AWC そばにいるだけで 4−3   寺嶋公香


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#3781/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 3/11  18:36  (200)
そばにいるだけで 4−3   寺嶋公香
★内容                                         23/07/15 20:07 修正 第2版
「さすがに混んでるよー」
 早くもうんざりした様子の井口。
 二年前ほどではないにしても、境内は人であふれていた。
「お賽銭を遠くから投げるのだけは、したくない」
「それはいいけど、たどり着くのに何十分もかかりそう」
「ねえ、バスの降車ボタンみたいに、あちこちに賽銭箱があっていいと思わな
い? 手近のところに入れるの」
 富井の突飛な案に、純子と井口は首を傾げた。
「便利は便利だろうけど……」
「お願いを聞いてもらえそうにない感じ」
「そうかなあ。やっぱ、神様の前まで行かなきゃ、だめかしらね」
「まあ、遠くからお金を投げるのと、大差ない気がするわよ」
 これだけ話をしていても、なかなか前に進まない。じわじわと前進している
のは分かるし、賽銭箱の一部が見通せるだけに、焦れったい。
 テレビの特別番組がどうだの、宿題がこうだの、色々と話題を換えて時間を
潰す。
「ねえ、年賀状、相羽君から来た?」
 話の種も尽きかけて、純子はふと思い付きで聞いてみた。
(あいつなら、きっと、クラスの全員に出したはず)
 そう確信していたのだが、富井と井口はきょとんとして顔を見合わせている
ので、純子は焦った。
「来てないよぉ。こっちから、出すには出したけど」
「純子、そんなこと言うからには、もらったのね?」
「う、うん。ほんとに来てないって?」
 訝しく感じつつ、念押し。
 対して、友達二人は「うん」とうなずいた。
「そ、そうなの。変だね。遅れてるのかしら」
「相羽君が全員に出したって、どうして言い切れるのよお」
「どうしてって……だって、そういう性格だと思わない?」
「それは……そうかもしんない」
 納得した風に、富井ら。
「じゃあ、やっぱり遅れているのかな」
「そうよ、きっと」
 純子が決めつける調子で言ったところで、ようやく、賽銭箱全体が見える位
置まで来た。これでこの話題からも解放される。
「いくらにしよう?」
「とりあえず、帰りのバス代分、小銭で残しておかなくちゃね」

 寒い寒いと言いながら歩く通学路は、いつもよりずっと長く感じる。三学期
最初の朝は、肌が切れそうな冷たい風で始まった。
「宿題、全部できた?」
 教室に入り、席に向かっている純子へ、およそ正月らしくない挨拶をしてき
たのは、もちろん相羽。そちらに歩み寄る。
「あ。一応、埋めるだけ埋めたけれど」
「そっちも? 僕も今度は何とか自力で解けたかなって、国語」
「答合わせ、する? 折角、約束したんだし」
 ランドセルの中からプリント類を出そうとする。
 でも、ほんの一瞬の間のあと、相羽は首を振った。
「やっぱり、いいや。もしも答が別々だったら、直したくなるだろうから。理
科はともかく、国語の答が何から何まで一緒じゃ、おかしいもんな」
「あら、じゃあ、私は見ても問題なしね」
「見たければ」
 今度は相羽が、机の中から宿題を取り出そうとする。
 純子はすぐに言い添えた。
「冗談ですー」
「何だ……。あ、そうだ。『レジェンド』、行ってみた?」
「そんなに都合よくいかないわよ。ねえ、何があるって言うの?」
「直接、確かめてほしいんだ」
「結局、それなのね」
 あきらめて頭を垂れ、軽く息をつく純子。次に思い浮かんだのは。
「年賀状、届いた?」
「届いたよ。手書きなんだね。いいな、絵がうまいのって」
「あれぐらい、うまいとは言わないって。相羽君こそ、きれいな印刷の年賀状、
ありがとうね」
「『印刷』を強調しなくても……」
 肩を落とし、しゅんとなる相羽。
「手書きだとクラス全員に出すには時間がなくて、仕方なしに母さんのパソコ
ンを借りて、やったんだけど」
「やっぱり、全員に出していたのね。そうじゃないかなと思ってた。いちいち
文面も変えた?」
「うん、せめてそれぐらいは。全員に、『もう一度、古羽相一郎になって』な
んて書くわけにもいかないしね」
 純子がもらった年賀状の文面を、相羽はさらりと口にした。
 顔が赤らむのを自覚した純子は、悟られぬよう、前を向く。
「恥ずかしいな、もう。そのことだったら、自分がやればいいじゃない。元は
あなたがやる役だったんだから」
「ははは。そのことは、次に劇をする話が出たとき。中学になったら、チャン
スあるかな」
「そんなにやりたければ、演劇部に入れば? 私は遠慮するけどね」
「一日で台詞を覚えた記憶力を眠らせちゃ、もったいないのに」
「あのねえ……。そんなことより、あのイラストは、どうやって作ったのよ」
「ああ、あれは、ワープロソフトのイラスト機能を」
「そういうのは分かるから、あれだけ似せられたのが不思議だなってこと」
「学芸会のときの写真、買っただろ。それを元に」
 相羽の答の途中で、富井達が来た。
「相羽くーん、おっはよ! 年賀状、ありがとうねー」
「僕の方こそ、もらえると思ってなかったから、うれしかった」
 初詣から三日後、電話で富井と話した純子は、相羽からの年賀状が富井の家
にも届いたことをすでに聞いていた。
 相羽の口振りから察するに、富井達から年賀状が来たからお返しに出したの
ではなく、最初から出していたらしい。つまり、遅れていたという見方が当た
っていたことになるはず。
(クラスの他のみんなからももらったのかしら? そうだとしても、うなずけ
るけど……何割ぐらいかな)
 純子が年賀状を出したクラスメートは、女子全員と男子のほんの一部だ。男
子には相羽も含まれているが、これは、特に二学期、色々一緒に役目をこなし
たことから、出してみる気持ちになった。
「おおい、涼原ぁ!」
 急に大声で名前を呼ばれ、純子はびくっとしてから振り返った。
 声のした方向には、清水と大谷の二人が立っている。あまりに大きな声量だ
ったからすぐには分からなかったが、さっき叫んだのは清水だ。
「そんな大声で呼ばなくても、聞こえるわよ。何か用?」
「こっち来い」
 向こうが近づいて来ないので、純子は仕方なく二人の方へ歩いて行く。
「へへっ、見ろ」
 得意げに言って、清水は背中に回していた手を、前に持って来た。四角い物
を握っている。
「あ」
 純子が短く声を上げたのは、ジグソーパズルの完成図を見せられたせい。そ
う、クリスマス会において清水の手に渡った、あれ。
「どうだ、完成させたぜ」
「ふうん」
「……それだけかよ?」
 唇を尖らせる清水。誉めてほしいらしい。大谷も同じようにした。
「ちゃんと作ってくれるなんて、見直したわよ。少しだけ」
 本当は、言葉にしている以上にうれしかったけれど、そのまま言い表すのも
癪なので、押さえる。
「一人で完成させたの?」
「決まってんだろ」
 清水はそう答えたが、隣の大谷は、「えっ」という目をしている。彼は清水
の顔をちらりと見やってから、
「俺も手伝ったけど……」
 と、どこかはにかむように言った。
「てめ、それは喋るなって、言ったじゃないかっ」
「いい格好、させねーよ」
 小競り合いを始めてしまった二人。
 始まったその一瞬だけ、おろおろした純子だったが、すぐに肩をすくめた。
(予想してたことだから、いいか)
「パズル、大事にしてちょうだい」
 冗談めかした口調でそう言い残し、純子は二人から離れた。

 二学期の副委員長を務めた純子は、今学期、委員に選ばれることはない。そ
ういう意味で、安心していた。
(これが最後の仕事。やってて、まあまあ楽しかったからよかった)
 全て開票したところ、三学期の委員長は前田、副委員長は立島という、一学
期の二人が入れ替わった結果が出た。
 その二人の挨拶も済むと、次は席替え。全員、立ち上がり、番号を書いたく
じを引いていき、席の決まった者から、どんどん席を移る。比較的早くにくじ
を引いた純子も、とにかく新しい席に収まった。
 純子は、一番廊下寄りの列の、前から五番目。悪くないけれど、陽が当たら
ないから、冬場には寒い位置だ。
 落ち着くと、富井を始めとする特に仲のよい友達の新しい席がどうなるか、
見守る。
「あーん、前より離れちゃったよぅ」
 富井はわざわざ横を通って、手にしたくじを純子に見せてきた。36。
「しょうがないよ。窓際な分だけ、寒くなくてましじゃない」
「けど、一番前だよ。やだなあ」
 富井はとぼとぼと、あてがわれた席に向かって行った。
 その他の井口や町田らも、決して近い距離とは言えない席に決まったようだ。
 何となく、がっかりしていると、すぐ後ろの席に誰かが来た気配。振り返っ
て、確かめてみた。
「や」
 短く言った相手を見て、「またぁ?」と思わずにいられなくなる純子。そう、
純子の後ろの席は相羽だ。
「相羽君、くじの紙、見せてよ」
「は? −−いいよ、ほら」
 一瞬、怪訝な色を見せた相羽は、右手の紙を机の上に放り出した。くるくる
回って止まったそれには、純子の方から見て「9」とあった。だが、その数字
の頭には棒線が一本、引かれてある。そちらを下にして読まなければならない
から、これは「6」だ。
「六番の席、ここで合ってるんだろ?」
「……合ってる」
 ため息混じりの返事。
(やっとクラス委員の仕事が終わって、話す機会も減ると思ってたら、こんな
に席が近くなるなんて)
「手品の種を考えるのは、結局どうなったの?」
 急に相羽が聞いてきた。全員の席が決まるまでには、まだ少し余裕がある。
「朝休みの時間に、聞き損ねたから」
「それだけど……分かったような、分かってないような。最初に丸めたはずの
私の紙が、最後になってたってことは、他の紙も言い当てたその人の分じゃな
かったのかなとは考えたんだけど……一つずつ、ずれているとかさ」
 クリスマス会のとき、全員がほぼ円を描くように座っていたことから、連想
した。一番最初だったはずの自分の紙が、一番最後に来ていたのなら、二番目
に当てられた町田の紙は、実は一番目の紙ではなかったか。そうして一枚ずつ、
ずれていたとしたら……。
 純子はこの考えを口にして、最後に言い足した。
「相羽君は、紙に書いてある文字を先に見ていたんじゃない? 一番初め、私
の分に見せかけた紙は町田さんので、その中身を覚えて、言えばいいのよ。さ
も町田さんの選んだカードを言い当てたふりをして。あとは繰り返すだけ」
「鋭い」
 音を立てずに、小さく拍手の格好をする相羽。
「当たってるのね?」
 推測が当たっていたと分かり、純子はうれしくなる。でも、それも半分だけ。
「だけど、分からない点がまだあって……。このやり方は、一番最初だけは、
本当に言い当てないといけない。一番目の人の紙を見ること、できないもんね。
その方法をどうやったのか、見当も付かないわ」
「僕には、それが最後の砦というわけか」
「いいところまで解いたんだったら、最後ぐらい」
「だめ。教えない」
 相羽が愉快そうに言い切った時点で、席替えは終了した。
「意地悪」
「でも、ヒントは出すよ。それとも、いらない?」
「いる。こうなったら、ヒントをもらってでも、絶対、自分の力で解くから」
「涼原さんがカードを選んだ順番が鍵。それから……トランプを切ってみたら、
分かると思うよ」
「順番と、トランプを……切る?」
 その二つが何を意味するのか分からず、もっと詳しく尋ねようとしたら、先
生の話が始まってしまった。

−−つづく





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