#3575/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 19:58 ( 82)
雪原のワルキューレ22 つきかげ
★内容
ジークは獣のように、咆哮した。右足が跳ね上がり、魔族の女の側頭を襲う。巨大な
棍棒のように、ジークの右足は魔族の女の頭を薙いだ。
女は倒れ、ジークは一回転し、距離をとる。左腕が痺れていた。全身が吹雪の中に晒
されたように、冷えきっている。
(氷でできてるのかよ、この姉ぇちゃん)
ジークは再び距離を取り、フットワークを使う。魔族の女は当然のように、立ち上が
る。人間の女であれば、さっきの蹴りで頭蓋骨を砕かれたはずだ。
白い僧衣の胸元は、真紅の血で染められている。魔族の女は僧衣を裂き、黒い肢体を
露にした。美の化身のごとき、裸体である。撓んだ黒い果実のような乳房、金色に輝く
下腹の繁み、野生の獣のごとき、生気と緊張感の張りつめた両足の筋肉、それらがジー
クの目の前に晒された。
胸に刻まれた、赤い亀裂は、ジークの目の前で癒えて行く。瞬きする間に、その傷は
消え去った。魔族の女は、僧衣で血を拭う。血を拭った後には、一点の傷もない、完璧
な肉体があった。
(さすがに手ごわい)
ジークは呼吸を整え、さらに奥深いところにある力を、呼び覚まそうとしていた。こ
こまでくれば、ラハン流格闘術の、奥義を使うしかない。つまり、ジークは、右手を使
う決心をした。
(本気になるしか、ないな)
ケインは、間合いを測る。魔族の女はゆっくり近づいて来た。ケインは心の中でイメ
ージを描く。自分の間合いに想像の糸を張り、その糸を右腕につなげる。魔族の女が糸
に触れた時、ケインの右手が動くように。
魔族の女が、想像の糸に触れた。ケインの意識を越えたところで、肉体が動き、不可
視の水晶剣が空気を裂く。
(とった)
ケインは確かに、魔族の女の体を縦に斬った。しかし、女は突然ケインの目の前に出
現する。
「うぁああ」
ケインは絶叫し、後ろへ跳んだ。ケインの斬ったのは、残像である。本当の魔族の女
は、想像もつかない速度で透明の剣をかわし、間合いを詰めて来た。
ケインはエルフの絹糸を操り、二撃目、三撃目を繰り出す。杖が旋風のように宙を舞
い、透明の剣を跳ね飛ばした。
杖が足を払いにくる。ケインは後ろへ跳び、再び間合いをとった。魔族の女も足を止
める。その金色の髪が、赤く染まっていた。袖で、額に垂れてきた血を拭う。ケインの
一撃目は、完全にかわされたわけでは、無かったらしい。
(しかし、もうだめだな)
ケインの攻撃は、見切られた。次に間合いに入ってきた時は、かわされる。
(奥の手を使うか)
ケインは、左手を、ケインの本当の利き腕である、左手を動かす。今度かわされれば
、後がなかった。魔族の女の頭の傷は、もう塞がったようだ。そして、女は一歩踏み出
す。
魔族の女は、漆黒の美神のような裸体で、ジークへ一歩近づく。ジークは再び踏み込
んだ。黒い閃光と化した、手刀が飛ぶ。今度は、体にふれる前に、魔族の女が左手を掴
む。
「貴様、」女は呻いた。ジークの左手は、剣のような形に形状を変化させていた。手の
ひらは、細長くなり、その先端は魔族の女の左胸を貫いている。
ジークの左腕は、黒砂蟲が擬態をとっているにすぎない。その形態がどのようなもの
になるかは、ジークの意志しだいである。ジークは自らの意志で、黒砂蟲を操ることが
できた。虫達は、ジークの腕を流れる微弱な神経電流を感じとり、形態を変化させる。
そして、その技を利用し、今魔族の女の心臓を貫いたのだ。
心臓を貫かれた女は、魔族とはいえさすがに動きを止める。ジークは女にさらに近づ
き、その腹へ拳をあてた。
ジークが、無言の気合いを放つ。拳は1