#116/1336 短編
★タイトル (WJM ) 93/ 8/21 11:32 ( 38)
夜に κει
★内容
少女。
冬はますます寒さを厳しくさせて、駅からの夜道を辛くさせる。痛くなった耳を両
手で包み込み、オリオン座を眺めながら歩いた。
心なき溜息ばかりついている。夕食も喉を通らぬままに箸をおいた。そろそろ9時
を回ろうとしているのに、一人でいる光景はなんら珍しくない最近の日常。静かすぎ
るから、テレビでも付けようとすると、なおいっそう引き立つように思えて恐かった。
ずっと寂しさを覚えていた。音のたたぬ家は、いくら広くたっていらなかった。不
自由しない小遣い。こんなものもいらない。可愛い猫を飼いたいと思っていた。愛ら
しい名前をつけて、目をほそめる猫に口付けを何度もしたあと、毛並みを撫でて抱き
しめる。きっとあたたかい。たまらなく。
すべての部屋から明かりを消しにまわった。いつもは闇になる瞬間が嫌いで、付け
たままにしておくのだけど、今日はそうじゃなかった。風の音がごうごうと聞こえる。
階段をあがり、部屋に戻ると扉の鍵をかけた。しばらく軽く目を綴じて立ち止まっ
ているが、やがてベッドに倒れ込む。両手で布団を抱きしめながら丸くなった。
溜息をついて。カチカチと部屋を刻む時計をみて。受話器をみつめて。ご自慢の髪
を手にとり、見つめているうちに早くなる心臓の鼓動を感じる。ベッドの頭にある写
真立てに腕を伸ばし、体育祭の日にそっとシャッターを押した写真をみつめて。それ
に触れて。その指で自分の唇をなぞりながら、感じた柔らかさに物悲しくなった。
ベッドから降りて震える膝を両手で抱え込み、じっと電話機に目をおとした。毛布
を体にまきつけて小さくなる。ときどき手を冷たい受話器にのばしかけて、その度に
思いとどまる。
ピンクの絨毯に人差し指でありふれた告白。自分でも思えるほどの美形であるのに。
三日月にも気付かれず、誰にも気付いてもらえなくて、華奢な体に背負い込む。
すべてを覆い隠す静寂な夜は罪。