#4381/5495 長編
★タイトル (GVJ ) 98/ 1/28 20:58 (200)
銀の砂漠の盗賊(10) 赤木 錠
★内容
気がついたとき、半身が空中にとびだしていた。
「わっ」
叫び、マヤはとっさに目についたバーへと手をのばす。
機体側面、出入扉わきに設置された手すりだった。
ぐん、と肩口に衝撃がはしる。
かろうじて、落下をまぬかれた。
が、パイロットがここぞとばかりに機体にゆさぶりをかけはじめた。
上昇しながら激しくゆれる。
しがみついているのがマヤにはせいいっぱいだった。
もうだめだ――
とマヤが観念しかけたとき――奇跡が到来した。
最初のマヤの攻撃をくらってバール・システムに変調をきたしたガンシップが、
コントロールをうしなって迷走しながら突然、マヤのしがみついた機体の眼前に出
現したのである。
パイロットは回避のためにあわてて機首を横にむけた。
ぎぎぎぎぎぎ、と耳ざわりな異音をたてながら二機のガンシップがその横腹をこ
すりあい、もつれるようにして落下しはじめる。
そのときマヤは、回転のいきおいで再度機内へとほうりこまれていた。目をまわ
しながら必死に手近のシートに手をのばす。
がっきとつかんだ。パイロット・シートのヘッドレストだった。
激しくゆれる機内で首をぶるると左右にふり、どうなっているのかと目をひらい
た。
眼前に、地上が急迫していた。
マヤと操縦士、異口同音に悲鳴をあげた。
そして急激に衝撃がおしよせる。
機体が接地の衝撃で激烈に振動し――ふいにそれが消失した。
見ると、かろうじてといったふうにガンシップは上昇に移行していた。
パイロットの腕の冴えであった。
ななめにかしいだ眼下では、ごごごと盛大な音を立ててもう一機のガンシップが
横腹を砂漠にすりつけるようにして不時着している。
マヤは視線を移動させ――操縦士と一瞬、目があった。
どちらからともなく、安堵の笑いがうかびあがる。
それから、双方同時にはっとして、双方同時に武器に手をやった。
が、マヤは自分の銃を紛失していることに気づく。機外にほうりだされたときに
手放してしまったらしい。
ぎくりとしてパイロットに目をやり、相手もまたおなじような顔つきで自分を見
かえしているのにいき当たった。
内心、おおきく安堵の息をつきながら、マヤはすばやい動作でヘッドレストのう
しろからパイロットの首へと腕をまわし、耳もとへ叫ぶようにしていった。
「うごかないで! このまま、ボクの指示どおりに着陸させるんだ。いうことをき
かないと、首の骨へし折るよ!」
瞬時、操縦士は迷うようにしてからだの動きを凍結させた。
どう見てもマヤが十四、五にしか見えないからだろう。抵抗すべきかどうか考え
ているのだ。
思案のあげく――外見にだまされた。
嘲笑をあげながら操縦士はこぶしをにぎり、バックブローの要領でマヤにたたき
つけようとした。
ふう、と息をつきながらマヤは、くき、と相手の頚動脈をしめた。
こぶしがマヤのこめかみにとどく前に、パイロットは糸が切れたようにがくりと
なった。落ちたのだ。
「もう、めんどうかけるんだから」
泣き言をつぶやきながらマヤはシートのすきまをのりこえ、パイロットをおしの
けて操縦席にすべりこんだ。
どが、と、機首が砂にめりこむところだった。
衝撃に遠ざかる意識をむりやり呼びもどし、バール・システムに全開をかける。
警笛のようなかんだかい音が、耳ざわりにひびきわたった。
蹴ちらされた砂が左右にどどどとふきあがる。
前方に、恐怖に目をむきながら抱きあうラエラとサフィーヤ姫の姿が見えた。
「やばい、はねちゃう!」
悲鳴をあげつつマヤはレバーをいっぱいにひく。
激しい衝撃。
同時に、ほとんど後転するほどのいきおいで機首部分が上昇する。
ウイリーだ。
そしてつぎの瞬間――悲鳴のようにひしりあげていたエンジン音が、ぷつりと断
ち切るようにしてとぎれた。
「げ」
マヤはぽつりと口にする。
間のぬけた空白があった。
そしてつぎの瞬間、壮絶ないきおいでガンシップは、その鼻先をどしゃりと砂上
に落下させていた。
砂塵を吹きあげて沈黙する。
マヤはコクピットに身をちぢめたまま、かたく目をとじていた。
ざざざとまきあげられた砂が落下する音が周囲にひびく。
おそるおそる目をひらき――
機体のすぐわきあたりで、尻もちをついた姿勢のまま砂まみれでにらみかえすラ
エラとサフィーヤ姫の視線にいきあたって、マヤは思わずごまかし笑いをうかべた。
「かかったよ、エンジン」
意気揚々とした叫びとともに、重低音が機体下部でひびきはじめた。
バール・システムが始動するかすかな高音もそれに混じっている。
「だいじょうぶ、とべそうだ」
いってマヤは、愛想笑いをうかべながらふりかえった。
後部兵装オペレータ席で、ラエラの仏頂面がそれをむかえる。
「ああそうかい」つめたい声音が、気がなさそうにいった。「そりゃよかった」
「もう許してよー」
マヤの悲鳴に、せまいシート上、ラエラの腿に腰をのせるようにしておさまった
サフィーヤ姫が思わずくすりと笑いをもらす。ガンシップは複座だったので、三人
がのりこむにはそういうふうに席を割りふるしかなかったのだ。
姫君の笑いにはとりあわず、仏頂面のままラエラはいった。
「いいからとっとと出発だ。レイのいってたこと、おぼえてんだろ? ガンシップ
部隊があとふたつと、そのうしろから本隊がいまでも着々と接近してきてるはずな
んだ」
もううんざりだ、とでもいいたげな口調である。
「わかってるよう」
くちびるをとがらせてマヤはいいながら、操縦レバーをひいた。
エンジン音が一段と力を増し、ふわりとガンシップは浮上した。
とたん、がくがくがくと前後に激しくゆれはじめた。
「ちょ、ちょいと――」
後部シートでふたりが抱きあうのを尻目にマヤは、
「あ、ちょっとバランサーが調子わるいみたい。でも、だいじょうぶ」
いいつつコンソール上のあちこちに手をはしらせる。
あげくのはて、ばんばんばんと機械を手荒にたたきはじめた。
信じられないようにラエラとサフィーヤ姫が顔を見あわせているうち、ようやく
のことで機体が安定した。
「ほーらね」
「ほーらね、じゃないっ」がまんの限界をこえたか、ラエラがついに叫声をあげた。
「たのむから、まともな操縦しとくれ。こちとらあやうく、味方の手にかかってガ
ンシップの下敷きにされかかったんだ。おまけにボルト・ランチャーもそのときに
落として砂んなかにうまっちまうし。この上そう何度も死ぬような目にあわせない
でおくれよ、たのむから」
半分泣きが入っている。
わかってるよう、と、すねたような口ぶりでマヤがこたえた。
サフィーヤ姫がまた、こらえきれずに笑いをもらす。
ラエラはくちびるをとがらせてそんなサフィーヤ姫の笑い顔を見ていたが、やが
てその口端にも苦笑がたまらずもれ落ちた。
「なにがおかしいのさ」
抗議口調でマヤが背中ごしにいうと、こらえきれない、といったふうにふたりは
爆笑した。
もう、と口中でつぶやきながらマヤも笑みをうかべかけ――
コンソール上のモニターのひとつに視線をやって、ぎょっと目をむいた。
「ちょっと、ふたりとも笑ってる場合じゃなさそうだよ。とうとう追いついてきた」
あわててラエラが腰をうかす。
モニター上で、たしかに後続部隊をあらわす輝点が点滅をはじめていた。
高速で接近しつつあるのは、残り二隊、計六機のガンシップだろう。
「追いつかれたら、アウトだ」
ごくりとつばをのみこんで、マヤがいった。
「全速力で逃げるしかないね」
ラエラもつぶやく。
だが、不時着の衝撃のせいかエンジンの調子があがらなかった。
またたくまに、後方に肉眼で視認できる距離にガンシップ部隊が追いついてきた。
さらにその背後からも、色ちがいの追撃隊らしきブリップがモニター上に見るま
に続々と出現しはじめる。
「こまったなあ」
マヤが、とほうにくれたように顔をゆがめる。
「Xポイントは?」
「もうすこしだけど……。ぎりぎりんとこで、追いつかれるって感じ」
ラエラはむつかしい顔でだまりこむ。
こういう場合のマヤの目測はたいていの場合、おどろくほど正確なのだ。
「後続の大部隊が追いついてこないうちに、一戦やらかすしかない、かね」
「勝ち目ないよ。ジルが“ティーズバード”で――」
いいかけてマヤは言葉をとぎらせた。
背後で、ラエラとサフィーヤ姫も目をまるくする。
エンジンが、異様な音を立てはじめたのだ。
まるで稼働部に異物でもまぎれこんででもいるかのような耳ざわりな異音だ。
「まずいなあ」つぶやくようにマヤがいった。「もうすぐ墜落するよ」
「墜落するって、あんた――」
思わず口にしたラエラの抗議がおわらぬうちに、がくがくがくとふたたび機体が、
咳こむようにして前後にゆれはじめた。
「おーい。いいかげんにしとくれよう」
頭を抱えこみながらラエラが泣き言をいった。
ほどもなく、エンジンは完全に不調をあらわにした。
だましだまし飛びつづけたが、どうしようもなくなって、ついに着陸するしかな
くなった。
機体を捨て、三人は砂上を歩きはじめたが、一分とたたぬうちにガンシップ編隊
がまとめて六機、追いついてきた。
パルスレーザーの掃射で、三人の行く手に威嚇射撃をくらわせる。
立ちどまるよりほかにしようがなかった。
武器を捨て、両手をあげて待つ三人の前に、着地したガンシップのなかから各機
につき一人ずつの兵士が、それぞれレーザーガンを手におりてきた。
そのころには、地平線のむこうがわにたちあがった砂塵のなかから、重武装のデ
ザートガレー部隊がはっきりと姿をあらわしていた。
「チェック・メイトだ」
くちびるをとがらせながらマヤがいった。
うんざりしたように、ラエラがこたえる。
「そりゃ、追いつめたほうのセリフだよ」
銀の夜
身におびていたナイフまで奪われた状態でうしろ手にしばりつけられて、ラエラ
とマヤは砂上にひざまずかされた。
その眼前に、十数機のデザートガレーがつぎつぎに降下していく。
膨大な量感のある方形の浮遊戦車が、威嚇するようなエンジン音をひとしきりひ
しりあげて沈黙する。
死角はまったくなかった。
もっとも、寸鉄おびずにひざまずかされた状態のマヤとラエラには、もとより反
撃のすべひとつない。
歯をくいしばったまま、にらみすえるように視線をあげる以外、できることはな
にひとつなかった。
着地したデザートガレーのハッチがつぎつぎにひらき、銃を手にした兵士たちが
わらわらと姿をあらわす。
それらの一団がずらりと整列してマヤとラエラをとりかこんだ。
それを待つようにして――後列まんなかに着地した浮遊戦車のなかから、ふたり
の男がおもむろに姿を見せた。
ひとりは将校らしき金線の入った軍服をきた男――ティギーン将軍である。
そしてもうひとり――
ターバンの額に血のようにあざやかな赤の宝石を飾った、豪奢な装飾のほどこさ
れた貫頭衣(ディスダーシャ)とながいマント(パトウ)をを風になびかせて堂々とした足ど
りで歩みだす大男――エル・エマドでも、有数の強力な宇宙軍をほこるサディレシ
ヤを統治する最高権力者、ザグラール王そのひとであった。
獅子を思わせる精悍な顔つきの王は、砂上にひざまずかされたふたりの女たちを、
見くだすようにながめやる。
「どちらがシャフルードだ?」
静かにきいた。
重く底ひびくような、深い声音だった。
「ジルジスはここにはいないよ」
見おろす王を真正面からにらみあげながら、ラエラがこたえる。
「なるほど。それは残念だ」
王はさして残念でもなさそうにそういった。
それから――
ゆっくりと、視線をめぐらせた。