AWC 〜Fly Me To The Moon〜      うちだ


        
#109/1336 短編
★タイトル (TEM     )  93/ 8/12   3:21  ( 26)
〜Fly Me To The Moon〜      うちだ
★内容

 高そうなスーツを着て、23にもなるくせに達彦は十代の男の子みたいな運
転をする。カーブをすごいスピードで曲がる。それをカッコイイと思っている
なら、バカみたい。夜も更けて、私は車の窓を開ける。舞台装置に画かれたよ
うな見事すぎる月が移動していく。きっと明日は晴れるよね。さっきまでユー
ロビートだった、カーステレオの曲が古いJAZZバラードになる。どうもこ
のテープはわざわざ編集してつくったものみたいだ。いったいどういうつもり
かな、なんてね。この曲イイ感じ。今ならキスしてもいいのにな。

達彦がちらちらと私の顔をななめに見る。いい気分。

 学校帰りに校門へのお迎え、夜のドライブ、デート仕様のスーツ、窓を開け
ると入ってくる風、オシャレなレストラン、私に気のある男の人。気持ちいい
ことは大好きだよ。ちやほやされたいな。頭イイとか気が利くとかそんなこと
より、可愛いとかキレイとか言ってほしい。いっぱいいっぱい言って欲しい。
別に相手が達彦じゃなくったっていい。

 スピードを上げて走り続けるプレリュード。不安定な座席はシートベルトを
しないせい。時速150キロ。次の瞬間、事故って死んじゃってもしょうがな
いなって思うほど気持ちいい。つまらないTV、退屈な学校、どうでもいい家
族、かわりばえのしない毎日が私のまわりを取り囲んでいる。このまま夜が続
くといいのに、いつだってどこでだって誰とだって私たちは死んでしまえるん
だ。このまま夜が続くといいのに。


                               おしまい




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