AWC キャプテン・ドラゴンI     つきかげ


        
#4048/5495 長編
★タイトル (BYB     )  97/ 8/ 4  18: 9  (173)
キャプテン・ドラゴンI     つきかげ
★内容
「とんでもない糞ったれだよ、てめぇは」
「おまえに言われたくないね、キャプテン・ドラゴン。こんな所でDDCを使用
して、メイを殺すところだったぞ」
  ビリーは、平然といった。
「やってみなきゃ、判らんだろ」
「言ってろ、馬鹿。何にしても、メイを死なせたくないのなら、言うとおりにし
ろ。まず、銃を足下に落とせ」
  ビリーは、言われた通りに、銃を落とす。ブラックソルは、次の指示を出した。
「よし、そいつをこっちに、蹴れ」
  ビリーは嘲るような笑みを浮かべ、銃を蹴る。足下にきた銃を見て、ブラック
ソルは、顔色を変えた。
「てめぇ、これは」
  その瞬間、銃、いや、銃のダミーが炸裂し、激しい光と轟音がメイとブラック
ソルを襲う。それと共に、魔法のようにビリーの手元に出現した銃が、火を吹い
た。排出されたメタルカートリッジがプラットホームに落ち、乾いた音を立てる。
  ブラックソルが跳ね飛ばされたように、後ろへ倒れた。
「メイ、こっちだ!」
  ビリーの叫びに促され、メイはビリーの元へ駆け寄る。
「何て器用なの」
  メイの感嘆した言葉に、ビリーは夢見るように微笑む。
「特技なんだ」
  その時、哄笑が響いた。ブラックソルが、笑いながら半身を起こす。
「へたくそ、何で頭をぶちぬかねぇ」
「無理するな、コンバットスーツは貫通しなかったが、15ミリ口径のリボルビ
ングサブマシンガンの弾を受けたんだ。肋骨は折れてるよ」
  ブラックソルは青ざめた顔で、ふらりと立ち上がる。腰から宇宙刀を抜いた。
漆黒の刃が、出現する。
「次は、頭を打ち抜け。でなきゃ、死ぬのはてめぇだ、キャプテン・ドラゴン」
  ビリーは答えるように、銃身をあげる。撃とうとしたその瞬間に、ブラックソ
ルの体が、閃光につつまれた。
「ちっ」
  まともに光を見てしまったビリーは、視界を失う。油断である。ブラックソル
は、自分の体に閃光弾を密着させて、炸裂させたようだ。
  視界が戻った時には、ブラックソルが目の前に来ていた。漆黒の刀身が、走る。
ビリーはかわしそこねた。漆黒の宇宙刀が、リボルビングサブマシンガンの銃身
を切断する。ビリーは手元に残った銃把を捨てた。
  ビリーはブラックソルの二撃目を、自身も宇宙刀を抜いて受ける。ブラックソ
ルは、下がって間合いを取った。
  ビリーは、愛を交わした恋人に見せるように、微笑みながら、宇宙刀を構える。
「残念だね、ブラックソル。唯一のチャンスを逃したようだ」
「やめとけ、キャプテン・ドラゴン。剣では、おれに勝てないぜ」
  二人は剣を構えたまま、凍りついた。互いに、切り込む事ができない。こうし
た場面では、先に動いたほうが不利と判っている為だ。
  その二人を背後で、見つめていたメイが、微かに悲鳴を上げる。プラットホー
ムに置かれていた棺が動き、中の死体が起きあがった為だ。
  メイに酷似した、美貌の少女が姿を現す。彼女は、妖精のような裸身を惜しげ
も無く晒しながら、夢見るように立ち上がって言った。
「ああ、見たことがある場所だわ、夢見ているの、私は?いいえ、目覚めてる。
かつて無いくらいに、明晰に目覚めているのよ」
 死から甦った少女は、歌うように語る。世界はその美しい少女を受入れ、歪み
始めた。
  ガイ・ブラックソルは剣の構えをとき、振り向く。それでも、ビリーは斬りつ
ける事はできなかった。動けなかったのだ。
  リンダ・ローランは目覚めた。それは、全てをのみ込んでの目覚めである。ビ
リーは、自分の思考がリンダの思念に取り込まれていくのを、感じた。
「全ては私の中にある。私が産み出したのは何?存在にもう、意味は無いわ。だ
って、やっぱり全ては夢、私の夢なのよ」
  ブラックソルは、リンダに向かって歩み出す。全てが急速に、崩壊しつつあっ
た。死んで甦ったリンダは、生きる時空特異点となったのだ。彼女の思念が、物
理的法則に縛られた宇宙を崩壊させ、夢幻空間を出現させつつある。
「私は宇宙を作ったの。そして、生命も、男も、女も、私が作った。そう、愛も
わたしが作ったのよ。私は愛してる。すべてを愛してる。愛してる。愛してる。
愛してるのよ!」
  剣を捨てたブラックソルは、リンダを抱きしめる。まるで、縋り付くように、
抱きしめた。
「始まるんだ。おれたちの世界が」
「愛よ、愛よ、愛よ。世界を私が覆う。超越もなく、存在の彼岸もない世界。永
劫の輝きに満ちた、限りなき連続性の世界。生命は水の中に水が存在するように、
生き続けるわ。特権的な特異点としての死はなく、ただ存在では無い生のみがあ
る世界。愛してる、愛してる愛してる愛してる愛してる、私は全てを愛で包むの!」
  ビリーは、突然体が動くようになったのを、感じた。プラットホームは既に素
粒子へ還元されていっている。霞のようになりつつあるその空間を、ビリーは意
志の力によって、歩いていった。
  宇宙は、素粒子の嵐へ戻ろうとしている。おそらくは、愛の力によって。
  ビリーは、全裸のリンダを抱きしめるブラックソルの前に立った。その背中は、
哀しいまでに、無防備である。
  ビリーは、剣を振り上げた。
「やめて!」
  メイが絶叫した瞬間には、胴を両断された二つの死体が、転がっていた。歪ん
でいた世界が、元通りの正常さを取り戻す。ビリーは、剣を収めメイに向き直る。
「なぜ、止めた」
  メイは、膝をついて泣いている。なぜかは判らないが、涙が止まらない。
「判らない」
「やつは、殺してくれといっていた。聞こえなかったか?」
「いいえ」
  ビリーは少し、不機嫌な顔をしていた。
「まあいい、おれは、リン・ローランに雇われてあんたを助けにきた」
  ビリーは、メイを立たせる。メイは、首を振った。
「まだ、終わっていない。あなただけでも、逃げたほうがいいわ」
  ビリーは問いかけるように、眉をあげる。メイは、頭上を指さした。
「あの巨人は、私を求めている。私をここから、出したくないようね。判るの私
には」
  漆黒の巨人は、黄金の瞳で見下ろしている。その瞳には紛れもない、意志が込
められていた。開かれた口は、何かを求めるように、蠢いている。
  ビリーは、メイを後ろにやると、一歩踏み出す。
「あんたじゃ無いよ、メイ・ローラン。こいつは、おれに用がある」
「なぜ?」
「さあな、DDCを使って傷つけたから、怒っているんだろうさ」
  ビリーは、巨人に向かって歩き始める。午後の公園を、散歩するような無造作
な歩みだ。
  漆黒の巨人は、咆吼しながら口を広げた。その口内には、無数の触手が秘めら
れている。深紅の蛇が無数に絡み合ったような触手が、巨人の口から吐き出され
た。
  紅い触手はそれ自体が独立した生き物のように、巨人の口からビリーに向かっ
て蠢きながら延びてゆく。ビリーは、音楽に耳を傾ける詩人のように涼しげな表
情で、立ちつくしていた。
  無数の蛇のようなその触手は、ビリーの体へとまとわりつく。細長い器官は、
愛おしむようにビリーに接触し、その体を覆っていった。
  瞬く間に、ビリーの体は紅い放流に飲み込まれる。メイは、ただ立ちすくみ、
紅い蠢く管の固まりとなったビリーを見つめていた。
  突然、巨人が咆吼する。メイは、その咆吼にさっきまでの叫びと違うものを、
感じた。それはどちらかといえば、恐怖。どこか悲鳴を感じさせる叫びだった。
  メイは、気配を感じ、後ろを振り向く。そこには、黄金の龍がいた。メイは、
言いようのない感情にとらわれ、呻き声をあげる。
  その黄金に輝く龍は、古代の人間の悪夢から生まれ出たように、破壊と凶悪さ
を一身に纏っていた。龍の双頭は神々しいまでに気高く掲げられ、輝く翼は世界
を死で覆うように広げられている。
  龍は、深紅に輝く瞳で巨人を見つめていた。再び、巨人が咆吼する。今度は、
明らかにそうと判る程、恐怖が混じっていた。
  触手が勢いよく、巨人の口の中へと戻ってゆく。ビリーの姿が、再び現れた。
ビリーは触手に飲み込まれる前のまま、美術館で名画を鑑賞するようなポーズで
佇んでいる。
  漆黒の巨人は、口を閉じた。その瞳にはもう邪悪さを、感じない。メイは、巨
人が再び眠りについた事を、知った。
  ビリーは嘲るような笑みを見せ、振り向く。メイは呆れ声で、言った。
「あんた、何者なの?」
「キャプテン・ドラゴンと人は言う」
  そう言い終えると、ビリーは軽々とメイを抱え上げる。龍が首を下げ、ビリー
はメイを抱いたまま、その口の中へ飛び込んだ。

  惑星ネメシスの地上都市、エクウス。その郊外の多目的野外スタジアムで、中
断されたメイ・ローランのコンサートが再び行われていた。
  フィードバックノイズの轟音。エフェクターのディストーションやディレイで
歪まされた、のたうち回るような楽器の音。電飾のフルオーケストラが、狂気の
スピードで駆けめぐる。
  そしてその電子の轟音をバックに、メイ・ローランは無垢な天使の声で、囁く
ように歌った。地上を電子の色彩と音響で無限に変化させていきながら、少女は
優しく、荘厳に、無慈悲に、愛を込めて、歌い続ける。

  ステージの背後のコントロールルームで、モニターを通してメイを見つめてい
たリンは、気配を感じて振り向く。薄暗いコントロールルームでモニターの明か
りに浮かび上がったその影は、ビリーだった。
  ふっ、とリンは微笑む。
「もう、姿を現さないかと思っていた」
  相変わらず、夢から目覚めたばかりのように物憂げな顔で、ビリーは肩を竦め
る。
「さよならを、言いに来たんだ」
「そう」
  メイは、どこか投げやりに、メイのステージを映すモニターを見ながら、言っ
た。
「結局、ガイ・ブラックソルは、自分の恋人と一緒に死にたかっただけなのかも
しれないわね」
  ビリーは、気怠そうに頷く。
「おれには判るよ。死ぬ場所を見つける為に、やつは戦ったのさ。おれもやつと
一緒で、死ぬべき時に、死にぞこなったからな」
「判らないわ」
  リンは、真っ直ぐビリーを見つめる。その透明な瞳は汚れなく、ただ一途な思
いだけがあった。
「私には、判らない」
  ビリーは、物憂げに、微笑む。
「あんたにゃ、判らんよ」
  リンは、少し笑った。
「又、何かあったら、呼び出してあげる。隠居生活も退屈でしょ」
  ビリーは、恋人に愛を囁くように言った。
「今度呼び出したら、殺すぞ。いいな」
  リンはけらけら、笑った。
「いいわ、もう虐めるのは、やめとく。可哀想だもんね」
  ビリーは、振り向くと片手を上げ、闇の中へと消えていった。リンはモニター
へ向き直る。
  ステージでは、メイが歌い続けていた。

                                                      完





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