AWC 『解釈の悪魔(下)』 …… PAPAZ


        
#4614/5495 長編
★タイトル (KSM     )  98/10/ 2   0:19  ( 87)
『解釈の悪魔(下)』 …… PAPAZ
★内容


 一面に日の光が射す。外界への扉が開いたのだ。私は娘と外へ通じる廊下を歩いた。
ドアからでると、一瞬、眼を細めた。娘と視線を交わしてから、胸一杯に空気を吸い
込んだ。自然が繁殖している。高台のこの地から見渡す限り樹木が茂り、花が咲き乱
れている。天空を鳥が舞い、蝶が艶やかに踊っている。
「この場所に、あなたが暮らしていたアパートが存在していた、といっても信じられ
ないでしょうなあ」
「冗談だろう。痕跡もない」
 彼は声を出して笑った。
「ことの起こりは西側で開発した遺伝子爆弾でした。増加した愚劣な人間を淘汰し、
優秀な人類を残す、それが大義名分だったようです。遺伝子爆弾とは、ウイルスによ
って人間の中に潜在している自殺遺伝子と殺戮遺伝子を活性化するものです。自身が
殺されることを嫌った優秀な人間は地下のシェルターに逃げ込んだわけです。それで
自分は無事だと考えていたのですね。
 しかし自殺願望は使われるはずのない兵器を使用させてしまった。それが東側のグ
ループが開発した異常スライム(表層岩石従属栄養微生物生態系)だったのです。異
常スライムは地球上及び地下の人工物を分解しました。すべての科学文明を消去する
ために造られた微生物なのですから、それは当然のこと。すべて消えてしまえば、文
明の再建など簡単にできるわけがない。自殺願望でもなければ試せませんな。
 面白いことに、両方ともプロジェクト・エデンと呼ばれていました。確かにエデン
を作りあげたのかもしれません。人が消えた代わりに、自然が謳歌しているのですか
ら。そのエデンから異常スライムも遺伝子爆弾も消えて久しい、と最後にそれだけは
伝えておきます」
 背後にいたはずの彼の気配が消えた。振り返ってみると屋敷も見あたらなくなって
いた。
「おい!」
 名前を呼ぼうとして、彼の名前を知らないことに気がついた。
 返事は返らない。羽ばたく音が耳に届けられるが、姿は見あたらなかった。
「お父さん……」
 娘はより強い力で私の腕を抱いた。長い髪が甲に触れる。
 娘は一度、死んだ。妻は死人には届かない願いを口にした。私の願いは聞き届けら
れ、いま娘は生きている。
 生きている、私も娘も、そして妻も私の中で生きている。コインから感じ取った愛
情という波紋は未だに胸を熱くさせる。
「お父さん!」
 娘の不安が顔にでていた。
「大丈夫だよ。エイズウイルスだって耐性の持つ人間が存在しているんだ。遺伝子爆
弾の影響を受けなかった人間だって存在しているはずだ」
「……」
 存在しているとして、それは何人だろうか。たとえ生存していようとも、文明の足
なしで出会うとは考えられない。自動車どころか電話も、テレビもないのだ。
 願い事をしようとも、それを叶えられる彼は去った。
 彼が翼で去ったように、私にも想像という名の翼がある。
 神は一人であることに耐えられなくなり、似姿として人間を創造したのではない
か? 私は、そうきっと私も耐えられなくなる日がやってくるだろう。そのとき、私
は娘を抱くだろう。人類のいない世界にタブーはないのだから。
「お父さん?」
 沈黙した私を見て、娘が問いかける。心配げな表情が愛おしい。
「大丈夫だよ」他に言葉が思いつかなかった。

 -- 了 --


「あとがきにかえて」

 主人公が選択した赤いボタンは向かって左側に位置していました。
 なぜ左なのか?
 別に理由はありません。ただ頭に浮かんだイメージがそうだったというだけのこと
です。
 しかし、私は宝くじを買うときは、並べられたチケットの中から左側にあるものを
選ぼうと思いました。
 共時性が起きる。意味のある偶然として、左側の宝くじが当たるはずだ、そう判断
したわけです。何かいいことが起きる、と虫の知らせがあり、本当にそれが実現する
ような感覚が自分の内に存在したのです。
 娘と妻を連れ立って、宝くじを売ってるボックスに行きました。
 先客はカップルが一組です。仕方なく、選び終わるのを後ろで待ちました。
 妻が私の背に触れ、
「そういえば、今朝、宝くじが当たる夢を見た……」
 期待は高まります。インスタント宝くじの一等は100万円です。
 頭の中ではお札が私とチークダンスを踊ってます。
 さあ、私の順番がやってきました。
「はい」
 といって売り子がチケットを4組展示しました。
 この時点で、「アレ?」という想いが私を支配しました。
 作中では選択するボタンは3組です。だから宝くじも3組展示されるだろうと思い
こんでいたのです。しかし、ここは初志貫徹、私は左側のチケットを選択しました。
10枚ワンセットで二千円です。
 結果は8等の1万円が一つ、7等の千円が二つ、スマイルの百円が二つでした。娘
は「私が千円、パパ千円、ママに一万円!」と言い張りましたが、結局、私が選んだ
と理由で一万円いただきました。おかげで一太郎9を買うことができました。
 この時点では、正解は左側の「赤」という構想だったのですが、書き上がってみる
と、正解は中央の黄色へと変化していました。
 あのとき、もし真ん中の二組を選んでいたら……100万円ゲットできたのでしょ
うか?






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