#4404/5495 長編
★タイトル (RAD ) 98/ 2/10 22: 3 (192)
翼をその手に 〜夢の始まり〜 1 悠歩
★内容
傾きかけた陽が、山々の尾根を紅く染めていく。
ねぐらへと戻る鳥たちが、群れをなして飛んでいく。
夜の空の主役となる二つの月が、太陽が沈みきるのを待ちきれず朧気な光を放
ち始めている。
緩やかな丘を駆け下りる風は、夏の濃い緑に変わったばかりの草を波立たせる。
その丘の上に、夕日を受け長いシルエットを刻む青年の姿があった。
青年は心地よい風に黒髪を靡かせながら、夕暮れ時の光景に魅入っていた。
しばらくして青年は屈み込み、足下の草をむしり取る。そして身体を起こすと、
手にした草をそっと空に投げる。
草は風に乗り、高く舞い上がった。
「風も良好。あとは、お前次第だ」
まるで親しい友人を相手にするかのように、青年はその傍らに無骨な巨体をさ
らす乗り物へ愛しそうに語りかける。
乗り物………それが何のための乗り物か分かるのは、まだこの世界でそれを作
った青年ただ一人だろう。四枚の羽ばたかぬ大きな翼を持つ、その乗り物。
人を乗せ、自在に空を飛ぶためのもの。
およそまだ誰も成し得なかった、いや、考えもしなかった乗り物がいま、初め
て人類の歴史に今度こそ、その存在を示すのだ。
「だいじょぶ、だいじょうぶ、絶対上手くいく」
高まる緊張を抑えようと、青年は自分自身に言い聞かせる。
日時と場所と、綿密に計算した上で選んだのだ。今日、この時刻、この場所。
最も重力の枷が緩む条件が揃う。風も理想的。
これで飛ばぬはずはない。
むき出しの運転席に乗り込み、青年は大きく息を吐く。
「エンジン、始動」
手前のスイッチを引く。暫しの間を置いた後、だだだとエンジンが動き始め運
転席が激しく振動する。
「思ったより、揺れが………もとは、古いトラックのエンジンじゃ、仕方ないか。
つっう」
舌を噛んだので、それ以上喋るのをやめた。
先程とは別のスイッチを入れると、青年を乗せた巨体はゆっくりと前に進み始
める。そして緩やかな丘を、下りていく。
初めはゆっくり、徐々に加速がつき、青年は強い風を顔面に受ける。
目が乾く。ゴミや小さな虫が飛び込んできて、まともに開いていられない。
(やっぱり、ゴーグル欲しいな)
青年は思う。しかし、ない物は仕方ない。いまここで、エンジンを止める訳に
は行かない。目を細め操縦管を握りしめる。
早くなった速度のためか、それとも風のせいか。巨体の振動は激しさを増す。
震える青年の手が足下から伸びるレバーに添えられた。
「よし、いけっ!」
心の中で叫び、強くレバーを引き倒す。
くん。
巨体の先が上を向く。
「やった! 飛ん………」
飛んだ。青年は歓声を上げ掛けた、だが。
どん。
「えっ?」
浮き掛けた巨体の先端が、激しく地面を打ち据える。その反動で、今度は後部
が浮き上がってしまう。
「しまった」
青年は失敗を悟る。しかしもう遅い。
直接鼓膜へと響く軋みを立て、そのまま巨体は「く」の字に折れ曲がる。青年
の乗ったすぐ後ろから二つに分離してしまう。
その、後部部分が、青年の頭上を掠め前部を追い越して行く。バランスを崩し
た前部は横回転、スピンをしながら坂を落ちていく。坂の終点は村の潅漑用の池。
先に行った後部が激しい水音と飛沫を上げる。青年は力一杯ブレーキを引くが、
予定外の横回転には効果がない。いや、ブレーキ自体が衝撃で死んでいるようだ。
すかすかの感触しか伝わって来ない。
水没した片割れを追うようにして、青年の乗った前部も池の中に落ちた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ 大 地 は 人 の た め に ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ 海 は 魚 た ち の た め に ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ 空 は 鳥 た ち の た め に ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ そ れ ぞ れ 神 が ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ 与 え 給 も う た と 言 う ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ で も ぼ く は 納 得 で き な か っ た ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ か つ て 魚 た ち に 与 え ら れ た 海 に ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ 船 を 出 し て 挑 ん だ 人 の よ う に ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ ぼ く は 空 を 目 指 し た ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■ ■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ 『 翼 を そ の 手 に 』 ∴■■■
■■■∴ -Create the WING for us!- ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ 【 夢 の 始 ま り 】 ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ 悠 歩 ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ 原 案 :永 山 智 也 ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴ ∴■■■
■■■∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「ちょっとフィリオ。なによ、その恰好!」
「うおうっ!」
俯き加減で歩いていたフィリオは、突然掛けられた声に、飛び上がらんばかり
に驚いてしまった。大きな声と共に、身体を仰け反らす。それが逆に、相手の方
を驚かせてしまったらしい。
「きゃっ」
フィリオに声を掛けた少女も悲鳴を上げて、半歩後ずさりする。
「な、なによ。驚かせないでちょうだい」
改めてフィリオは、腕を組んでむっとした表情をする相手の顔を見つめた。長
い金髪の少女が、宝石のような青い瞳でこちらを睨み付けている。
酷く怒っているようだったが、まだ幼さの残る顔立ちをいくらしかめてみたと
ころで、恐くはない。むしろ滑稽に感じられてしまう。
「ぷっ」
思わずフィリオは、吹き出してしまった。
「なにがおかしいのよ」
ぷう、と頬を膨らませて少女は更に怒りの色を強くするが、フィリオにはそれ
がますますおかしい。とうとうフィリオは大声で笑い出してしまう。
「ははは、ごめんごめん。アリスの怒った顔が、あまりにも子どもっぽくてさ。
ははは、いつもの澄まし顔とのギャップが………」
無理矢理抑えようとするが、その甲斐なく、笑いが漏れてしまう。
「失礼ね! 誰のせいで怒ってると思ってるのよ。だいたい、フィリオの方こそ
人を笑えるような恰好をしていないわ」
アリスと呼ばれた少女は呆れたように言った。
無理もない。全身ずぶ濡れ、水を滴らせて歩いていたフィリオを見て、不審に
思わない者はいないだろう。
「いやあ、今日は暑くてさあ。ちょっと水浴びを………くしょん!」
わざとらしい言い訳の最中、フィリオはくしゃみをしてしまう。
「ふーん、暑かったですって? 私には夕方になって、ずいぶん涼しくなったと
感じられたけれど。じゃあ、フィリオが震えているように見えるのは、私の気の
せいかしら」
回りくどい言い方をする、とフィリオは思う。
「いいだろう、ぼくの勝手なんだから」
そう言って、フィリオは早々にアリスの前から立ち去ろうとした。幼なじみの
少女は、フィリオより一つ歳下なのに、何かにつけて小姑のようにうるさい。子
どもの頃からフィリオのすることに、いちいち文句をつけてくる。
以前は当たり前のことと感じていたフィリオだが、十七歳の青年となった最近
では、それが嫌になってきていた。
アリスのことが嫌いになった訳ではない。ただ、歳下の少女にまるで自分が弟
のように扱われるのが、我慢ならなくなっていた。
「もう、待ちなさいよ」
横を通り過ぎようとしたフィリオの腕が、アリスに掴まれた。
じゅ、という音と共に水が染みだす。
「早く着替えないと、風邪をひいちゃうわ」
「分かってるよ。だから急いで帰ろうとしているんだろ」
「私の家の方が、近いわ」
「えっ?」
聞き返したフィリオは、その答えを得られないうちにアリスによって、半ば強
制的にひきずられて行くことになった。