#12/1336 短編
★タイトル (ZQG ) 93/ 4/30 4:20 (188)
<お題> 青空 【惑星人奈宇】
★内容
青い空に太陽が輝き、雲なんて何処にも無いような朝、春男は屋敷の木にとまっ
てさっきから囀っているウグイスに気をとられていた。どの鳥が鴬であるのかと、
鳴き声のする方向を見て鴬の姿を探していた。この時、外から声がした。
「春男、何をしているんや、早く来ね」
親父の声である。親父は農作業に忙しいために、わざわざ田圃から呼びに来たの
である。5月の連休に行われる田植のために、4月中旬はその準備に忙しいのだ。
春男は、今日は日曜日であるし、天気も好いので友人である安男と何処かに行こ
うかと漠然と行き先を思い描いていた。親父はいつも、そうなのだ。天気が好いと
必ず呼びに来て田圃に引っ張り出すのだ。
「何やあ、耕運機で田圃すきかあ、あとから行く」
親父は安心したのか田圃に戻って行った。春男は農作業用の衣服に着替えて田圃
に自転車にのって家を出た。まぶしい程の太陽の光を受けて、萌え立つような大自
然から受ける恵みに幸福感を味わいながら、そして小鳥の囀る青々とした木々の木
陰を通り抜けて田圃に急いだ。
春男は安男と行きたい所があるのだ。それはここから竜川沿いに3キロメートル
くらい上流に行った所に弥生時代の遺跡が有るとか言われている留香の里である。
小さいが傾斜の緩い山になっていて、所々に川原の石を並べて作られた質素な道
が有り、屋敷跡も崩れかけた石垣として残されている。
田圃に着くと、親父は畔に生えている雑草に除草剤を溶かした水をジョウロでか
け、そして畔に土盛りして補強する作業をしていた。農業の仕事は相変わらずだ。
土や埃に塗れての重労働だからなあ。春男の視線は田圃の入口から少し中に置かれ
ている赤くて力強くて頼もしい耕運機に移った。この耕運機を見ているとドキドキ
としてきて、逸る気分になるのだ。ゴクンと唾を飲み込み親父に話しかけた。
「美香はハイキングに行ったんか。妹は好いなあ、何処に行ったんや」
畔でスコップを動かしている親父に話しかけた。
「何でも友達と老人養護施設に慰問に行ったとか」「慰問かあ、妹にしては感心や
なあ」
春男は、家中が田圃で仕事をしているのにシャアシャアと派手な服装をして友達
等とハイキングに行ったのだとばかり思っていたので、自分の思い込みに恥ずかし
さを覚え、帽子を被り直し耕運機に乗った。
ブルルルンブルルルン、耕運機は力強く快調に爪を高速に回転させながら進んだ。
この時、田圃横の道路を安子が通りかかり春男に手を振った。春男は、尻がビン
ビンビンとハンドルを握っている腕はブンブンブンブンブンと震動させられている
ので、簡単には安子に答えられません。安子を見ても手がブルブルブルとエンジン
の震動に合わせて震えているので、サットと一瞥した後はすぐに前を見て耕運機が
あらぬ方向に進みは仕舞いかとしっかりとハンドルを握り梶を取っていた。
安子は乗っていた自転車から降りて、春男の居る田圃に入って行き、耕運機の前
に立った。春男は口をパクパクさせて耕運機を止めて更にエンジンも止めて降りた。
「何やあ、何かようか」
「夜に、ぼた餅を作るから食べに来ないかって思って」
「ぼた餅、うおおおう、うおうおう、わうわう。でも夜はあかん、忙しい」
「ぼた餅はこの次でも好いよ。安男君が例の遺跡探検で、宝石とか金を掘り出した
らなんて言うから、宝石なら私にも欲しいわと彼に言ってやったの」
「あそこは、史跡に指定されているから、そっと入らんといけないしな。宝石まで
は……、でも骨とか食べ物のかすなら出てくるかも知れんな」
「ダイヤモンドは無理でも、メノウとか水晶の飾りものなら可能性有るじゃん」
「あの丘の竜川側は、今再開発でボート乗り場とか鍾乳洞を利用した観光施設など
の設備充実をしているじゃん。だから、何時の日にかあの山は開発されるよ。きっ
と」「いづれ開発される運命なのかあ」
「それで安子も一緒に行きたいのか?」
「わたし、ダイヤモンドやネックレスそれに宝石、などがザクザクと出てくるのが
見たいの!」
春男は、全く女ってえ奴はダイヤモンドとなると目を輝かせて強欲に成るのだろ
うか、なんて考えると胃が微かにズキンズキンと痛むような気がした。ダイヤモン
ドは出てこなくても金の装飾品とかメノウや翡翠加工物とかなら可能性が有るだろ
う。春男は田圃二枚を耕して家に戻った。昼食を終えて安男に電話した。
「留香の里に、ダイヤモンドが出るんやってか?。安子ちゃんから聞いたぞ」
「いや、その、細い道を登って行くと洞窟が有ったんだ。ひよっとしたらと思った
だけだよ。だけどさ、2000年前の話ではなくてさ、300年以前とかに大盗賊
が大金持ちから盗んだ金銀財宝をここの穴に隠して、そして捕らえられて死んで仕
舞ったってえことも有り得るからな。何か有りそうな気がするんだ」
「ほんとに金銀が出てきたら、そりゃあ凄いぜ。楽しみだぜ」
午後春男と安男は自動車に、ハンマーに懐中電灯それに小さなシャベルなどを積
み込み、留香の里に向かった。途中の店でジュースと寿司弁当それに飴とガムを買
い込んだ。
山の麓に着くと空の青さと山の木々の新緑が目に染み込み、爽やかさの空気を胸
一杯に吸い込んだ。リュックサックに必要な物を詰め込んで細い舗装されていない
砂利道を小川に沿って上流に登った。登り始めは歩き易かったが、奥に進むに連れ
て細い道路に蔓草や木の枝が飛び出していて足に引っかかった。そして道は所々泥
濘んでいた。
「静かさの中で鳥の鳴き声が響くなあ。洞窟はまだか?」
「そやなあ、ここから1キロメートルくらいや。おっ、この赤い実は何や?」
「これか、グミではないか。美味しそうやな」
鳥の鋭い鳴き声が時々木霊し、どんな凄い動物が棲んでいるか想像出来ない森か
らの風を受けながら、所々清水が流れ込んでいる小道を進んだ。
「ここやあ、この洞窟や」
「ほっ、これか。熊でも出て来そうやな」
「心配するなって。只今探検中と書いた布をこの木の枝に下げておくから」
遭難なんてことは無いだろうけど安男は手回しがよいのだ。
春男と安男は頭に電灯を付けて、手にはハンマーや杖を持ち注意深く水溜を避け
て洞窟内を進んだ。コウモリも我々の到来に驚いたのかパタパタと飛び交い鋭い声
を発した。天井から落ちる水音と歩く時出る水音、それに呼吸までが木霊した。
「腹減った?、弁当食べようか?」
「春男は恐ろしく成ってきたんか?、あははははは」
「何にも無いなあ。気味悪いだけだよ」
「もう少し先に、広い部屋らしきものが有ったら、そこや」
「えっ、部屋っ?。そこで弁当にしよう」
「山賊が獲得物を隠そうとする場所は……、何か特徴が有る所や」
二人が更に歩いて行くと、1メートル位上に横穴が見つかった。多分ここだろう
と二人は思い込み、少し身を屈めて歩かないと天井の石が頭があたるような横穴に
入って行った。慎重に2分程進んだ。そこは行き止まりに成っていて、広さは10
畳間くらいで天井も割合高いゴツゴツした空洞に成っていた。
「安男君、弁当にしようか。しかし、ひんやりしているなあ」
「大分入ってきたからな。おっとっと、丁度ここまでで10分だ」
「帰り道大丈夫だろうなあ。ここらで岩が崩れたりしたら、一巻の終りだぜ」
背負っていたリュックサックを降ろし、寿司や缶ビールを取りだした。身体に染
み込みそうな湿度100%の空洞の中で注意を周囲に配りながら、ビールで喉の渇
きを癒した。安男は何処かに何か手がかりに成るものが無いか視線を走らせていた。
「何だ、あそこに大きな岩が有るぜ、あの岩のある箇所を触ったら開くとか・・・」
「ほんとに扉が開いたらびっくりしてひっくり返って仕舞うなあ」
「蝋燭に火を灯もすわ。電池が減ってしまっては困るからなあ」
蝋燭の火は時々ゆらゆらと揺れた。何処かから風が吹いて来ている証拠である。
水溜と細い水路を注意深く辿って、蝋燭の火の揺れを観察した。水はさっきの大き
い岩の辺りから水が流れ出していて、空気もこの辺りから流れ込んでいるらしい。
春男は早速ハンマーで岩の突起物を叩き始めた。岩は堅いので簡単には崩れません。
それで、諦め顔で側面や水の出口を叩いたりした。
「奇跡は無いなあ。どうする?」
「壁に隠し扉が無いかどうかだな?」
蝋燭の火を片手に持ち、炎が大きく揺れる箇所でハンマーで叩いて反応を見てい
た。この時異変が起こった。
ゴオオオッと言う音と共に、春男と安男は宙に舞い、ウワワワワッと悲鳴を上げ
る間もなく、草の生い茂った柔らかい地面の上に尻餅をついた。
「何だか、異次元の世界に来てしまったかな。ちょっと顔をつねってくれ」
「それより、リュックサック忘れてきたよ、さっきの場所に……」
「暗くてよう解らんけど、水の音がする方へ行ってみようか」
「まるで原始人に成ったみたいだ。星明りも無いから、ゆっくり行こうや」
春男と安男はジャングルのような生い茂った木々の間の細い道を小川の方へ用心
深く身体を寄り添うようにして進んだ。
「こんな所で、虎とかに襲われたら大変だよ」
「さっきから気になっていたけど、あの身体に響くような鋭い声は何だ」
「もう少し明るい所で出ないと、見えないじゃんか」
おっかなびっくりで木の枝に身体を引っかけながらも夕暮れのような明るさの川
のほとりに二人は着いた。顔を洗って水を飲もうかと川に入り込もうとした時、生
い茂っている木の茂みから、ぬっと人間の3倍程もある恐竜のような動物が現れた。
首の長さが3メートル程もある先に巨大な頭が有った。目は金色に輝き口からは5
0センチ程の舌を鋭くペロペロ出し入れして、二人に襲いかかった。
春男と安男は地面に叩き付けられるように倒され気を失ってしまった。二人はど
れくらい眠って居たのだろうか。
「ねえ、美香、ボート漕いでいる時、船で釣りをしている人居たじゃん」
「竿を一杯にしならせて引き上げたは好いけど、ゴミだったからね」
「あの時の釣り人の顔、忘れられないわあ。期待から失望への突然の変わりよう」
「ほんと、おかしかったねえ。竿がこんなに撓り皆注目してたもの」
この時やっと春男と安男は、自分達は気を失っていたことに、気がついた。
いつのまにか木陰のベンチで毛布をかけられて眠っていたのである。
「どうしたんや、安子に美香。ここは……」
「あはははは、二人とも恐竜にびっくりして気を失ったのよ」
「鍾乳洞の管理人さんは恐竜を運転していた時に突然見知らぬ二人が現れたから
びっくりして仕舞ったって言ってたわよ」
「そうだったのか。あははははは」
「それでダイヤモンドは見つかった?」
「ああ、広い空洞の所で、奥の方にキラキラ光るものは有ったよ、なっ」
「おおお、有った有った。キラキラと光っていたから、驚いて尻餅をついてしまっ
たよ。ほいて安男なんか嬉しがって安子ちゃあんなんて叫んだもな」
「嘘だよ、安子の顔がちらっと浮かんだだけだよ」
「それで、ダイヤモンドは?」
「そしたら、ズドンと落ちちゃったんだ」
「私達、びっくりしたもなあ、鍾乳洞奥の恐竜館で二人に会おうとは思いもしなか
ったから、ねっ、美香」
「でも凄かったわねえ、恐竜館、ほんものそっくりだもの」
久しぶりの日曜日、初夏がもうすぐのように思える日差しの中で、そよ風に吹か
れて一時間程休んだ後、春男達4人は安男の自動車の所に歩いて戻った。
青空には鳶がゆうゆうと円を描くように滑空していた。
−−−−−−− 完 −−−−−−−