AWC お題>1対1C つきかげ


        
#5071/5495 長編
★タイトル (CWM     )  00/ 5/22  21:19  (163)
お題>1対1C                                      つきかげ
★内容
「すっげえー、こんなの造ってるんだ。なんだがきっもーい。男の人って判んない
わー。つーか、すっげーぶっきみー」
 おれとナミは、甲賀の家にいた。甲賀の部屋は、戦闘機やら複葉機、プロペラ機
のプラモデルで埋め尽くされている。本棚はコンピュータの専門書に並んで戦闘機
のマニュアルや写真集が置かれていた。
 ナミは甲賀を目の前にしてプラモデルを馬鹿にしてけらけら笑う。甲賀は大人だ
から苦笑しているだけだが、おれはさすがに腹がたってきた。
「なんだよ、ナミそのいいかたは。だいたいおまえデリカシーがなさすぎるぜ。そ
んなことだから二十七になるまで処女だったんだよ」
 ナミの身体が一回転し、左足のかかとがおれの顎めがけて飛んでくる。おれは上
半身をかがめてかろうじて避けた。
「プロレスの神様カールゴッチが唯一認めた打撃技がローリングソバットだって知
ってる?」
「知らねぇよ。だいたい後ろ回し蹴りはソバットじゃない。しかも、そんなことや
ったらおまえ、パンツみえてんじゃん」
「見せてやってんだよ、この飛行機フェチの変態野郎ども」
「いいかげんにしてくれ。本題に入りたいんだが」
 さすがにうんざりしたような声で甲賀が言ったとき、おれたちは素直に頷いた。
 おれたちは甲賀の部屋のパソコンの前に腰を降ろす。ナミが持ってきたFDを差
し込んで、調査結果を説明しだす。
「戦闘機遠隔操作システム通称『GARDA』、そのシステムの開発に携わったも
のは約1000人。そのうち既にシステム開発からはずれたものは400人。その
うち素行不良等の理由によって強制的にはずされた者は12人」
「12人もいたのか」
 甲賀がリストを見ながらうなり声をあげる。
「下請けのさらに下請けのアルバイトの人間まで含んでいるから、あなたが知らな
いのも無理は無いわ。この12人から調査を始めたけど、あたりが一人いたの」
「あたりだって?」
 おれの言葉にナミはにんまりとして応える。
「プルシャ・スークタっていう宗教団体知ってるよね」
 おれは唸った。
「一応インド古代宗教の団体だが、例のロシアンマフィアとの関係をとりざたされ
ているところか」
「そう。そこから出資されているソフトウェアハウスの人間が一人いた。しかも、
かなり優秀なエンジニアがそこから参加してる」
「やばそうだな」
 ナミは頷く。
「ロシアンマフィア経由で旧ソビエトの諜報関連テロリストがけっこう日本に入り
込んでいるわ。その受入先のひとつとして、プルシャ・スークタは機能している」
「じゃあゼロも」
「ソビエト空軍の元パイロットがプルシャ・スークタの持つ密入国ルートで潜入し
ているわ。今その消息を探ってるとこだけど、ゼロはまずまちがいなくそいつよ」
 ソビエト空軍のパイロットだったとは。おれは唸った。
「プルシャ・スークタは武器や麻薬の密輸入といたったなりふり構わない方法で利
益を叩き出している。そのせいで暴力団とのいさかいもあったけど、元ソビエトの
テロリストたちが圧倒的な戦闘力にものをいわせて黙らせている。今、公安がマー
クしているけど、多分もうすぐ最終的な動きがあるわ」
「最終的だって?」
「プルシャ・スークタの強制捜索ね。そのためにプルシャ・スークタ側も最後の勝
負にうってでようとしている。ミーシャウィルスって知ってる?」
「確か、旧ソビエトで開発された細菌兵器のレトロウィルスでインフルエンザなみ
の感染力とエボラウィルスなみの殺傷力を持つとか」
「そう。風邪のように空気感染しながら人間の肉体をぼろぼろに腐敗させ破壊する
という凄まじいウィルス。ソビエト崩壊のどさくさで失われたはずだけど、それが
日本にもちこまれたという噂がある」
「まさかGARDAシステムを使って戦闘機を盗み出してそいつにミーシャウィル
スを積んで都市に対してテロルを行うという気か?そりゃあ無理だろう」
「なぜ?」
「戦闘機をまず盗まないといけない。自衛隊の基地を襲う?米軍基地を襲う?そん
な無茶な」
「基地を襲う必要は全くないわ」
「なんでだよ」
「ナミさんの言うとおりだ」
 甲賀が口を挟む。
「GARDAシステムはもうすぐ自衛隊の全機に標準装備される。システムさえ乗
っ取れば、戦闘機を手に入れるのは簡単だ」
「馬鹿な、セキュリティを一度破られているんだぜ。それでも標準装備かよ」
「セキュリティシステムは全面入れ替えを行って強化している。GARDAシステ
ムには既に900億以上の予算が投入されている。今更止められない」
「セキュリティの全面入れ替えでゼロの侵入を防げると思う?」
 ナミの言葉に甲賀は首を振る。
「判らない。理論的には不可能だが、それはこの前も同じだ。多分今いるスタッフ
の中にプルシャ・スークタの人間がいるのだろう。そいつを見つけるのは不可能だ」
「なぜ」
「時間が足りない。GARDAシステムは来週から実戦配備だ」
「でも私はスタッフに内通者がいるとは思わないわ」
「なぜだ」
「今の時点で内通者を残すというのはリスクが高いもの」
「おれも同感だな」
 おれはナミと甲賀の会話に口を挟む。
「ゼロはおれとMAYAとの対戦に乱入した。部外者を使っての試験が公式記録に
残らないと踏んでの行為だろうが、そうすることによってセキュリティが強化され
るのはやつらの計算のうちだろう。つまりやつらはセキュリティが強化されるのを
認めた上でGARDAシステムにアクセスしなければならない理由があったという
ことと、たとえセキュリティが強化されても計画に支障をきたさない確信があった
ということだろう。つまり、おれの推測ではシステムの根幹部、オペレーティング
システムに関わるところで何らかの外部アクセス手段を確保している。この間のゼ
ロの乱入はそのテストだったということだ」
「OSっていってもUNIXでしょ」
 ナミの言葉に甲賀は首を振る。
「特注品だよ、GARDAのOSは」
「ゼロの侵入を防ぐには、システムの全面入れ替えが確実な手段だよ」
 おれの言葉に甲賀が目を剥いた。
「そんなことをするのに何億かかると思う?状況証拠だけでは誰も動かせない。O
Sの改竄箇所の特定なんざ到底無理だ、おまえの話のうらをとるのは凄く難しいぞ
鷹見」
 おれは頷く。ナミが立ち上がった。
「なんだよ、急に」
「とりあえず、ゼロの侵入は防げないという事が判ったら充分よ。これから家に戻
っていくつかケースを想定してシミュレーションするわ。対策を含めてね」
「今、夜中の1時だぜ。おまえさあ、たまには睡眠とってんの?」
 ナミはウィンクをおれに投げる。
「女はねぇ、男の十倍くらいはタフなのよ」

 その日は酷い雨だった。ずぶぬれにつたMAYAが走ってくる。おれはランドロ
ーバーディスカバリーの助手席のドアを開けた。MAYAが入ってくる。
「これがおまえの車なの、しぶいじゃない」
 おれはMAYAにタオルを渡すと無言のまま、車を発進させる。
「それにしても学校まできて呼び出すなんて、驚いたよ。一体何があったのか説明
してくれるんでしょう?」
「人類を救うため戦ってほしい、といったらどうする?」
 MAYAは苦笑した。
「本気なわけ?」
「80%くらいは」
 MAYAはため息をつく。
「この間のゼロの件が関係しているの?」
「まあそうだ」
 雨の中、おれは車を高速に乗せると、全速でとばす。
「ゼロは宗教団体プルシャ・スークタに関係している。プルシャ・スークタはこの
間おまえとゼロが対戦したあのシステム、通称GARDAシステムを使ってF15
を一機手中に納めた。経緯をいえば太平洋上で行方不明になったF15が、一機あ
ったことを知ってるだろう」
 MAYAは、冷笑を浮かべているようだ。
「ニュースで見たよ」
「それだ。まだメディアには、正確な情報は流されていない。プルシャ・スークタ
はタンカーを改造した疑似航空母艦を持っている。船籍はロシア。現在は太平洋の
領域外を航行中。F15はそこにあった。今朝までね」
「今朝まで?」
「1時間ほど前プルシャ・スークタと思われる組織から日本政府へ声明があった。
ミーシャウィルスを積んだF15が太平洋上日本に向かっていると」
「ミーシャウィルス?」
「インフルエンザ並の感染力を持つエボラウィルスだと思ってくれればいい。10
00万ドルをプルシャ・スークタは要求している。米ドルだよもちろん」
 MAYAは苦笑した。
「そのF15を自衛隊が撃ち落とせばいいのでしょう。簡単じゃない。私の行く理
由が判らないな」
「自衛隊機が接近してくれば、手近な島へウィルスを積んだミサイルを打ち込むと
いっている。その島民は全身が腐敗して死ぬことになる」
「じゃ私が行ってもおなじだな。1000万ドル支払うことだね」
「おそらくゼロがそのF15をコントロールしているはずだ。ナミがゼロを押さえ
るために公安と機動隊を動かしているが、時間が足りない。というかリスクが高い。
やつがソビエト空軍を除籍された理由は、精神分裂病と診断されたためだ。ソビエ
トの精神科医の診断の信憑性に疑いはあるが、やつはまともじゃない。プルシャ・
スークタにコントロールされているとは信じられない」
 MAYAは肩を竦める。
「いっとくけど私は一介の女子高生だよ」
「もちろん」
 雨の中、おれのディスカバリィは凄まじい速度で走っている。パトカーの先導を
頼むべきだったかなと少し後悔していた。
「いやならいい。今なら戻れる。引き受ける理由は何もないはずだ。時間が少ない。
決断するなら早くしてくれ」
「行くよ」
 MAYAは穏やかな笑みを見せた。
「私は生まれてからこのかた、誰からも必要とされていないと思っていたよ」
「馬鹿いえ」
 おれはMAYAに笑いかける。
「これはリベンジのチャンスだよ。おまえが、世界に対する」
 MAYAは不思議そうにおれを見る。
「行くなら勝て。そして世界を自分の足下に跪かせろ」
「当然だね」
 MAYAは初めて楽しそうな笑みを浮かべた。






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