#4240/5495 長編
★タイトル (NKG ) 97/12/11 23: 5 (169)
絶対、運命……(4/6) らいと・ひる
★内容
今日は土曜日。
帰りにラーメンを食べに行かないかとクラスの奴に誘われたが、そんな気分では
なかった。
遙か向こうの7組の教室をちらりと見て、そのまま下駄箱へと向かった。
何をどうすればいいんだ?
彼女のしあわせを願う?
でも、彼女のしあわせってなんだ?
そんなものは本人にしかわからないし、そんなに簡単に他人に語らないだろう。
ましてや、彼女は心を閉ざしかけていると思う。
それなら、自分自身のしあわせってなんだ?
彼女の笑顔を見守ること?
本当にそれだけでいいのか?
彼女を自分のものにしたいだけじゃないのか?
でも、それは間違っていることなのか?
笑顔を見守ることと、自分のものにすることをイコールで結んだって間違ってな
んかいないはず。
彼女のことを独り占めしたい。そんな気持ちは間違っているだろうか?
考え事をしていたせいで、肩が誰かにぶつかる。
「おい!」
ふと見ると、そこには宇佐見先輩が立っていた。
隣には不安そうな顔をした宮内籐子が。
「どこ見てるんだよ」
いきなり拳がみぞおちに直撃。一瞬、呼吸ができなくなる。
「籐子にちょっかい出すのはやめろ! 俺が気づいてないと思っているのか? お
まえがこいつとちょくちょく会っているのを」
床に崩れ落ち、痛みにもがいている僕に向かって、先輩はさらに蹴りを入れてく
る。
脇腹に鈍痛が走る。
ここで助けを求めるような視線を彼女に向けるわけにはいかない。それは、彼女
にも迷惑がかかるだろうし、何より自分自身のプライドが許さなかった。
痛みをこらえながら立ち上がる。
そして、先輩を睨み付ける。
「なんか文句あるのか?」
その言葉で僕の中の何かがぷつりと切れた。
「おまえなんか、宮内さんにはふさわしくない。そこらへんのバカ女の相手をして
りゃいいんだ」
頭の中は真っ白だった。考えてなんか喋っていなかった。
「この野郎! ちょっとばかり籐子がいい顔したもんだからって、つけあがりやが
って」
ごつい手が僕の胸ぐらを掴んでくる。
「調子こいてるのはおまえの方だろ」
掴んでいた手を無理矢理はね除ける。
「いい気になりやがって、やるのか?!」
両手を顔の前で構えてボクシングのファイティングポーズをとる宇佐見。
「やったろうじゃないか!」
売り言葉に買い言葉、もう成り行きには逆らえなかった。
「ダメ!」
彼女が僕たちの間に入り込む。
「ここではダメ」
宇佐見に囁くように彼女はそう言った。いや、そう聞こえた。
どういう意味だ? ケンカをとめてくれたんじゃないのか?
「こいつに決闘する勇気なんてないよ。ただいきがってるだけの奴だぜ」
宇佐見も急に声のトーンが落ちる。
「ダメ。彼にはそれだけの意志を感じるの」
彼女の瞳が僕を捕らえる。
「わかったよ。まったくめんどくせぇな」
先輩の不満そうな声。
彼女は向き直って僕の方を再び見る。そして、不安そうな顔。
「ねぇ、彼と勝負して欲しいの」
「勝負?」
いきなりそう言われても、わけがわからなかった。
「そう、決闘方式。勝った方がわたしを自由にできる」
おい。ちょっと待てよ。たしかに、今、成り行きの上で先輩と喧嘩しそうになっ
たけど、その決闘ってなんだよ。ここは中世のヨーロッパか?
「ちょっと待った。話が飲み込めない。どういことだよ」
「とにかく、ついてくりゃいいんだよ」
先輩が口を挟んでくる。
「いきなりなんだよ。それ?」
まだ状況を飲み込めない。
「ふふふ。やっぱり決闘する勇気もないんだな。おまえなんかに、籐子をものにす
る資格なんてないんだよ」
やや見下した口調。なんだか、心にむかむかと苛立ちがつのる。
「彼女を物扱いするなよ! そんなことが許されるわけないだろ」
「ほら、やっぱりびびっちまったか? そうだな、おとなしく帰るのが利口な判断
だろう」
嘲笑がふりかかる。
「頭悪い奴だな、僕は彼女を物扱いするのが許せないっていってるだろ」
こういう時は冷静になるがいいだろう。先輩を静かに睨み付ける。
「いいんです。わたしは。あとは天野クンの意志ですから」
彼女は僕にそう言ってくれる。
「本当にいいのか?」
本来なら、こんな非人間的なことなどしたくない。でも、それが唯一の彼女を先
輩から解放する手段だとしたら。
「はい」
彼女はしっかりと返事をする。
まっすぐな視線。堅い意志を感じる瞳。
覚悟がすでにできあがっている。ここで、断ったのでは僕自身のプライドが許さ
ない。
「わかったよ。そこまでいうんなら、決闘でもなんでもやるよ」
「ありがと」
彼女は安心したかのように微笑みを僕にくれた。
見知った道。
まだ夕暮れ時ではないので、景色もまだ明るい。でも、ここはあの場所だった。
−マァーオ
当然、例の猫の鳴き声が聞こえてくる。
「アクトゥールおいで」
宮内籐子がそう呼ぶと、猫は彼女に飛びついて腕の中に収まった。
「この洋館がなんて呼ばれてたか知ってるか?」
先輩がふとそう聞いてくる。
もう廃屋になってから、長い月日が経っている。下手をすると。僕の生まれる前
からすでに人気はなかったかもしれない。
「そんなの知りませんよ」
先輩は、僕の不機嫌な表情を見ると笑いだし、
「ま、知らない方がいいかもな」
と、バカにするかのような口調でそう言った。
「なんなんですか? 気になるじゃないですか」
塀をぐるりとまわり、錆びた鉄門を開く。
思ったよりスムースに門は開いた。
「いくぞ!」
僕がその疑問を深く考えようとする前に、無理矢理玄関の前まで連れて行かれる。
「籐子! 早く開けろ」
先輩がそう言うと、彼女はいつの間にか手に持っていた大きな鍵をを鍵穴へと差
し込む。
不思議な空気が流れていた。
なんだか現実と幻想の境が曖昧になってくるような不自然な感覚。
扉は開かれる。
薄暗い室内、少しだけカビ臭さが鼻につく。
妙に広く感じる玄関ホール部分。吹き抜け構造なのか、天井が高い。
急に光りが降ってくる。
煌びやかに輝くシャンデリアには、まだ電源が生きていたらしい。
宮内籐子か、宇佐見先輩が明かりをつけてくれたのか?
眩しいくらいに光を降り注ぐシャンデリアを、両手で遮りながらしばらく天井を仰
ぐ。
「武器は自由だ。飛び道具以外ならなんでも揃っている」
今まで暗くて気づかなかったが、ここは玄関ホールではなかった。入り口以外、
扉は見つからない。そこは、一つの円形の室内闘技場だった。
周囲の壁には、様々な武器が飾られている。
木刀や竹刀などの比較的おとなしいものから、日本刀、サーベルなどのポピュラ
ーな殺傷武器、メイスやフレイルなどのファンタジーでお馴染みの武器まで数多く
取り揃えてある。この館の持ち主の趣味なのだろうか?
「早いとこ武器をとりな!」
待ちくたびれたとばかりに、細身の剣を握った先輩の苛立った声が室内に響きわ
たる。
さすがフェンシングをやっているだけあって、武器の選択にはこだわっている。
だが、それは同時に殺意を持っていること示している。
あれは、たしかレイピアとかいったっけ?
まさかな、あれで刺し殺そうなんてそんなことは考えていないだろうな。
本能が身体を震えさせる。怖いのか?
ちらりと、宮内籐子の方を見る。
猫を抱きかかえ、うつむいている。
僕はなんの為にここまで来たんだよ。
揺らいだ気持ちに活を入れる。
木刀の並ぶところまで行き、一番持ちやすくて軽いものを選ぶ。先輩の事を殺し
てやりたいとまで憎んではいない。もし憎んでいたとしても、殺傷能力のある武器
では一瞬のためらいを生むはずだ。だとしたら思いきり戦える武器がいい。幸い、
先輩は切断能力がほとんどないレイピアだ。
木刀だって五分以上に戦えるはず。
「甘いな。そんなもので本当に戦えると思っているのか?」
相変わらず自信たっぷりの先輩の言葉に、僕は沈黙で応える。これ以上の話し合
いは無駄だ。
相手は県大会で優勝経験もあるフェンシングの達人。勝機があるとしたら、これ
が試合ではないということだ。そう、ルールという制約に縛られる必要がない。
宮内籐子は、先輩の所にいき胸にピンクのバラの花を一輪つけ始める。
そして、同じように僕の所に来ると胸にバラをつけていく。少しばかりピンクの
色の濃さが相手と違う。
「この花が散らされたら負けです」
僕は少しだけほっとした。どちらかが死ぬまでの殺し合いになるのではないかと、
かなり不安だったからだ。
「わかった」
「信じてます」
彼女は真面目な顔でそういうと、一瞬の微笑みを僕に見せてそのまま下がってい
く。
この笑顔を守るためにも。
僕は心の中で誓う。