#3579/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 20: 3 ( 80)
雪原のワルキューレ26 つきかげ
★内容
見事に鍛え上げられた肉体を誇示し、二人の剣士は長剣を構える。その片刃の剣は、
黄金色に輝いていた。鍔は無く、根元のあたりには何か文字が彫られており、その文字
は鬼火のような紅い光を放っている。
魔族の戦士達は、怯えたように、後づさった。明白に長身の剣士達に、威圧されてい
る。ケインは感嘆した。自分達の時とは、全く逆の立場にその異相の剣士達はいる。
「やりなさい、フレディ、アニムス」
ブラックソウルが声を掛ける。二人の剣士、フレディとアニムスは黄金色に輝く剣を
掲げ、前へでた。
一人が無造作に、剣を振り降ろす。金色の残像を残し、剣が振り降ろされた後に、魔
族の黒い腕が剣を持ったまま、床に転がった。
腕を失った魔族は、声にならない精神波の絶叫をあげた。その凄まじい衝撃に、ケイ
ンは鈍器で頭を殴られたようなショックを感じ、目の前が暗くなる。
フレディ達は、全くその精神波を感じていないように、剣を奮う。腕を失った魔族の
胸に、黄金色に輝く剣を突き立てる。あたかも、燃え盛る枝を突きつけられたように、
魔族の胸が煙を上げた。再び精神波の絶叫が上がる。ケインは、その広間が歪んだよう
に、感じられた。
フレディ達は踊るような動作で、魔族を斬ってゆく。闇を裂く、夜空のクレセントム
ーンを思わせる黄金色の剣が走った後は、必ず魔族の四肢の一部が地に落ちた。
魔族達の体が裂かれ、首が落とされる度に、煙が上がる。まるでフレディ達の剣は、
金色に燃えているようだ。そしてその剣に彫られた、緋色に輝く文字が、魔族達を怯え
させているらしい。
十人以上いた魔族の戦士達は、あっさり全滅した。フレディ達は、息を切らした様子
もない。魔族達の死体は、床の上でくすぶっている。まるで焼き場のような、臭いと煙
が立ちこめた。
平然としているブラックソウルやフレディと比べ、ケイン達は魔族の精神波の影響を
受け、すっかり蒼ざめている。そのケイン達の方へ、ブラックソウルの一行が近づいて
来た。
「驚いたな」ブラックソウルが黒い瞳を、煌めかせながら言った。「なんにも魔族と戦
う為の装備を持たずに、こんなところまで入り込むとは。とっても勇敢だね、あなた達
は」
その言葉に、ジークがいきり立って応えた。
「勇敢だと?いままで卑怯だとか、悪辣非道とかいわれたことはあるけど、そこまで馬
鹿にされたのは、始めてだ!」
ケインが嘲笑する。
「マジに怒るな、ばか」
ケインはブラックソウルを、探るように見た。
「確かにおれ達は間抜けだがね、それなりに腕は立つよ」ケインは、多少慎重に言った
。「どうだい、おれ達を利用してみちゃあ。戦力としては、意外と使えるかもよ」
ブラックソウルは、クスクス笑った。
「面白そうな人たちだな。我々はさらに下るけど、ついて来ますか」
「ああ」ケインは、蒼ざめた顔で言う。「ここまできたら、行けるとこまでいくよ。お
れの名は、ケイン。そっちのデブは、ジークだ。よろしくな」ケインは、言い終えると
、異相の剣士の一人に近づく。
「恐ろしい剣だな、それは。ええと、あんたは」
「フレディだ」剣士は名乗ると、剣を見せる。「持ってみるか」
ケインは、渡された剣を手に取る。その剣は既に、黄金色の光を失っていた。根元に
彫られた文字も、輝きをなくしている。
「ほう、木刀か。珍しいな」
その剣は、木で造られている。木にしては、えらく重かったが。ケインはフレディに
木刀を返しながら、言った。
「噂に聞いたことがある。西方の王都トラウスには、聖樹ユグドラシルが生えていると
」
ケインは、微かに目を細めて続ける。
「ユグドラシルは、遥か遠方からでも聳えているのが見えるほど、巨大な木だという。