#4042/5495 長編
★タイトル (BYB ) 97/ 8/ 4 17:50 (181)
キャプテン・ドラゴンC つきかげ
★内容
船用の離発着場に入り込んだ。
やがて、離発着場の片隅に停泊している古くて、くたびれた輸送船が見えて来
る。ジープはその輸送船に向かった。
リンは、うんざりしたように言う。
「あのしょぼい船に、のって来たの」
ビリーは頷く。
「あれが我が、オダリスク号だ」
その輸送船は、ちょうど卵を縦に断ち切ったような形をしている。平らな面を
上にしたその船は、後部にあるハッチを開いていた。ヤンの運転するジープは、
ハッチから輸送船の中へと入る。
ビリーとヤンはジープから飛び降りると、ハンガーへジープを手早く固定した。
そして、ブリッジへ向かって駆けていく。リンは慌てて後に続いた。
ブリッジにビリーとヤンは飛び込む。ブリッジは、正面にセンタースクリーン
があり、4機のオペレーションブースがあった。二人はコンソールのついたブー
スに入り込み、到底宇宙船のシートとは思えないような粗末な作りのシートに、
身体を固定する。リンも、空いているブースへ飛び込むと、シートに身体を固定
した。
ヤンが、エンジンを起動する。アイドリング状態だったらしく、レスポンスは
驚く程速い。ヤンが、コンソールを操作しながら叫んだ。
「コントロールセンターから警告が来ました」
ビリーは物憂げに応える。
「撃ち落としたければ、かってにしろといっとけ」
船は、巨大な手に捕まれ持ち上げられたように、上昇する。メインエンジンの
轟音がかん高い悲鳴へと高まっていき、ついには物理的な衝撃に変わる。船は、
上空目指して、加速していった。リンは、強烈な加速に、呻きを漏らす。
暗い穴へ落とされたように視野が狭くなり、気が遠くなってくる。リンは闇に
押し潰されるように、気を失った。
リンは気がつくと、センタースクリーンを見る。船はヒエロスムスの重力圏か
ら離れ、星間航路へ向かっていた。
「ちょっと、女の子が乗ってるんだから、もう少し操船を考えなさいよ!」
リンの叫びに耳を貸さず、ヤンとビリーはコンソールに集中している。よく見
ると、センタースクリーンにも警告の表示が出ていた。
リンも、手元のコンソールを操作する。そこに表示されたのは、船が接近して
いるというメッセージであった。さらに情報を要求すると、カブト虫のような甲
虫を思わす形をした船が表示される。
船首にカブト虫の角を思わす細長い主砲があり、船体には防御用可動装甲板を
兼ねた放熱板が装備されていた。放熱板は、通常航海中であれば、熱放射の為、
広げられているものだ。しかし、コンソールに表示されたその姿は、放熱板を閉
ざしている。臨戦態勢にあるらしい。
その船の情報をさらに要求すると、メッセージが表示された。
「ケルベロス級銀河パトロール巡洋艦ですって!」
リンの叫びは、再び無視された。リンは通信ログを、コンソールへ要求する。
そこにあるのは、パトロール船からの発砲の警告ばかりであった。
「ちょっと、どうするのよ」
リンの問いは、無視される。ケルベロス級巡洋艦の主砲であれば、一撃でこの
老朽化した輸送船を沈めるだろう。しかし、ヤンもビリーも忙しく手は動いてい
るが、落ち着いている。
一瞬、ブリッジの照明が消えた。センタースクリーンも手元のコンソールも、
暗くなる。そして、地鳴りのような衝撃が船に走った。
照明が戻ると同時に、警報が狂った叫びのように鳴り響く。センタースクリー
ンに赤字の障害メッセージが延々と表示されていった。手元のコンソールは沈黙
したままだ。
ヤンが警報と障害表示を打ち切ったらしく、ブリッジに静寂がもどる。
「一発喰らっちゃいましたね。まだ、バリアは保ってます。それとキャプテン、
もうでれますよ」
「了解」
ビリーは、体を固定するハーネスを外し、ブリッジのハッチへ向かう。リンは、
慌てて自分もハーネスを外し、ビリーを追った。
剥き出しのケーブルやパイプが縦横に走る通路に出て、リンはビリーに向かっ
て叫ぶ。
「ねぇ、どこいくのよ!」
ビリーが物憂げに応える。
「ブリッジに戻ってろ。次弾がきたら、怪我するぜ」
「怪我するって、それ以前に吹っ飛んじゃうよ、こんな船」
ビリーはジゴロが情婦に見せるような笑みを、リンへ投げかけた。
「心配するな。対ビーム砲バリアは戦艦並みのを装備している。
「そのわりには、システムがストールしてたじゃない」
「それは、航行システムが安物だからだ」
リンは、絶句した。ビリーは、スクリーンの中で俳優が見せるようなウィンク
を、リンに投げかける。
「まぁ、ブリッジのコンソールで見てろって。おれが巡洋艦を沈めるところを」
「って、武器があるのこの船?」
「ないよ」
ビリーはもう移動し始めている。その背中へリンが叫んだ。
「そんな説明じゃ、あんたにぞっこんの恋人だって、納得しないよ!」
リンはブリッジに戻ると、ブースに入り体をシートへ固定する。リンは、忙し
そうにコンソールを操作しているヤンに向かって、叫ぶ。
「ねえ、ビリーは一体武器もなしで、どうやってあの巡洋艦を沈めるの?」
ヤンはぶっきらぼうに言った。
「決まってるじゃねぇか」
ヤンは、ちらっと目をリンに向ける。その目は、まじめだった。
「体当たりだよ」
「聞いた私が、馬鹿だったわ!」
その瞬間、ずん、と振動が走る。着弾のショックとは別物だ。
リンは、コンソールを操作する。コンソールに、船が何かを射出したという表
示が出ていた。リンは、その射出物を表示するように、指示する。
「なにこれ?」
リンは、我が目を疑う。そこに現れたのは、黄金に輝く双頭の龍の姿であった。
それは、お伽噺に語られる英雄や騎士と戦った龍、そのままの姿。長く蛇のよう
にくねる首。深紅に輝く4つの瞳。大きく広げられた金色の翼。長いのたうつ尾
が二つ、体の後ろに延びる。その異様な姿は、リンの思考を停止させた。
「コンソールが狂ってるわよ、ヤン」
「そうじゃねぇ。知らなかったのか?」
ヤンは、狼のような笑みを見せる。
「キャプテン・ドラゴンと呼ばれる訳を」
リンが受けたのと同様、いや、それ以上のパニックがパトロール巡洋艦のブリ
ッジを、襲っていた。
円筒系のブリッジは、中央に指揮官用のコントロールブースがあり、放射状に
六つのブースが取り囲んでいる。中央のブースに、初老の顔つきの鋭い男がいた。
この船の艦長バセスカである。
「伝説は聞いていたが」
銀河パトロールの少佐であるバセスカ艦長が、呆然として呟く。
「本当にあんな姿とは…」
円筒系のブリッジの壁面は全て、スクリーンに埋められている。そのスクリー
ンに、黄金の龍が映し出されていた。
凶悪な深紅の輝きを持つ瞳を双頭に宿し、破滅の羽音を打ちならしそうな黄金
の翼を広げ、その龍は巡洋艦へ向かっている。蒼古の神々が、戦いを繰り広げて
いた時代から甦ったような怪物。それは、悪夢というよりは、悪い冗談のようだ。
強固な地球軍の艦隊と、死を覚悟した戦闘を繰り返してきたバセスカは、自分
がとてつもない悪ふざけにまきこまれた気分になっている。
「それにしても、今時の三流映画すら、あんなふざけた怪物は登場させんぞ」
「メインビームシステムが、ターゲットを補足しました」
オペレータの報告と共に、壁面のスクリーン上にも、ロックオンの表示が出る。
バセスカは、うんざりした声で指示した。
「あのくそふざけたおもちゃを、片づけろ」
「ラジャー」
砲手が応える。メインビームシステムが作動し始め、警告表示がコンソールに
出た。ブリッジの照明が、暗くなる。赤い非常照明の下で、バセスカは侮蔑の笑
みをスクリーンに投げた。
「さよなら、キャプテン・ドラゴン。伝説へ帰るがいい」
轟音と振動が、ブリッジを包む。
「どうしてよ!」
リンが叫んだ。
ビーム砲による極彩色の輝きから開放された後、コンソールには相変わらず黄
金の龍のふざけた姿が、映し出されていた。リンは頭痛がしてくる。
「直撃だったはずよ。戦艦だって沈むのよ、あの主砲を喰らえば」
「あれを、見た目通りに考えないでくれ、嬢ちゃん。だいいち龍が宇宙を飛べる
訳がないだろう」
ヤンが、にやにやしながら言う。
「じゃあ、なんなのよ。魔法の龍なの」
「あれは、むしろ、龍の形をした時空特異点といったほうがいい」
リンは天を仰いで、瞑目する。
「神様の造った魔法のモンスターといってくれたほうが、納得いくわ」
ヤンは、楽しげに続けた。
「亜空間ウィルスというのを、聞いたことがあるか」
「ええ、それのデータは見た事があるわ」
亜空間ウィルスは、ウィルスというより生きた空間の歪みと言ったほうが、い
い。自らの意志によって、物理的法則をねじ曲げてしまうという、とてつもない
生き物である。
「じゃあ、あの龍は、亜空間ウィルスに感染した龍だというの」
「正確には、感染して死んだ龍さ」
リンは、目を円くした。亜空間ウィルスは、我々の宇宙とは違う別の宇宙から
の侵入者と考えられている。宿主を取り殺すという事は、その存在を別宇宙にと
りこんだという事に等しい。
「それは」
「あんたの考える通りだ、嬢ちゃん。あれは、見た目はこの宇宙にあるが、実体
は別の宇宙にある。あの龍の表面は、次元断層に等しい。つまり空間の裂け目だ
から、その硬度は無限大。」
「でも、でも、でも、でも」
リンは叫んだ。
「あれに、ビリーが乗ってるんでしょ」
ヤンは涼しい顔で頷く。
「ヤン、あんたの話じゃ、あの龍の中は、別の宇宙って事になるじゃないの。そ
んな所でどうやってビリーは、龍を操っているのよ!」
「さあな」
ヤンは、ひきつった笑みを見せた。
「あの人は、常識を超えてるからなぁ」
銀河パトロールの歴戦の勇士といってもいい、バセスカは言葉を失っていた。
「目標は、ビームシステムの射程圏外に出ました」
「目標は、さらに接近、スペースキャノンの射程に入っています」
オペレータの言葉に、バセスカは自分を取り戻す。
(なる程、伝説はまるきりでたらめでもなかったという事か)
「全砲門、目標を補足しました」
スクリーンには相変わらず、龍の姿を映し出されている。黄金の翼を広げたそ
の様は、地獄の炎に灼かれて甦った不死鳥を思わせた。
バセスカは、忌々しげに、そのふざけた姿を睨む。まるで、悪戯好きの妖精に、
弄ばれている気分になる。
「目標を撃て、撃ってトカゲの丸焼きにしてやれ」
ビームシステムであれば、バリアのようなもので阻止する事も、できるだろう。
しかし、固形弾頭のスペースキャノンであれば、相手の表皮を食い破り、その内
部へ灼熱のロケット噴射を浴びせるはずだ。
6門のスペースキャノンが火を吹く。固形弾頭が龍に命中し、白熱の閃光を放
つ。一瞬スクリーンが白く輝いたが、すぐ元に戻った。そこには、相変わらず神
話の中から抜け出たような、黄金の龍がいる。全く砲撃のダメージが無いようだ。
「艦長、私の想定ですが」
オペレータの一人が、たまりかねたように、叫ぶ。