AWC お題>「青空」           久作


        
#10/1336 短編
★タイトル (ZBF     )  93/ 4/28  12:48  ( 67)
お題>「青空」           久作
★内容

拝啓、
チイちゃん元気ですか。私は元気です。東京の会社に就職してから、みんなと
離れ離れになっちゃったけど、寂しいと思う暇がないぐらい毎日が忙しくって
充実しています。東京ってなんでもある所です。ないのは田舎みたいに青い空
だけ。でも平気。空見て暮らしてるわけじゃないもん。なんだか、とっても自
由な気分です。この前、会社の先輩に「ハウス」に連れて行ってもらったの。
宇和島にはディスコもなかったもんね。お酒もちょっと飲みました。同窓会を
やる時は教えてね。それじゃぁね。                 敬具
       平成五年四月二十日                真由美
チイちゃん


前略
チイちゃん元気? 東京の暮らしにもだいぶ慣れてきたみたい。この前、ハウ
ス行ったらナンパされちゃって、それが結構イイ男でね、フリィタァしてるっ
て言ってたけど、イイ服着てたし、190Eって小さいヤツだけど一応ベンツ
だったから寝たの。ホテルに行って、初めてだったけど、こんなもんか、って
感じだった。竜次って言うんだけど、続いてるわ。結婚も考えてるの。会社も
ツマンナイし。でも会社以外はハッピィよ。寂しい時もあるけど。また手紙ち
ょうだいね。                           早々
       平成五年七月十六日                真由美
チイちゃん


ヤッホォ チイちゃん元気してるぅ。あのねぇ、私、会社辞めちゃった。詰ま
んないもん。いま、竜次が仕事探してくれてる。でも、みんなには内緒よ。親
にもしばらく言わないでおく積もり。でも同窓会には絶対、行くからね。お正
月の三日だったよね。みんな変わったかなぁ。ねぇ今度、写真送って。私も送
るから。またねぇ。
        九月六日                    マユミ


ごめん、同窓会に行かれなくなったの。もう田舎には帰れない。嫌な仕事して
るの。チイちゃんにも言いたくない。竜次が見付けてきたの。アイツ、今じゃ
ヒモよ。だいたい同棲し始めた時から、おかしいとは思ってたの。オバサンみ
たいな人からよく電話があって、アタシのこと妹だって言ってたし。だけど、
アタシ我慢してたの。愛してたから。馬鹿だったのよ。それでも愛してくれて
ると信じてたから。アイツ、アタシと別れるって言い出したの。アタシ、遠い
所へ行く積もり。チイちゃんにも一生、会えないと思う。でも、あたしチイち
ゃんのことも田舎のことも絶対に忘れない。だからチイちゃんも、アタシのこ
とを忘れないでいて。少しだけでもいいから憶えていて。さようなら。
        十二月二十三日                 真由美
チイちゃん


 アタシは最後の手紙を投函して、部屋に戻った。湿けたベッドでは血塗れに
なった竜次が、さっきと同じ顔をして死んでいる。アタシが始めて憎んだ男。
アタシが殺した。コンロのガスを全開にして、フッと火だけ吹き消した。かす
かな音とともに、淡い臭いが広がっていく。テレビをつけた。「ランチどき
日本」と下品な大きな白い文字が画面に広がって、消える。間抜け面を取り繕
った男のアナウンサァがハシャギ回っていた。
「今日は愛媛県中宇和郡松見町から お届します
 どぉです 雲ひとつない日本晴れ
 海と山に挟まれ平地が少ない松見町では
 山の斜面を階段状に削って田んぼを作るんです」
 カメラが巡って段々になった山を写し出す。バックの空が、抜けるように青
い。アタシの頬に、涙が伝った。次から次へと溢れてきた。塊みたいなのが、
胸から込み上げてきた。
 「帰りたい 帰りたいっ」
 立ち上がった。竜次と目が合った、ような気がした。もう、帰れない。アタ
シは悲しくて悔しくて惨めで、ガックリ座り込むと突っ伏した。おえつは声に
ならなかった。絨毯の短い毛を掻きむしって、泣いた。
 暫らくすると眠たくなってきた。もう、どうでもよくなってきた。涙は止ま
っていた。アタシは子猫のように体を丸めてみた。落ち着いた。目を閉じた。
田舎の青空が見えた、ような気がした。
                               (終わり)




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