#387/1336 短編
★タイトル (ARJ ) 95/ 2/ 2 18:54 ( 57)
お題>けがれ みのうら
★内容
:「彼女の娘」
さてその月の終わりに嫁入りの決まった妹は、新月の晩を含めて三日間、神殿預かり
の身となった。
三日の間神に身を捧げ、その七日後に結婚の儀式が執り行われる。
神の掟に従って、彼女は白い麻布一枚で神殿に赴いた。
一日目の夜、彼女を訪れた神は、闇の黒髪を長く背に流した、冷たく氷る妖術士だった
二日目の夜、彼女を訪れた神は、闇の黒鉄で燃える赤毛を束ねる、雄々しい戦士だった
三日目の夜、彼女を訪れた神は、闇にも輝く黄金の髪を、いくつにも編んだ神官だった
夜が明け、彼女は迎えの輿に乗り、つとめを終えて去っていった。
時が満ち、彼女は闇の黒髪を持つ、美しい、神の娘を産み落とした。
その娘は神の恩寵を受け、この世の汚れに染まることのない心を持っていた。
娘が神の御子であることに、誰も疑問は挟まなかった。
けれども、彼女の髪は夜の黒髪。娘の黒髪は、母親ゆずりなのかもしれず、あの三晩
に彼女を寵した、三人のうちの誰が娘の父親なのか、それは彼女にも解らなかった。
誰の子供であっても、神と過ごす三日の間に命を受けた娘は神の御子。
白い夜光草で飾られた新床が、夫の赤い血で染まった。
満月の夜、妹は若き寡婦となり、夫の葬儀を取り仕切った。
たとえ神の寵が表れなかったとしても、誰もが知っている。娘は神の御子なのだ。
月のない晩、妹は娘に面影を重ね合わせる。燃える赤毛の、闇の黒髪の、輝く金髪の
。
娘は、妹に生き写しだった。誰の面影も、持たないがごとく。
神の娘とあきらめて、妹は娘を育てた。
娘が年頃になる前に、神はさらなる恩寵を娘に与えた。
三日三晩高熱に苦しんだ娘の目は光をとらえず、耳は音をとらえず、喉は美しい歌を
紡がなくなった。
亡夫と暮らすはずだった、つつましい館で、妹は年老いた義父と義母に仕えて暮らす
。
妹が神殿に預けられたあの日、あの時と同じ歳を、娘が迎える日が近付いた。
眠るように逝った義母の後を追うがごとくに消えた義父の命で、妹は再び嫁すことと
なった。
降るようにあった再婚話を、これまで拒んできた妹が、それを受ける気持ちになった
のは、残される娘の後見を、家の長となった兄が受けてくれようと言ったからであった
。
二度目の嫁入りのため、妹は再び神殿預かりの身となった。
三日の間神に身を捧げ、その七日後に結婚の儀式が執り行われる。
神の掟に従って、彼女は黒い麻布一枚で神殿に赴いた。黒は寡婦の色なので。
神から下げ渡されるとき、妹は新しい人となって現れる。
一日目の夜、彼女を訪れた神は、闇にも輝く黄金の髪を、いくつにも編んだ神官だった
二日目の夜、彼女を訪れた神は、闇の黒鉄で燃える赤毛を束ねる、雄々しい戦士だった
三日目の夜、彼女を訪れた神は、闇の黒髪を長く背に流した、冷たく氷る妖術士だった
神事が終わり、闇に濡れた黒い刃が夜の中から取り出されるのを妹は静かに眺めてい
た。
それではお兄上さま、今度こそ私を殺すのですね。
ささやきにも似た告発は、稲妻の鋭さで兄の胸を突き通した。
娘を預かる神の化身に、作意があってはならないのに、姿を変えて三度、三度。
二度に渡って神事を汚し、妹の夫を剣にかけ、姪でありながら我が娘であるものを娶
ろうとした男は降る石に押しつぶされ、妹とその娘は神殿の奥に消えた。