AWC 稲光                    聖 紫


        
#495/1336 短編
★タイトル (ALN     )  95/ 8/27   4:14  ( 90)
稲光                    聖 紫
★内容

    木瓜

    木瓜の実の色に気付きて忍れば風に尋ねし遠き君也
    淡紅は花と開けし初夏の夢想い巡らす浅き恋也


    稲光

    暗き闇青い稲穂に稲光空は秋空風は秋風
    音もなく蒼き闇より降り来れば露と光りて何処ともなし


    晩夏

    ひと夏の夢の跡をかき消す様に… 寄せる波は退いて行き
    振り向いた時の君の笑顔は鮮やかに残酷に罪深く切ない…

    茅野の碧い海原を渡る風の色に染まる虚ろいの涕色に輝き
    落ちて行く滑る様に緩やかな時間に飲み込まれて燃ゆる…

    指先に残る柔肌の暖もり… 頑なに硬き唇の青く苦き香り
    未だ胸の膨らみ狂おしく心に蜜き痛みを深く刻み残しゆく

    過ぎたるる熟た果実の落ち行く色も闇に沈み行く陽の如く
    熱くときめき… 激しく燃えて幾たびも繰り返し尽きる夏


    蟋蟀

    夜の明かりに誘われてか… 独りの寂しさに迷ったのか…
    月の影も殺した障子には… 描かれた様にやわらかき草緑

    夏の終わりは未だ秋には遠く人恋しい夜は未だ騒がしい…
    提琴の細い調べを懐かしむ様に冷め行く熱に震える途中は

    お前鳴けば秋の風の気配すら無い夜に独り寂しさ紛らわし
    お前鳴かねば寂しくて独り残り火に照らされて更けて行く


    あの頃は

    あなたの全てが心に刺さった棘の様に…

    あなたの涙が痛くて…

    あなたの笑顔が痛くて…

    静かに眠るあなたの寝顔が痛くて…

    総てがあなたで居た頃…


    もう寂しさも悲しみも涙にはならない…

    もう幸せも喜びも笑顔にはならない…

    もうあの頃は戻りはしないから…

    そう…

    気付かぬ中に…

    あなたは

    遠いあの頃になった


    noesis

    掛け忘れたままの電話の受話器 仕舞忘れたaddress
    色の褪せ始めた君の写真と めくり忘れた calendar

    止まったままの時計のネジを巻く様に突然動き始める
    忘れ去られた昨日までの総てが遠い昔を明日へと移し

    今はもう居ない君の部屋で 呼び続ける電話の bell
    何時か忘れた思い出を 君に返す術もない midnight

    もう一度繰り返せない日々だから懐かしむ事が出来る
    分かりすぎて居て笑えないほど 未だ老いても居ない

    心に残ったままの傷の深さと痛みの消えない reason
    君の静かに眠る部屋の前 開ける事の出来ない door

    薄く積もったテーブルの上の埃を綺麗に拭き去る様に
    何もなかった様に突然の明日が目の前で佇む夜もある


                           聖 紫




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