#78/1336 短編
★タイトル (ZBF ) 93/ 7/ 5 7:21 ( 41)
お題>「よく・ある・話」−僕は君だけは許せない− 写愚
★内容
<嵐の夜、電灯代わりのZIPPOが、君と僕の間で揺らめいている>
君は何をした。よくもオメオメと生きていられるものだ。君は敗北した。君は降
伏したばかりか、敵の走狗に成り下がった。
<君の瞳が、怒りをたぎらせ僕を見つめ返している>
君は高校の頃、闘いはじめた。青臭いと嗤われたね。独善と謗られただろう。非
常識と罵られたこともあった。その度に君は、常識より良心を採ると突っ張った。
幼いとは思いつつ、僕は、君を認めていた。僕は、少なくとも僕は、心の中で君を
弁護していたんだ。
<僕は、激情を静めるため一瞬、君から目を外らす>
君は奇人、に思えた。奇とは、人ではなく天に肖ること。君は天、則ち一個の良
心にのみ従おうとしていた、ように見えた。「坊っちゃん」の舞台になった僕たち
の高校の図書館には、夏目漱石ゆかりの額が掛かっていたね。「則天去私」。君は
よく其の額を見つめていた。何十分でも、何時間でも。あの時、君は何を考えてい
たんだい。思い出せないだろう。憶えている筈がない。残っていたとしても、せい
ぜい記号の無秩序な羅列だろう。君は変わってしまったのだから。憶えている筈が
ない。結局、君は奇人ではなかった。奇を衒ってただけさ。……釈明なんて、聞き
たくないね。
<僕は、いつの間にか拳を握り締めていた>
どうしたんだ。、いつもの傲岸の仮面は。失くしちまったのかい。それとも怖い
のか。……安心しろよ。君を殺したりはしないさ。殺したいのはヤマヤマだけど、
そんなことをしたら、僕も死ななきゃならなくなる。馬鹿馬鹿しい。あまりにも下
らない。その代わり、僕は生きている限り、君を蔑んでやる。蔑んでやる。僕は君
だけは許せない。君は僕を裏切った。君だけを信じていたのに。……だから、君を
蔑んでやる。僕は君だけは許せない。すべての邪悪なる魂を許したとしても、僕は、
君だけは、許さない。
静まり返った夜の街に、鏡を砕く音がする。何処からか、今日も。
(了)
*挿し絵はアートスペースの71−75(久作名義になってます)。