んだに違いない。 だが、運動会をしたくない方の彼は… きっと天
気を怨む前に、予報官を怨んだに違いない。 尤も、これは例記より逆が意味を
持つのだが…
以前どこかの星の一部では面白い事件が起こったらしいと聞いた記憶が在る。
きっと、誰の記憶にも新しい事だろうが… 報道機関さえ騒がなければ、とっく
に忘れて仕舞いそうなとても古い事だ。 地下鉄で有毒ガステロが行われたらし
い… と言う恐ろしい出来事だったそうだ。
報道機関では、不況の最中かきいれ時の商店街宜しくはしゃぎ回って居たが、
ついに真相を究明する報道はなされなかった。 してはならない事だったからに
違いない。 出来なかったからだろう等と評価的発言はいけない… そう、天に
唾を吐いてはいけないのだ。 精々怨むのは、予報官でなくてはね。
ところで… 命に関わる価値観が陳腐で鬱陶しい世界観にはうんざりさせられ
る。 鯨を殺して食することは古くから彼の民族の生活感だったのだが、また在
る民族の間では牛は殺して食しても良いが、鯨は如何と言う生活感が在った。
牛の命と鯨の命はどちらが重いか… きっと、こうだろう… 牛は飼育できるが
鯨は難しい… まさか、鯨牧場の構想がこの先の世界観を塗り替える恐怖からで
はないか等と考えてはいけない。 そう… 世の中はただ一部の為に在るのだと
云う事も知らずに、唾を吐く様な事を許さないのだ。 鯨は如何が… 海豹なら
かまわんよ。
そういえば… 昔、我々の侵略を拒んだ彼の星の事だが、スターシャは何故、
兄妹の我々を裏切ってまで彼の星を救ったのかね? 真相はこうだ。 価値観が
一方通行だったからに違いない。 我々の星で生まれた作品で在れば、展開も結
末も総て我々本意で展開完結していたに違いないからね。 大凡、彼の星でもて
はやされる物に、真理等無いのさ。 利己主義の癖に利己では無いと云うことが
前提でなくては生きて行けない所なのだろうね。 私は私の信念に基づき… と
か、本能に逆らう事無く… 等と云おう者ならば、その日の中に余所の空間に放
り出されて仕舞うらしいよ。 しかし… 彦星と織り姫が毎年離婚調停の為だけ
に、天の川を渡って居るなんて聞いたら、彼らはどんな顔をするだろうか。 そ
もそも、拉致監禁して置きながら、救援に向かった某星の下りが… かぐや姫だ
から… 何とも云えないが… 箸にも棒にもかからないと見切りを付けて引き上
げたて来た先発侵略艇の船長も未だに神とか云われてもてはやされて居るそうだ
から… 彼の星では、都合次第で有用に用いる事の出来る便利なものが在ってね
我々には理解の出来ない事ばかりだ。
…… 別に我々もそのことを棚上げしたまま放置するつもりは無いのだ。
ただ、いかんせん。 我々以上に、利口な生物が増えて来て、下手な事をすると
やぶ蛇になりかねなくてね。 手を拱いて居るわけでは無いが… 我々が無能だ
と云うのが癪にさわる程度のことなのだ… 事実とは厳しいものだな。
…… しかし、同じ星の生物として、オチャラケも此の程度にしておかないと
某国の様に、骨抜きにされてからでは遅いからね。 せめて我々が生きている間
くらい、我々の思う様にしたいじゃないか… まぁ、何時この寿命が尽きる等と
分かって居れば、其れに合った様に政治を展開すれば済むことなのだが… なか
なか、難しいですなぁ。 なに、私が死んだ後まで世界平和を等とおこがましく
も考えては居ませんよ… 考えています等と云おうものなら、閻魔様に舌を抜か
れて仕舞いますからね。
…… ふむ。 わしが何時亡者の舌など抜いたと云うのだ。
第一、舌を抜かれた亡者が、まともにじゃべれる筈が無かろうに… 地獄から電
子メイルでも送って居る奴が居るとでも云うのか? わしが抜いて居るのは、誰
にも見えない、もう一枚の舌じゃよ。 抜かれたからと云って、痛くも辛くも在
るまい。 舌は真実を語る、一枚だけ在れば良いのじゃ。
…… それは、彼の星の生物には酷な事ですよ。 心を総て削り取られる様な
ものですからね。 我々の星の生物に例えるならば、ほら、王家の沼地に生息す
る爺蛙の脳味噌程度の表皮を彼の星で云う人間とかの脳細胞が覆って居るに過ぎ
ないのですから…
…… 爺蛙の文化もまんざら捨てたものでも在るまい。
彼らほど秩序清らかに生活していればこそ、王家の沼を生涯生活の場として与え
られたのだから… 尤も、王女の泉を与えられた白鳳凰には及ぶまいが… あれ
は単に、王様が養子だから… 王女の我侭が通っての事に過ぎない… なあに、
爺蛙の方が分別はある。 森の梟程の知恵は無いにしても、生きて行く上での知
恵は完璧に備わって居るのだから、それ以上望む必要は在るまい。
…… 森の梟は知恵の泉で朝夕水浴びをしていますからね。
相当の知恵を蓄積して居るでしょう。 しかし、いかんせん。 森の梟は、明る
い所を嫌いますからね。 爺蛙は朝から夜中まで元気に鳴き騒いでいる所をみる
と、夜も昼も、明るくても暗くても気にしないのでしょうね。 ……なるほど。
大したものですね。
…… そういえば、王女の泉の白鳳凰の姿を見掛けませんが… もう、千年の
歳月が流れたのですか?
…… あぁ、千年に一度、彼の星へ旅立つという… 違うでしょう… 今年か
らは、彼の星への食料調達旅行は取りやめになったと聞き及んで居ます。 なん
でも彼の星では既に白鳳凰が餌に出来る程の清らかな魂は皆無の状況とか… き
っと、餓死寸前で、泉の其処に沈んで仕舞って居るのでは在りませんか?
…… それは、一大事ですね。
早速に、パンドラの箱を修復して、彼の星へ送り込みましょう。 しかし… 今
の彼の星の毒気に打ち勝てるような毒を何処で見つけましょうか… あなたの唾
液と私の唾液でも混ぜて送り込みましょうかねぇ……
さて、理由は何でしょう。 理由もなくがむしゃらなのは本能に過ぎません。
理性が介在するならば、総ての事象に説明が付くはずです。 多くの言葉は総て
があなたの言い訳のために用意されて居ます。 あなたが罪を犯した。 多くの
目撃者の中で行ったあなたの行為をだれも僅かばかりも責めて居るわけでは在り
ません。 言い訳を待って居るのです。 無論、聞いたところで何の価値も無い
のですがね。 あなたは、言い訳をしようがしまいが、死刑なのです。
さぁ、聞きましょうか… あなたの為に用意された言い訳を……
聖 紫