AWC 「春愁」(1)        悠歩


        
#3448/5495 長編
★タイトル (RAD     )  96/ 9/23  23:42  (178)
「春愁」(1)        悠歩
★内容


「春愁」

                         悠歩

 
 少し大きめのベッドの上で、仰向けのまま僕は覚えたばかりの煙草をくわえ火を
着ける。これの何処を見て紫煙と呼ぶのだろう。白い煙がゆらゆらと天井へ上って
行く。
 隣では一糸纏わぬ姿の彼女がその掌で、事を終えて元気を失った僕の一物を弄ん
でいる。
「ふふっ、ほんとに不思議ね。こんな可愛らしいものが、さっきまであんなに激し
く私のことを、攻めていたなんて」
 幼さに似合わない、そんな言葉を吐きながら。
 かつててはそんな淫猥な台詞ですら、愛しく感じられた。でも今はそれが癇に触
る。
「なあ、美里。俺たち、そろそろ普通に戻らないか?」
「えっ」
 両親の留守中を見計らっては続けてきた二人の関係に終止符を打つため、僕はそ
う告げる。
 燃え尽きた煙草の灰が、今にも顔の上に落ちて来そうだ。僕は身体を起こして、
枕元の灰皿に押し付けて煙草の火を消す。
 身体を起こした拍子に、僕を弄んでいた美里の手も振り解かれる。
「どうしたのよ、突然」
 やり場をなくした手で、今度は自分の髪をいじりながら思ったよりもずっと穏や
かな声で、美里は言う。
「やっぱり、いけない事だよ………。兄妹でこんな事をするなんて」
 そう、美里は血の繋がった僕の妹。
「勝手なんだ、真之お兄ちゃんたら。まだ子どもだった私に、無理矢理エッチな事、
したくせに」
 おかしそうに、本当におかしそうに美里は言う。でも美里の目は僕を見ていない。
自分の指に絡めた髪を、じっと見つめている。
 それは不機嫌なときにする、美里のくせ。
 「今だって子どものくせに」そんな言葉を、僕は飲み込む。
 言えた義理ではないし、言う資格もない。
 受験の苛立ち、思春期の抑えきれない性衝動。それは後から付けた言い訳。
 僕は小学生だった妹をレイプした。それがただ一つ、動かす事の出来ない事実。
 それをきっかけに始まった、兄妹での肉体関係。最初は泣いて抵抗していた美里
が、今では積極的に僕を求めて来るようになった。
 きっかけを作ったのは、僕のほう。それがいまさら、道徳的な事を言ったところ
で説得力なんて、ありはしない。分かっている。だけど、いつまでもこんな事を続
けていて、いいはずがない。なんとか終わりにしないと。
 僕は新しい煙草に火を着ける。
 別に喫煙が習慣化していたわけではないけれど、吸わずにはいられない。
「身体に悪いよ、お兄ちゃん」
 火を着けたばかりの煙草を、美里が僕の手から奪い取って、灰皿に押し付けてし
まう。
「吸いすぎると、おちんちんが起たなくなっちゃうんだってよ」
 煙草を消した美里の手が、再び僕のものに絡み付いて来る。
「駄目だよ」
 そっと美里の手をどける。けれどもまた、その手は僕のものに帰って来る。
 さっきまでとは違い、美里は身体を起こして本気になっている。白くて細い指が、
確実にそれを攻めたてる。背筋に快感と言う名の電気が走り、僕は美里の手を拒む
事は出来なくなる。
「女の子でしょう」
 僕の下半身に覆い被さりながら美里が言う。
「好きな女の子が出来たんでしょう」
 激しく僕のものを指で攻めながら。
 図星。
「いけない事だから、なんて言っちゃって。ずるいよ」
 そうだ、そうなんだ。結局僕は、相手を乗り換えようとしているだけなんだ。
 普通の恋愛をするために、普通ではない関係を終わらせたい。
 もちろん全ては僕のエゴが原因だ。美里との関係も、それを終わらせたいと言う
事も。
 けれど、いまの状態を終わらせようと言うのは、間違いではないはずだ。
 実の兄妹で関係を続けて行ったところで、明るい未来があるとは思えない。僕に
も、そして美里にも。
 そんな想いとは裏腹に、僕のものは美里の愛撫によって再び元気を取り戻してい
た。
「ほら、また元気になった。上手いでしょ、美里は? 知ってるのよ、お兄ちゃん
の感じるトコロ。誰よりも………誰も美里以上にはなれないわ」
 もう限界だった。一度果てたはずの僕の分身は、激しく美里を求めている。理性
なんてものは、若い欲望の前には無力だ。後先の事など、どうでもよくなってしま
う。
 僕は再び美里の中へ入って行った。
「私はね、いいんだよ………」
 終わった後、僕の耳元で美里が囁いた。


「お早う、坂城くん」
 爽やかな朝をより一層爽やかにする声。
 振り返るとボブ・ヘアーの少女が、にこやかに佇んでいる。
「お、お早う。雨宮さん」
 丁度逆光になっていたせいもあって、僕は目を細めて少女−−−雨宮由香里を見
る。きっと、逆光でなくても目を細めたかも知れない。それほどまでに彼女は僕に
とって、眩しい存在だった。
 淡い紫のブレザーにチェック柄のスカート。うちの高校の女子生徒みんなが同じ
制服を着ているのに、それはまるで由香里の為にあつらえられたように、よく似合っ
ている。
 散り始めた桜の花びらが風に舞い、彼女の美しさを演出する。
 中年の変態親父どもが、女子高校生の制服を高い金を出して売買している気持ち
は、理解出来るものではないが、彼女の着た物だったら別かも知れない。
「今度の日曜日、忘れないでね」
 桜色の唇が、僕にそっと耳打ちをする。
「ああ、大丈夫。絶対」
 僕が答えると、彼女は満足そうに笑みを浮かべ、「じゃ、お先」と校門へ消えて
いく。
 その後ろ姿を見送る僕の心は、満ち足りていた。
 校内でも最も人気の高い彼女と僕はつき合っている。まだ始まったばかりの交際
ではあるけれど。
 その事を思いきり周囲に自慢したい。けれどいまのところ、それは二人の秘密。
 進学校として有名な僕らの学校は、校則で男女交際を禁じている。今時馬鹿馬鹿
しいほど古くさい校則だけれど、優等生として通っている僕も彼女も、表向きそれ
を守らない訳にはいかない。
 もちろん、学校に知れたところで、決してやましい交際をしている訳ではないけ
れど。そう、僕と彼女はプラトニック。
 僕と彼女は………。


 日曜日は快晴。
 彼女との待ち合わせは、目的の遊園地の最寄り駅。知り合いの目を避けるためだ。
 僕は約束の時間より十分早く着いたけれど、五分と待つことはなかった。彼女も
僕より一本後の電車に乗って来たらしい。
「ごめんなさい、真之くん。待った?」
 たくさんの乗降客の中でも一際目立つ少女が、若草色のブラウス姿で駆けてくる。
「ううん、ちっとも。ほら由香里ちゃんだって、約束より五分も早いんだよ」
 僕らは学校の外では、互いに名前を呼び合う。僕は自分の腕時計を彼女に見せる。
「チケットは持ってきた?」
 と彼女。
「もちろん………」
 と答えながら、僕は胸ポケットをさぐる。が、そこからチケットは出てこない。
当然だ、チケットは財布の中にあるのだから。
「あ、あれぇ」
 わざとらしく慌ててみせる。
 僕としては、ちょっとした芝居っ気のつもりだったのに、彼女は本気にしたよう
だ。
「えーっ、どうしよう。チケットがないと入れよいよ」
 改札口の前に立つ『只今当日券の販売を中止しています』と書かれた看板を見な
がら、慌てた声で彼女は言う。
 人気の遊園地は休日にはすぐ、入場制限がかかるらしい。もっともその入場料の
高さは、彼女が父親から貰った招待券がなければ、アルバイトもしていない僕には
なかなか来る気になれないものがある。
「ごめん。由香里ちゃん、一人で行ってよ」
「いやよ、一人でなんてつまらないわ………そうだ、映画にしましょう」
 言い終わる前に、僕は財布からチケットを取り出し、彼女の目の前でひらひらと
踊らせて見せる。
「なーんてね」
「もう、真之くんのばか」
 怒った彼女の顔。でも目は怒っていない。
「ごめん、ごめん」
「だーめ、謝ったって許さない」
「まいったなあ………じゃあ、今日一日、由香里ちゃんの言うこと、なんでもきく
から」
「ホントに?」
「ホントに」
「うーん、それなら許してあげてもいいかなあ」
 我ながら子どもっぽいやり取りだと思う。
 でもそれが楽しい。
 いまこの瞬間こそが、僕の十六年の人生の中で最高の時だと思う。出来る事なら
このまま時間が止まってしまえばいいのに………心底願う。

 この時、僕の頭の中で美里の存在は完全に消失していた。


「ああ、今日は楽しかった」
 満面の笑みと言うのはこの事だろう。そしてその彼女の笑顔を見ているだけで、
僕の心も満ち足りていく。
 彼女の笑顔があるおかげで、ケチャップの味しかしない喫茶店のスパゲティーも
ご馳走になる。
「でも夜のパレードが見れなかったのが、残念ね」
「そうだね」
 彼女と一緒にいられる事で充実している僕は、別にパレードを見れなくても構わ
ないのだけど、相づちをうつ。
 あの遊園地では夜七時からの、電飾をふんだんに使ったパレードがウリになって
いる。
 けれど彼女の門限の都合で、五時に遊園地を後にして、この喫茶店で食事をして
いる。
「もう六時ね」
 店内の時計を見ながら彼女が言う。
 彼女の家の門限は日曜日でも六時半。今時、厳し過ぎるとは思うけれど、仕方な
い。引き留めて僕らの交際が彼女の両親に知れるのは、まだまずい。
 門限からも分かるように、特に彼女の父親は男女交際にはうるさいらしいから。
「ああ、じゃあそろそろ帰らないと」
 立ち上がった僕は、伝票をとろうと手を伸ばす。その手に、彼女の手が重なる。
「あっ!」
 二人の声も重なる。





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