AWC Jigsaw puzzle.          聖 紫


        
#415/1336 短編
★タイトル (ALN     )  95/ 3/ 4  21:42  (116)
Jigsaw puzzle.          聖 紫
★内容

    あの夏の日


    忘れて居た筈の夜に迷い込むと、あの夏の日が、今も… 鮮やかに蘇る
    何時か気付いていたのに、華やかな閃光が色の粒に姿を変えて開く束の
    間の花火の様に消える時を知り乍… それでも瞳の前から消えて終うま
    では、信じて居られるものなのですね。

    紅く燃えるような、熱空に抱かれて… 貴女の白い指先は、何を夢観て
    いたのでしょうか… 一途に見つめる眼差しの先には確かな答えが見え
    て居たのかも知れませんね。

    さようならの代わりに告げる別離の言葉を探し続ける貴女の横顔が今も
    寂しい…

    貴女が最後に、仕上げたパズルは… 今も私の心の中に残って居ます。
    ピースの数に替わって見える明日が涙に変わる、悲しいけれど、別離の
    風景は、ひとつづつ貴女が埋め尽くして終うのです…

    今にも泣き出しそうなあなたを抱きしめてしまえば… きっとあなたは
    泣きだして仕舞うでしょう… さようならが、何時までも云えないのは
    何時かもう一度出逢えたならきっと仕合わせが待って居るからなのだと
    束の間の気まぐれで歩き始める分かれ道の様に… 再び何処かで交差す
    ることを信じているふりをして… 初めての嘘に、私は涙を捨てて終い
    ました… 二度と恋などしないと誓う変わりに。

    帰るあてのない、旅立ちでしたね… 思い出に変えて、言葉に代えて…
    白い靄の朝は、碧い波間から訪れることを… 初めて知ったあの夏の日
    貴女の細い身体を抱き包んだ、あの温もりの残る潮風は今でも船を包み
    込んで居るのでしょうか… あの日の二人の並んだ風景は永遠に変わる
    事のない時間の中のひとこまに過ぎないのでしょうね。



    加美子


    思い出して居るのかと聞きたいのでしょうか… 眼差しで、遥か遠くを
    探していますか… 誰かの影を見つめて居るようなのでしょうか…

    忘れては居ないけれど… 忘れたつもりにさせる夜を抜けて、あの娘の
    仕草が、横顔が、寂しさが… 忘れた筈の恋心に、甘い炎を灯しそうで
    だから… 独りじゃ無いと騙して見せる。

    恋に変われば… あの娘には、同じ悲しみを重ねたくはないと… 心の
    何処かでは、理解っているのでしょう…

    貴女と出逢った街に、何も知らないあの娘が突然行きたいと云うから…
    私は貴女の影をあの娘に重ねるほど、貴女の幻に縛られても居ないし、
    あの娘を貴女ほどにも愛して居ないから… 気付かぬ振りで抱き締めた
    夜を今も苦く思い出すのです。



    恋も…


    恋もゲームなら、ルールを見付けましょうか… あなたの所為で悲しい
    なんて… 云わない方が良いのでしょう。

    背中で躊躇って抱き寄せられない… あなたの胸にこのまま抱かれても
    構わないから、瞳を閉じるタイミングを計りながら待って居るのに…

    二杯目からの水割り濃いめにしてね… あなたの側で夢見る様に夜へと
    滑り降りて行く… 気づいた時にはあなたの腕に抱かれて居ても良いわ
    白い胸が裸で波立つ様な激しい鼓動の朝を探しているその手で弄んで…

    優しく激しく思いのままに獣の様に春の微風に運ばれてくるやわらかい
    陽射しの緩やかな暖もりの様に…

    暗がりの夜が、明かりの朝へと、少しずつ変わる気流の色に酔いながら
    闇と光が裏返る一瞬を見逃さないで束の間の妖しさに延びる影を抱きし
    めて、心の闇が朝の光に奪去られて仕舞わない様に、犯して良いのよ…

    恋もゲームなら、何時か終わりが来るでしょう… エンドレスなんて、
    疲れさせはしないから、私の体も適当に忘れてね。

    あなたの背中にすがりつくの… それともあなたが私の背中を抱き寄せ
    胸の膨らみに最後の余韻を残しながら静かに耳元に囁くのでしょうか…
    別離れの言葉は無くても熱い唇の震えで理解たい… 最後の接吻だと。

    残り香は連れて行かないで… そよ風が悪戯にあなたの背中で誘う様に
    呼び止めるからあなたは振り返って仕舞うでしょう… その時あなたの
    瞳に映るものは、私の涙かしら… さようならの後は出会う前の他人に
    戻れたら良いわね…



    あてなどもなく…

    もしも、おまえが深い闇夜の寂しさに脅える夜は、俺が朝まで側に居て
    肩を抱いて暖めてやろうか… なにも見えなくても温もりが伝わる様に
    肌と肌を寄せ逢って…

    もしも、おまえが死んで仕舞いたいほど、恋に疲れて、激しい悲しみに
    包まれたなら… そのときは、俺を道連れに死んでも構わないと言葉の
    代わりになにを望むのだろうか… 星を視ろ… 所詮、幾億年もの躰等
    望めはしない。海を視ろ… 船もなく、その波に漂えるなら… おまえ
    ひとりが、私の総てで良いのだよ。

    もしも、おまえが仕合わせを望むためにこの俺の腕を離れて遠く旅立つ
    ならば… 俺を忘れて終え二度と振り向かぬ様に捨てて仕舞えるならば
    笑顔でおまえの背中を見送ろう…

    もしも、おまえがひとりきりでその命を絶つならばその時は忘れ捨てた
    筈の俺の命とともに旅立て… 夢を視ろ… 冷めても目覚めぬ様に深く
    墜ちてゆけ雲の波間を歩き疲れた風の様に、沈んでゆけ蒼い海原に帆を
    奪われた船の様に… 最後の意識の中から聞こえる俺の熱い鼓動の中で
    おまえより先に冷たく変わらぬように俺より先に絶えて仕舞わぬように

    星を視ろ… 流れた後の行き着く先などあてもなく。海を視ろ… 深く
    遠く行き着く底などあてもない…


                                 聖 紫




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