AWC お題>1対1A つきかげ


        
#5069/5495 長編
★タイトル (CWM     )  00/ 5/22  21:18  (199)
お題>1対1A                                      つきかげ
★内容
 おれは苦笑する。議論はループしているようだ。感情的になっているのはMAY
A以外の連中らしい。MAYA自身はあきれるばかりに毅然としている。まあ、そ
れがかえって反感をかってるようだが。
「のけよ、ナミ」
「ちょっと、何するのよ」
 おれはナミを立たせると、MACの前に座る。キーボードを引き寄せた。
「ちょっと、まさか私のアカウントでログインしたまま書き込むつもり?やめてよ、
入り直しなさい」
「まあ、気にするなよ。IPアドレスチェックするやつはいないはずだ、このメン
バなら」
 おれは、チャットに参加することにする。

シデン >よお、MAYA。おまえの味方はどこにいるんだ?

 ナミが吹き出す。
「なにこのシデン、て恭平のハンドル?だっさいの」
「うるせえ」

れんふる>シデンさん今晩は。
シデン >どうも、れんふるさん。ちよっとMAYAと話をしたい。おじゃまさせ
     てもらうよ。
MAYA>なんだよ、シデン。おまえと話なんかないぞ。
シデン >おいおい、いきなりそれか?普通は初めましてだろ。
MAYA>ふん。どうせおまえも今日コテンパにやられて悔しいとかくだらないこ
     とほざきにきたんだろ。
シデン >負けたのは認めるけどな。おまえだって今日は何度かやばいなってとこ
     ろはあったろうが。
MAYA>ぜんぜん楽勝だったよ。だいたい女づれでくるから負けるんだよ。

 おれの後ろでナミがカルヴァドスを吹き出してむせ返った。おれは苦笑する。

シデン >おまえもあそこにいた訳?見てたの?
MAYA>ああ。だいたい、女の趣味が悪いぞおまえ。紅いシャネルのスーツ着て
     ゲーセン来る女なんて最低だね。

「ばりむかつく、こいつ。ネットで私を馬鹿にしたぁ!」
 おれはふくれるナミを宥めながらチャットを続ける。

シデン >おまえって結構面白いやつだなぁ、MAYA。
MAYA>何が言いたいんだよ。
シデン >そう構えるなよ。おれは単純に思ったことを言ってるだけだから。なあ、
     一度会わないか、おれと。
MAYA>なんでだよ。
シデン >おまえはさあ、おれを知っていて、おれはおまえを知らないってのはフ
     ェアじゃないだろ。
シデン >ついでに言っとくが、おれが趣味の悪い女をつれてゲーセンへ行ったと
     かネットで言うのはルール違反じゃないのか?
MAYA>フェアもくそも、おまえ自分のサイトに自分の写真貼り付けてるじゃな
     い。そもそも、私の言ったことも事実と認める必要は無かったはずだよ。
シデン >でも認めちゃったし。
シデン >とにかく、おれの管理しているサイトの掲示板のほうへこい。そこなら
     邪魔も入らないしな。

「なんでおまえも来るんだよ、ナミ」
 一週間後、おれとMAYAは会うことになったが、待ち合わせ場所にはナミがし
っかり来ていた。ナミは馬鹿にされたシャネルのスーツを着ている。
「え、なんか面白そうなやつじゃん、MAYAって」
「また噛みつかれるぞ」
「ま、いいから。パソコン少年をお姉さまが調教してやるわさ」
「おっさんだと思うよ」
「おっさんは得意よ。むしろ」
 おれはため息をつく。そこは待ち合わせ場所として有名な駅前の某所である。週
末はいろんな人間であふれかえるその場所をぼんやり眺めた。
 おれはなぜか胸が高鳴るのを感じる。奇妙な高揚感といっていいだろうか。おれ
は苦笑する。まるで初恋の相手に久しぶりに会うみたいじゃないか、これじゃあ。
「何緊張してんのよ」
 ナミがせせら笑ってつっこんでくる。おれはピータースターブザンドをくわえた。
珍しく自分で自分の感情をコントロールできていない。
「うるせえ。黙っててくれよ。おれはいまナーバスな気分…」
 ふとおれは目の前に一人の少女が立っているのに気がついた。有名私立高校の制
服を着て髪の毛をショートカットにした少女。顔立ちは整っているが痩せているの
で女性らしい魅力を感じさせない。まるでシンディ・シャーマンの写真にでてくる
人物のように、孤独さを身に纏っている。
「まさか、あんたが」
「会いたいというから来たんだ」
 少女は突っ慳貪に言った。
「気にいらないなら帰る」
「いやまて、まてよ。MAYAなんだろ」
「そうだ」
「いや、ちょっと意表をつかれた」
 ナミがくすくす笑う。
「そうだと思ったわ」
 おれはナミを睨む。
「後出しじゃんけんはずるいだろうが」
「まあね。私もいてもいいよね、趣味悪い女だけど」
「好きにしたら」
 MAYAはそっけなく言った。おれはどういう言葉をかけていいか、迷った。何
しろ十代の女の子と会うこと自体、久しぶりな気がする。
「とりあえず自己紹介しとこうか」
「知ってるよ、自分のサイトに書いてるじゃないか。鷹見恭平27歳。航空評論家
で元自衛隊パイロット」
「いや、そうなんだけどな」
「だいたいなんで、夜なのにサングラスしているの。見えにくいじゃない」
「いやこれは」
 おれはサングラスを外す。義眼の右目と傷跡が顕わになる。
「なんとなく初対面の人間には素顔を出しにくいんだよ」
 MAYAが息を呑むのが判った。くるっと振り返るとおれの前から立ち去ってゆ
く。
「おいおい」
 おれは慌ててMAYAを捕まえる。
「なんだよ、折角会ったのに」
 MAYAは小さな声で何かいった。
「なんだよ、どうした」
「悪かったよ、サングラスはずさせて」
「気にすんなよ、そんなことでいちいち逃げなくていいじゃねえか。えーっとなあ、
とりあえず飲みにいこうと思ってたけど制服姿じゃまずいしな」
「いいんじゃない、あそこで」
 ナミが駅前のファーストフードの店を指さす。
「私は構わないが」
 MAYAが同意する。おれは少し肩を竦めた。
「じゃいこうか」

 店の中は10代の子供ばかりだった。おれとしてはとても居心地が悪い。しかし、
それは目の前のMAYAも同じようだ。多分、MAYAはどこにいてもこんなふう
に居心地悪そうに孤独な瞳で、それでいて毅然とした表情であたりを見てるんだろ
う。そんな気がした。
 一方ナミは、MAYAと対照的である。深紅のシャネルで武装し傲岸とした態度
で高く足を組んだナミは、自分の縄張りにいる猫のようにリラックスしていた。
「私も自己紹介しとくね」
 ナミはMAYAに微笑みかける。
「横山ナミ、24歳。職業は公務員」
「つーか、内閣調査室の対テロ部門の室長だろ。だいたい歳はおれとためだろうが」
 ナミはおれの顔面へ裏拳をとばす。おれはあやうくスウェイでかわした。
「なんでそんなこというかな」
「いいじゃねえか、気にするなって。MAYA、おまえはどうすんの。いやなら本
名言わなくていいよ」
「御子柴摩耶。17歳。高校生。これでいいか」
「うーん、なんていうかさあ、おまえが始めてだぜ、ネットで知り合ってオフで会
った時にネット以上にもどかしい感じがするやつって。もっとこう心を開いてみろ
よ」
 ナミはせせら笑った。
「馬鹿じゃないの、恭平」
「なんだよ」
「そんないきなり心開けって、むつごろうの動物王国じゃないんだし。とりあえず、
楽しく会話するうちに、和んでゆくものでしょうが」
「まあ、そうだろうけど」
 いざ、話をしようとすると十代の少女相手に言葉がつまる。
「質問ごっこしようか」
「なんだよ、それは」
 MAYAはそっけなく聞きかえす。
「おれが質問したら、あんたも質問しかえせるというの」
「ふーん」
 MAYAは光る目でおれを見る。多少興味を持ったようだ。
「じゃ質問どうぞ」
「なぜランキングに登録しない?したらぶっちぎりで一位だろうに」
「ランクづけされるのは学校だけで充分だから。だいたいそれはお互い様だろ?」
「まあな」
「じゃこっちの質問のばん。シデンてのは大昔のアニメからとった訳?」
「なんだそりゃ。シデンといったら四式戦に決まってるだろうが」
「ああ、飛行機の名前だったのね」
 MAYAは始めて少し笑みを見せた。
「んじゃ次の質問な。なぜF4ファントムを使う。難易度DクラスやCクラスなら
機体はそれほど関係ないだろうが、Bクラス以上は性能のいい機体のほうが有利だ
ろう。まあ、F4ならなんとかならんこともないだろうが、もっと楽に戦える機体
があるだろ。せめてF4EJとか。思い入れでもあるわけ?」
「負けたやつからすれば、自分よりスペックの低い機体に負けたほうが悔しいだろ」
 おれは苦笑する。
「やなやつだね、やっぱりおまえは」
「あんただって、F14使ってるじゃない。F14も最新鋭では無いでしょう」
「いいんだよ、F14はいざとなればロボットに変形するから」
 ナミが吹き出した。MAYAはきょとんとした顔になる。
「何の話?」
「いいから次の質問いけよ」
 ナミが笑いながら口出しする。
「この人F15が嫌いなのよ。F15に乗ってておっこちたから」
「それは、悪かったな」
「いちいち謝るなよ、MAYA。ナミ、おまえも余計な口出しすんなよ」
「じゃ、質問するよ。生きていてさ、楽しいと思う?」
「なんだそりゃ、楽しいよ」
「飛行機に乗れなくても?」
「関係ないってそんなの。おまえは楽しくないのか?MAYA」
「ああ」
 MAYAは当たり前のように言った。
「楽しいことなんて何もないね」
「おまえくらいの年頃っていえば普通こう、学校の友達といっしょに遊んだり語り
合ったり恋愛したりいろいろあるだろうが」
 MAYAは喉の奥で笑った。
「こないだのチャットみただろう」
「ああ」
「学校もあんな感じだよ、私にとって」
「困ったやつだな、おまえ」
「そうだな」
 MAYAは不思議な笑みを見せる。
「困っている」
「だったらさ、なんとかすんだよ、そんなの」
「ただな」
 MAYAは少しはにかんだような笑顔で言った。
「シデン、おまえと戦っている時だけは少し生きてるって感じがするんだ」
「おまえな、おまえ。そのシデンというのを面と向かって言うのやめてくれるか。
頼むから。オフの時は恭平なんだよ、おれは」
 MAYAはくすくす笑う。
「おまえって結構面白いね。恭平」
「いや、おれはおまえのほうが面白いとおもうぞ。時間はまだいいのか。両親が心
配するとか?」
「うちの親は、離婚の裁判中だから子供のことには無関心なんだ」
「やれやれだな。ま、いい。じゃこれから遊びにいこうぜ」
「どこへ?」
「ついてくりゃ判るよ」





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