AWC 愛美、5パーセント(7)       悠歩


        
#4468/5495 長編
★タイトル (RAD     )  98/ 4/ 3  23:56  ( 74)
愛美、5パーセント(7)       悠歩
★内容



「ごめんなさい、遅くなっちゃって。あら………」
 居間に入った雪乃叔母さんは、驚いたような顔をして言葉を途中で止めた。
「あ、お帰りなさい。雪乃叔母さん」
 台所に立っていた愛美は、笑顔で振り返って叔母さんを迎える。
「ああ、お帰り。雪乃さん」
 愛美と並んでいたお婆さんも、笑っている。
「どうしたの、愛美ちゃん?」
 きょとんとした叔母さんの顔がおかしくて、愛美はまた笑ってしまう。
「どうしたのって、お夕飯のお手伝いしてたんですけど。私、何かヘンですか?
」
「え、ううん………何でもないわ。ごめんなさいね、いつも愛美ちゃんに、ご
飯の支度をさせてしまって。私もすぐ手伝うわ」
「そんな、気にしないで下さい。もうすぐ出来ますから、叔母さんは休んでて。
そろそろおじさんも帰って来る頃ですし」
「そ、そう………じゃあお願いするわね。私、着替えてくるから」
 しばらくは戸惑ったようにしていた叔母さんも、嬉しそうに微笑むと、着替
えのために部屋を出て行った。
 叔母さんが驚くのも無理はなかった。この家に来てから、愛美が食事の支度
をするのは、何も今日が初めてではない。けれどそれは他に家の中に所在を見
つけられない愛美が、義務のように感じてのこと。家の人たちに気を遣ってい
た愛美が、誰かと一緒に並んで食事を作るのは初めてのことだった。当然手伝
いをすることでなんとか存在理由をつけていた愛美が、笑顔を見せたのも初め
てだったはずだ。



 まだ叔母さんや家の人たちを家族と呼ぶには抵抗がある。それは死んでしま
った父母を忘れてしまうことにも等しく思えた。けれど「他人の家で厄介にな
っている余所の子」という、いじけた感覚が少し和らいだような気がする。
 自分が少し変わるだけで、笑って見せるだけで、周りがこんなにも変わるも
のだと初めて知った。
 ようやく他人ではなくなり掛けたと思える食事を終え、入浴を済ませた愛美
は自室に戻って机に向かっていた。
 机の横に置いていた、パーパーボックスを手に取る。可愛い子犬と子猫のイ
ラストが描かれた小さな箱は、愛美が前の街を離れるときに友だちから貰った
もの。中にはぎっしりと、その子が焼いたクッキーが入っていた。とうに空に
なった箱だったが、大切な思い出としていまも取っておいたものだ。
「私も、クッキーを焼いてみようかな」
 叔母さんに聞けば、教えて貰えるだろうか。
 それとも本屋さんに行って、本を探して来た方がいいだろうか。
「でも………」
 せっかく焼いても、誰か食べてくれる人がいなければつまらない。そうだ、
次の日曜日に早苗先生の所に行こう。あの時のお礼に、クッキーを持って行こ
う。早苗先生と黒丸に食べて貰おう。もし健太が来ていたら、仕方ないので彼
にもあげよう。
「たくさん焼かなければ、いけないかもね」
 愛美は自分の顔が綻んでいることに気がつかない。
「あ、それから忘れないうちに!」
 手にした箱を元の位置に戻し、引き出しを開けた。そこから取り出したのは
イラスト入りの便せん。
 クッキーをくれたあの友だち、純子に手紙を書こうと言うのだ。
 今度こそ嘘ではなく、本当のことを伝えるために。
 先日彼女に送った手紙には嘘を書いてしまったため、貰った返事に感じてい
た心苦しさを打ち消そう。
 紙の箱の下になった一冊の推理小説。それはまだ、当分読まれることはなさ
そうだ。



 純子ちゃん、お元気ですか?
 私はとっても元気です。


          『愛美、5パーセント』終わり

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 作者注:ダルメシアン
     実は作中登場した犬、黒丸はダルメシアンではない。
     イメージによる愛美の勘違いと思われる。






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