AWC 幸せに至る病 VER.2 4   永山智也


        
#3362/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 8/16   0:30  (200)
幸せに至る病 VER.2 4   永山智也
★内容
「……ばれてたか」
 あきらめたみたいに首を傾げる中村君。
「あの子を守るため?」
「守ると言うか……要するに好きなんだ」
 もはや中村君は照れていなかった。
「誰にも言わないつもりだったのにな。……僕は綾辻さんが好きなんだ」
 その言葉に、僕は黙ったまま、やっぱりと思った。
「五年のとき、初めて同じクラスになって、暗い感じの子だなっていう印象し
かなかった。それなのに、何故か気になってさ。他の女子の考えてることはだ
いたい分かるのに、綾辻さんだけは違う。……あんまり喋らなかったんだぜ、
彼女」
「そうなの?」
「六年になってから−−違うな、槙君が来てから、活発になったんだ。正直、
うらやましいぜ」
「そんなこと」
 僕は相手から目をそらした。
「仲いいみたいだし」
「向こうから話しかけてくるんだ。そ、そりゃあ、綾辻さんには助けてもらっ
てるけど、好きなタイプは飛島さんだし」
 綾辻さんから囁かれたあの言葉は隠して、僕は言い訳めいた台詞を述べ立て
た。どうしてこんな、言い訳っぽくなるのだろう。
「分かってる。昨日、聞いて、実はほっとしていたんだ」
 中村君が笑っていた。
「さあて、そろそろ行かないとやばい」
 結局、今夜のことは持ち出せないまま、時間が来てしまった。

 幸い、天気が持ったので、昼からは遊園地に入った。
「一緒に回ろ!」
 僕達の班が何からにしようか相談していると、飛島さんから声をかけられた。
見れば、昨日の夜の女子六人が揃っている。
「いいよ。何から行く? コースター、行列してるからね」
「ウォーターフォールがいいわ。濡れるの嫌って、案外、少ないみたい」
 簡単にまとまり、移動。看板によれば、丸太を模した三連の乗り物に乗り込
み、水流をくねくねと下り、最後に滝壷に落ちる−−本当に落ちる訳じゃない
けど−−というものらしい。
 ほとんど待つことなく、全員が一度に乗れた。
 やってみると、最初の上りが長く感じられただけで、滑り出してみれば二分
ほどで終わっていた。水しぶきは確かに凄くて、僕は二つ目の箱に乗っていた
のだけれど、それでもかなり濡れてしまった。
「あーあ、被害大、だわ」
 僕のすぐ後ろに乗っていた綾辻さんも、頭から水を被ったらしい。
「タオル、貸そうか」
 自分は手巾で髪を拭きながら、彼女に言った。
「ありがとう。でも、私も持ってるから」
 そう答える綾辻さんの胸元に、僕の意識は吸い寄せられた。
 白の服が濡れて、ほんの少しだけど、透けて見える……。あんなに大きいの
に、下着、着けていないんだ。
「あ、綾辻さん、服も濡れてるっ」
 僕は急いで背中を向けてから、叫ぶように言った。
 中村君が、こちらを見ているのに気が付いた。−−いや、彼はきっと、綾辻
さんを見ている。
「平気。その内に乾く」
「そうじゃなくて……見える」
 僕は中村君の視線を気にしながら、声を低くした。
 後方の雰囲気が変わったようだった。綾辻さんがその場から去ったんだろう。
「えっと、トイレ、どこかしら?」
 綾辻さんの声。答えるのは、飛島さんだった。
「向こう、メリーゴーランドの右側にあったわよ。でも、どうかした?」
「えへへ。ちょっと水をもらいすぎたみたい」
「……相変わらず立派な胸ねえ、ほんとに……。着替えてくるのね」
「うん。みんなに待っててって、言っておいて」
「いいわよ。早くね」
 遠ざかる靴の音。
 着替え中の綾辻さんの姿を、僕は想像していた。

 二日目の宿は洋風だった。
 天井の高い入口のところで、僕と中村君は荷物を持ったまま、それまでの班
から離れた。
「待ってよ」
 綾辻さんが続く。格子柄の青っぽい服に着替えていた。
「あのさ」
 階段を昇りながら、中村君が口を開いた。話す相手は綾辻さんだ。
「今晩のこと、他の女子にはどう言ったんだろ?」
「別に何も」
 つれない返事……のように、僕には聞こえた。
「部屋割りが変更になって、私だけよその部屋に移るって」
「その、僕らと同じ部屋だとは、誰も知らない?」
「一人だけ。飛島さん、副委員長だから、先生から聞かされているはずよ」
 僕が、えっと思ったところで、部屋の前に着いていた。
 鍵は中村君が持っている。みんなに見られない内に、早々と入った。
 荷物を下ろしたところで、同じ質問を返された。
「槙君達は、他の男の子達にどう説明したのかしら?」
「似たようなものだけど」
 僕が答える。極めて簡略かつ曖昧に。
「問題は、友達が訪ねてきた場合だな」
 鍵をもてあそんでいる中村君。
「どこかの部屋に、こっちから先に押しかけたらいいんじゃない?」
「そうか」
 顔を見合わせる。三人とも笑みを浮かべた。
「だったら、早い方がいいよ。行こう」
「スリッパ、どこにある?」
「鍵を忘れないでねっ」
 慌ただしく、だけど慎重に部屋を出た。
 僕と中村君は、藤倉君達の部屋に向かった。

 昨日と違い、大浴場が二つもあるので、風呂は男女別に一組全員が入れた。
全員と言っても、僕らの組の男子は十三人だから、かなり広々と使える。それ
に時間もたっぷり、余裕がある。
「一緒の時間だと、覗きに行けない」
 なんてことを、誰かが冗談めかして言ったのがきっかけだった。
 女子の誰それの裸を見たことがある−−どうやって?−−一年のとき、水泳
の時間の着替えが一緒だっただろ−−なーんだ、とか、誰それって今でも漫画
絵の下着を履いている、誰それは胸ないくせにもう着けている、というような
他愛ない話で盛り上がる。
「誰のが一番、見たい?」
 悪のりして、今度は人気投票。
 飛島さんの名前を挙げる声が多い。
「でも、スタイルいいのは綾辻だよな」
 彼女の名前も出た。どうやら、彼女は誰にとっても二番目に好きな女子とい
った感じがある。僕も、飛島さんの次なら、綾辻さんがいいかもしれない。
 続く話に、僕は髪を洗うのに集中するふりして、聞き耳を立てる。
「そうそう。特にあの胸。でかいのにブラジャーしてない」
「何センチあるかな」
「おーい、保健委員。記録表見て、知ってんじゃないの?」
「俺が言ったって言うなよ。……綾辻さんは四月で、八十八センチだった」
「八十八! すげっ」
「あれだけ細いのに、そんなにあるのかよ」
「ちなみにウェスト五十六、ヒップ八十三」
「すげー!」
「四年まで身体測定、一緒だったじゃんか。だから僕、見たことあるんだけど、
そのときから、もう大人みたいだったよ」
「まじで、見てみたいよな」
 聞いている内に、昼間のことを思い出して、僕は焦った。身体がおかしくな
る。すぐに湯を頭から被って、湯船に飛び込んだ。
 隣に、中村君が続いて入ってきた。
「やばいよ」
 彼らしくない、気弱な声。
「上がったら、綾辻さんの顔、まともに見られないかもしれない」
「僕もおんなじ」
 言ってから、ふと気付いた。
「中村君も見てたんだ。昼、遊園地で……」
「嫌でも目に入った。見てないふりして、目はそっちに行ってしまうっていう
感じで」
「委員長でも、エッチなこと、たまには考えるんだね」
 少し安心する僕がいる。
「当たり前だろ。好きな相手となったら、なおさら」
「そうかあ」
 じゃあ、僕が綾辻さんに感じる変な気持ちは、別に彼女が好きとかどうとか
いうのとは違うんだ。やっぱり、飛島さんがいい。
「何、こそこそ話してんだ?」
 藤倉君が割って入ってきたので、僕らは口をつぐんだ。

 決められた就寝時刻が迫っていた。十分前には全員揃って部屋にいて、点呼
を受けなければならない。
 僕と中村君は、他の男子の部屋を出て、自分達の部屋に向かった。気分だけ
何だか上気しているのに、足取りは重い。二人の間に会話はなかった。ただ一
つのことを除いて……。
 鍵は夕食のときに、綾辻さんに渡してある。彼女が戻っていなければ、部屋
には入れない理屈だ。
 しかし、部屋の前まで来てみると、戸が薄く開き、光が漏れていた。
「遅いよ」
 そろそろと扉を開けた途端、不平そうに言われてしまった。
 すでに布団が敷かれていて、その真ん中に、綾辻さんはちょこんと座ってい
た。いつの間に着替えたのか、旅館の浴衣を着込んでいる。白地に紺色で模様
が入っていて、不思議と綾辻さんに似合う。
 かわいい。本心からそう感じた。
「布団三人分、一人で敷いたんだから」
 ぼけっとしてる僕らに対し、頬を膨らませる綾辻さん。
「あ、ご、ごめん。その、ありがとう」
「どういたしまして」
 ようやく笑ってもらえた。何だか安心できた。
 戸が鳴った。
「全員、いるかしら?」
 開けながら、川西先生が顔を見せた。
「はい」
「いるようね。九時以降は、意味もなく部屋の外を出歩かないように。九時十
五分になったら自動的に消灯されるから、早く眠るようになさい。明日の朝は」
 と、旅のしおりに書いてあった注意や連絡事項を繰り返したあと、先生は片
手を頬に当てて、考える様子を見せた。
「それで……本当に大丈夫よね?」
「何がですか」
 わざとなのか、真実、分からないのか、綾辻さんが無邪気そうに聞き返す。
「その、男子と女子、同じ部屋に泊めるのって、先生も初めてだし」
「やだなあ、先生。心配いりません。ね、槙君、中村君?」
 僕ら男子の顔を順に見つめてくる。
「大丈夫です」
 中村君が、余計なことは言わず、ただそれだけ答えた。
「ここまで来て心配しても無駄ですよ」
 綾辻さんは、最初から一貫してあっけらかんと振る舞っている。
「それじゃあ、くれぐれも……。とにかく、ちゃんと寝ること。いいわね」
「はい。おやすみなさい」
 扉は閉められ、先生の足音が遠ざかる。
「さて、邪魔がなくなったところで」
 突然、綾辻さんが言って、振り返った。どきりとした。
「まぁた、冗談言って。からかわないでよ」
 中村君が素早く反応した。そうか、冗談か。
「ばれてた? ふふ」
 笑みを見せながら、立ち上がろうとする綾辻さん。浴衣が突っ張って、胸の
大きさを強調する。当然、子供用の浴衣だけど、彼女には少し小さいみたいだ。
「二人とも、浴衣は着ないの? ここにあるわ」
 綾辻さんは、入口近くまで行くと、壁に埋め込みの棚を開けた。
 僕らは昨日と同じ、学校の体操服のまま。と言うよりも、他の子だって、み
んなそうだ。浴衣を着ているのは数えるぐらいだと思う。
「遠慮しとく」
「僕も。着替えるの面倒だし……君がいるから」
「私は後ろ向いてる。着心地、気持ちいいんだから」
 熱心だ。
「それに、私一人浴衣だと、恥ずかしいじゃない」

−−未了




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