#398/1336 短編
★タイトル (TRG ) 95/ 2/13 22:58 ( 33)
お題>月と指輪 宵寺
★内容
月と指輪 宵寺 松虫
明治三〇年のある秋の夜、熱海の海岸に満月に照らされた二つの
影が歩いていた。先を行くのはマントに角帽の学生姿の男、すこし
離れてあとに続くのは和服の若い女だった。
男が立ち止まった。
「宮さん」
男が振り向く。
「貫一さん…」
女が立ち止まる。しかし、宮は貫一の顔をまともに見ることがで
きず、すこし横を向き、うつむいた。胸の前で右手に重ねた左手の
薬指には、月に照らされてダイヤモンドの指輪が輝いている。貫一
の目がその光を捉え、ついに押さえていた感情を吐き出した。
「宮さん、君はその富山のダイヤモンドに目が眩み、許婚者のこの
おれを裏切ったんだな!」
その言葉に宮が顔を上げて寛一を見た。
「貫一さん、違います」
宮が貫一に近寄ろうとした。つい出してしまったのは左手だった。
「よるな、この売女!」
指輪を見た貫一は逆上し、下駄を履いた足で宮を蹴り倒した。そ
して月を仰いで言った。
「見ろ、あの満月を。おれはこの夜を、この恨みを忘れはしない。
来年の今月今夜のこの満月も、再来年の今月今夜のこの満月も、お
れの涙で曇らせてやる」
だが、貫一の約束は果たされなかった。貫一は習慣的に旧暦のつ
もりで毎月同じ一五日が満月と思っていたが、暦法はすでに明治六
年に改正されており、次の年には月齢で十一日、さらに次の年には
月齢で二二日ずれてしまって、満月にはならないのだ。
<おしまい>
『金色夜叉』の細かい台詞は忘れてるから、オチのために現代風に意訳してし
まいました。しかしWX3って「売女」を変換しないのね。
しかし、いきなり外すやつである>私